第24話 貴女のターンですよ

「あ、あの、あなたは?」


「俺は俺の彼女の悩み事の解消の為に来た」


「彼女の悩み事?」


「後、ついでに仕事だな」


 益子は見覚えの有る気のする顔を見て首を捻るが、それが誰なのかまでは判っていない。

 昨晩美月と一緒に居たカラオケ店の店員とは全く気が付いていない。だがそれは無理もない事だ。

 今の天翔は何処で着替えたのか高校の制服でもカラオケ店の制服でもなく、品のあるビジネススーツにその身を包んでいる。


「あの、取り敢えずこれでも着て」

 

 天翔はこんな事もあろうかと持参させた女性用のスプリングコートを益子に手渡した。

 

「きゃっ!」


 ようやく自身が異性である天翔の前で、スカートは剥ぎ取られブラウスも開けている状態ですある事に気が付く。上も下も下着が丸見えの状態である事を自覚すると、恥ずかしさに襲われる。

 半ばパニックになり慌てて天翔から上着を奪う様に受け取ると、大急ぎで羽織り肩をすくめる。


「あっ、ありがとうございます」


 小さくそれだけ言って俯いてしまった。



「おい、アンタ何なんだよ?」

「まさかコイツの彼氏?」


「生憎だが違うな。彼女なら他にちゃんといる!」


 金切り声の質問に対して天翔は毅然と言い返す。


「ふ~ん。彩花、残念だったねぇ」

「いい男は彼女持ちだってよ」


 それを言われると益子は何故か余計に恥ずかしくなっていった。


「それはどうでもいいんだ。それよりもお前らが単純なお陰でこっちの望む様に動いてくれた。欲しい映像が撮れて感謝している」


「ナニそれ?」

「映像だって?」


 彼女らの反応は無視して、天翔は右手を高らかに上げると指をパチッンと鳴らす。


「なっ、何?」


 するとウィーンとモーター音を立ててトラックの荷台のコンテナの側面が開き上がる。トラックの後から見ると鳥が翼を上げたかの様に。そして数秒後には荷台に設置されている巨大ビジョンが姿を現した。


「おい、何なんだよ!」


 金切り声は無視して天翔は合図を送る。するとその場に居る全員がビジョンに注目する中、映し出された映像は先程までその場で行われていた益子への凶行の一部始終だった。


「なっ!」


 絶句したのは益子だけでなく、3人の方も言葉を失った。


「ちょっとアンタ、どっから録った?」


「ここまで撮られてまだ気が付かないとは、………素晴らしい!」


 天翔は先ほど指を鳴らした右手を上げたまま開くと、手のひらを天に向け顔は黒塗りの高級車に向ける

 数秒後、そこに音も無く手のひらに収まる程度の小型ドローンが降り立った。


「この大きさ、この静音性、この暗さでのこの画像、操縦性も文句無しだ!」


「なに言ってるの?」

「ドローン?」

「全然気が付かなかった!」


「後はバッテリーか。それとピントの調整に改善の余地有りだな。もっと早くてシャープに出来れば文句無しだが、うーん、それはグループ内での技術供与で何とかなるかな」


 ブツブツ呟く天翔は、買収予定企業のドローン技術をこの場で試したのだ。なので売り込む方としてはより良い条件で契約すべくアピールに必死だ。

 米国から来日した役員も3台の内の1台に乗り込み事の推移を見守っているが、天翔の評価は同時通訳され満足気な表情だ。

 今回、アオイホールディングス特別調査班のスタッフが実際に使う事でまたとないプレゼンとなったのだから。


「玲子さん、契約書は?」


「後は代行のサインを頂くだけです」


「じゃあ戻ったらします」

 

 天翔はハンズフリーイヤホンで車中の玲子との会話を終えると、3人組を睨み付ける。

 その上で天翔は益子の肩に手を当て優しく語り掛ける。


「益子彩花さん、よく頑張りました。ここからは貴女のターンですよ!」


「私のターン?」


 キョトンとする益子を3人組から守る様に立つと、天翔は改めて睨み付ける。


「何だよお前!」

「彩花、調子乗ってんじやねーよ!」


「おいお前ら、黙った方が身のためだぞ。今この瞬間からお前らの人生の主導権イニシアチブは此方の益子彩花さんが握っているんだが、悪過ぎる頭では理解出来ないか?」


「ハァ?」


 3人揃って何の事だか判らない様だ。


「仕方ない、判り易く言ってやる。壬生春美、塩原秋絵、大田原真冬!」


「何だよ、私達の名前なんか彩花から聞いたの?」


「いや、彼女は何も言わなかった。だから調べた。お前達が中学から彼女をイジメていた事も知っている。当時の担任が何もしなかった事もな!」


「彩花が言って無いのなら何で判るんだよ?」


「それは企業秘密だ!」


 益子と3人組に関係するあらゆる物に不正にアクセスしたなんて言える訳も無い。絶対に秘密だ!


「イジメなんて言うがな、お前達のしている事は明らかな違法行為。立派な犯罪だからな!」


 自分の事は思いっ切り棚に上げるが、天翔は構わずに続ける。


「犯罪者は報いを受けなければならない!」


「何がイジメだ犯罪よ!」

「アタシら陰キャでぼっちの彩花を相手してやっただけじゃん!」

「彩花、ウチ等を裏切る訳?」


「裏切るという言葉は、彩花さんがお前らを友人だと認めて初めて適用される。故にお前らがその言葉を口にする資格は無い!」


「彩花、コイツを何とかしな!」


「残念。ご丁寧にこれまで金銭を強要していた事も自供してくれたし、彩花さんに売春紛いの事を強要した事も裏を取ってある。後は彩花さんが警察に届けるかだが、そんなもんじゃ俺の気が済まない!」


「何だよ、アンタの気が済まないって?」


「俺の彼女を悩ました落とし前は、たっぷりと付けさせてもらう!」


 天翔が動く理由、それは美月以外は有り得ないのであった。

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