第23話 真相
天翔のスマホには特別調査班からの詳しい情報が秘書室経由で小刻みに入って来る。
『現在地は…板橋区の成増付近に居るのか』
『相手は3人か。それにしてもウチの調査チームもよくやるな。違法だけど』
池袋駅で東武東上線に乗り換えた天翔は、今度は自らが手を汚す事を覚悟した。
◯▲△
「お前バックレやがって!」
「あたしらに逆らったらどうなるか分かってるんだろうね?」
「お願い、もうやめて」
東上線に並行する幹線道路、川越街道から外れた倉庫群の裏で益子は3人の女子高生に囲まれ身を小さくしている。
助けを呼ぼうにも辺りは既に暗くなっており、人通りは全く無い。
代わる代わる益子を叩きながら金切り声を上げる3人の女子高生に対して蚊の泣く様な声で益子は訴え続けるが、そんな益子の訴えなど聞き届けられる筈もなかった。
「まあまあ、落ち着きなって」
3人の中の1人だけは落ち着き払って2人をなだめる。
「彩花、私達って友達だよね?」
その言葉に益子は潤んだ眼を大きくしただけで、他の動きは止まってしまった。
「友達の私達がお金に困っているって知ってるよね?」
益子はただ黙って聞いている。
「でももう、お金を貸せないなんて友達として悲しいよね。親の財布から抜いて来いって教えて上げたのにほんの少ししかしないし」
「ウチは母子家庭で、お母さんは弟の病気にお金が掛かるから必死に働いているの。そんなお金は取れない!」
「甘ったれてんじゃねー!」
「お前の弟と、私らが遊ぶのと、どっちが大事だと思ってるんだよ!」
3人の内の2人は叫びなから蹴飛ばして来る。益子はひたすら泣いて耐えるしかない。
「だから、お金出してくれるおじさんを紹介して上げようって言うのに、土壇場でバックレるんだから」
益子は必死になって反論しようとするが3人掛りで捻じ伏せられる。
『誰か助けて……』
◯▲△
『益子彩花は中学校でイジメられていました。イジメていたのは3人。その3人と益子彩花は別の高校に進学しましたが、最近になり自宅周辺で待ち伏せされて金銭の要求を受けていた模様です、か』
成増駅で下車した天翔はスマホを上着のポケットに収めると、人通りの多い商店街を歩き出した。
『よく調べたな。でもやっぱり、世間一般を騒がせたハッカーまでウチに居るってバレたら拙いよな。他にも色々と非合法な調査をしているし』
天翔は念の為に、関連会社の何らかの役職に警察官僚の天下りを迎える様に指示を出した。
◯▲△
「もうめんどくさい!」
「剥いちまって写真撮ろう」
「とびきり恥ずかしいのを撮っちゃえば、彩花は一生あたしらの奴隷だよ!」
3人の手が一斉に益子の制服に伸びて来る。
ある者の手は上着に、またある者の手はブラウスのボタンに伸びた。
「いや、やめて!」
「うるせぇんだよ!」
益子の涙の訴えなど聞き届けられる訳もなかった
「おい、これを動画に録っときな。チクったらどうなるか分かっているだろうけど」
ブラウスのボタンが剥ぎ取られ前が開けている。
「やだ、やめて!」
必死に泣きじゃくって抵抗するが、女子高生同士と言えども3対1だ。為す術も無くスカートまで剥ぎ取られてしまった。
「誰か助けて!」
「こんな所に誰も来る筈ねーだろ」
「バーカ!」
「ねぇ、この動画見せればコイツ、昨日のおじさんよりもっと高く売れるかな?」
いよいよブラウスの開けた隙間に手が伸ばされる。
ブラに手が掛かった所でより一層激しく抵抗し、声も大きくなっていった。
「いや、助けて! お願い!」
「お前を助ける奴なんて居る訳ねーだろ!」
「陰キャでぼっちのお前があたしらの役に立てるんだ、喜んで脱ぎな!」
「生きてても仕方ない陰キャ! 家族以外の誰かに優しくしてもらった事も無いぼっち!」
『優しくしてもらった事、御神本先生…』
プップップップーッ!
益子脳裏に昨夜、美月に優しく抱き締められた感触が思い起こされた時、1台の箱型トラックがクラクションを鳴らし、ライトを上向きにして突っ込んで来た。
倉庫に用事の有るトラックではない事は、益子たちの近くに停まった事からも明らかだった。
そしてトラックのすぐ後ろには倉庫群には不似合いな黒塗りの高級車が3台控えている。
その内の1台から降りた男を見た瞬間、益子は自らの服が剥ぎ取られる恐怖よりも驚きの方が大きくなった。
自分に歩いて近寄って来る蒼井天翔を見て。
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