13 余計なことを言っちゃいましたね

「え?」 

「なので、これくらいが正常な反応だと思います」

「でも、それって友達なの? 他人とほぼ変わらなくない?」

「気軽に付き合いやすい関係性だと思いますよ」

「そうかな」

「よく考えてみてください。名前も素性もわからない十万人から、いきなり親友扱いされても、それはそれで困りませんか?」


 たしかに十万人の中には、当然相性が悪い人や、犯罪に手を染めるような人だって混じっているはずだ。

 そんな人物から一方的に好意を寄せられれば、危険な目に遭うかもしれない。


「それに、十日間の記憶を友達化した人たちが忘れることはないんです。気が合いそうな方がいれば、仲を深めていけばいいのです。十日が過ぎたとき、北村さんのそばにいてくれた人こそ本当のお友だちだと思いますよ」

「……頑張っては、みるよ」


 ヨルはそう言うが、あまり自信がない。結局は自分の努力次第ということじゃないか。


「あ、そういえば! お掃除中に見つけたんですけど……」


 ヨルは思い出したように両手を叩き、部屋の隅に重ねてあった書類の束から、一枚の封筒を抜いて僕に差し出してきた。


「もしかして……中、見た?」

「いけませんでしたか?」

「いや、残しておいた僕が悪いんだけどさ」


 僕は首を振って、彼女から封筒を受け取る。中には手紙と往復はがきが同梱されていた。ヨルの好奇心に輝く視線に耐えきれなくて、渋々手紙を広げた。

『藤島市立北中学校 同窓会のご案内』という見出しから始まった文面には、参加を求める一文とともに、日時と場所が記載されている。


 幹事の『野本光』という懐かしい名前を見て、学生時代の記憶が脳裏をよぎる。同時に苦々しい思いもせりあがってきて、つい顔をしかめてしまった。


「これ、今週の土曜日じゃないですか」

「そうみたいだね」

「参加しないんですか?」

「もうとっくに返答期限は切れてるよ」

「連絡してみたらいいじゃないですか。ほら、ここに電話番号が載っていますし」


 ヨルの素直な言葉が、すごく面倒だ。


「いいよ、いまさら。捨てといて」


 まだ何か言い足りなそうなヨルに、僕は封筒ごと強引に押しつける。


「行ったところで無駄だよ。どうせ話し相手なんかいないし」

「そうでしたか。すみません。余計なことを言っちゃいましたね。たしかに、友達がいない北村さんからすれば、地獄の時間ですよね」

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