第6話

私のいる異世界では動物のお肉一つ取ってみても大変だ。

牛、鶏、豚――――――地球ではポピュラーだった食肉代表畜産物、勿論異世界にもそれに近い生物は存在する。


但し、飼育されてる数は圧倒的に少なくてほぼ御貴族様用と言って良い。

ではそれ以外………庶民はどうしてるのかと言うと、牛、豚に似通ったものは完全に野生に棲息してるものを狩ってきたのが主。

でも何より重要なのがこの異世界では『向こうも肉食』という事なのよね。


命を奪うのなら、奪われる覚悟もするべきだとは誰の言葉だったか?

誰も言ってなかったっけ?


毎年国の何処かでミデ(牛のようなもの)とランハ(豚のようなもの)の群れに挑んでは殺された人たちの数が小さく新聞記事に載る。

それを見た日には人間を食べた相手を、此方も食べるのか………業が深い世界だわ。と、朝から何とも言えない気分になる。文句言いつつも結局は食べるんだけどね。

お肉に罪は無いし。


そうした事情でお肉の獲得はそういう命懸けの作業になるから、市場に出るお肉もちゃんとしたお店で買うと値段がとても高くなる。

もうちょっと安価に手に入れたいなら保存状態が悪くて腐りかけてるお肉を安く譲ってもらうか、何のお肉か表記してないような怪しいお店に行くかのどちらかだ。


以前話に出た鶏肉をヤバい油で素揚げして売ってる屋台はどうなの?って?


正確にはちゃんと鶏肉(腐ってるかまだ一歩手前か)の時と、鶏肉っぽい何かの肉(明らかに色味が違う)の時があるみたい。元々そうしたお肉で育った人たちに違いなんて判らないんだからクレームも特に無いらしい、ホントヤバいよね?


で。


当然のように我が家は何の表記も無いお肉で育ちました。

父、母、兄、姉たちの優先順なので私の所に来るお肉はもう一欠片とかそんなだったのが救いかな。姉たちに「羨ましいでしょう?」みたいな視線でお肉をこれ見よがしに食べられたりしてたけど、私からすれば「どうぞどうぞ」って感じだった。何を食べてたのか厨房係を務める今になっても不明。何か怖いのでこれから先も特に自分から進んで知ろうとは思わない。

それを食べてお腹も壊さず、今日まだこの世界に生きている事を大いに喜ぼうじゃないの。


いろいろあるけれど、私………生きてます。


店で出すお肉の切れ端なんかを貰って家に持って帰る時がある。

勿論オーナーさんやガストンさんからも許可は貰ってるよ?

初めて我が家に持って帰った日は私以外の家族全員が狂喜乱舞した。

何せ結構な量があったからね、ご近所さんにもここぞとばかりに配り歩いて私の勤め先をさり気なく自慢して回っていた両親の恥ずかしいこと恥ずかしいこと。

姉たちがアレだから私程度を自慢したくなる気持ちも解らなくもないけど、姉たちからの視線が物凄く突き刺さってくるから止めてほしい。


父や兄のお給料日に買った謎肉を、「美味しい美味しい」と言いながら家族全員で食べるのが細やかな贅沢だった我が家にお肉革命が起きたのでした。

そしてそれは新たな弊害も引き起こした。


私の持って帰ってくるお肉に比べたら今まで食べてた謎肉って………。


そう。家族の舌が良いお肉の味をしっかりと?美化されて?覚えちゃったのだ。

そしてそれは私の家族だけに止まらず、なんとご近所さんたちまで私を見ると毎回「あのお肉美味しかった」と言ってくるのだ。

どうでも良いけど帰宅途中でご近所さんと遭遇して、私が何も持ってないのを確認して明らかに落胆するのヤメテほしいんですけど!?


【悲報】私ご近所さんから【肉の子】と認知される。

どうしよう………「愛してる」って嘘でキャリアを積んでやろうかしら?

………私程度じゃ良い所行ってパパ活止まりにしかならなさそうだから止めとこ。

それなら娼館で働いた方がマシだもの。だって病気怖いし。


えーっと何の話だっけ?


あぁ!そうそう!お肉の話。

私程度じゃご近所さんたちの分まで考慮して持って帰るのも一苦労だし、ずっと集られるのもメンドいから「あの良い肉食べたきゃお店に食べに来てね♡」ってオブラートに包んでご近所さんたちに言ってやりましたよ。


Q:一度極上の味を知って尚謎肉が食べられるのか?


A:それは知らんがな(´・ω・`)









「――――――って事があったんですよ~」


そんな笑い話を披露した結果、皆さん見事にドン引きしてました。

どうしてリタまでドン引きしてるかなぁ、同じ平民居住区の住民なのに。


「おチビよぉ………そんな調子で給料なんて持って帰ってよく今まで無事で居られたなぁ」


何故かガストンさんに優しい目をしてぐわしぐわしと乱暴に撫でられた。


「まぁお給料日は父と兄がお迎えに来てくれますから」


そう。お給料日に限っては父と兄が早めに仕事を切り上げてお迎えに来てくれる。

その光景を思い出したのかレンブラントさんが遠い目をしている。


「あぁ清々しいほどに給料日にしか来ないな」

「ニアちゃん大丈夫?ちゃんとお給料は手元に残ってる?」


クラエットさんが心配そうにそう訊ねてきたけど、まぁしょうがないよ父と兄、母よりも私の稼ぎの方が良いんだもの。

それにこの世界では年長者が優遇されて当然の社会みたいだし、姉たちが何処かへ嫁いでくれたら確実に負担が減るから両親も兄も姉たちを着飾って何処ぞの男を捕まえて来いという方針みたいだからね。

姉たちのお小遣いにほぼ消えて、私の手元にはほとんど残らないよ。


「それで言ったらリタの方が大変だと思いますよ?ウチより大家族なんですから」

「私?私の家はニアの家ほどじゃないわよ、だってウチはほとんど男兄弟だもの。家に幾らかは入れるけれど、基本自分が稼いだお金で生活するのは当然じゃない。だから私も幾らかは親に渡すけどお給料の大半は残ってるわよ?」

「何ソレずるい!!ウチのお姉ちゃんを一人くらい貰って!!養って!!」


今までリタの事仲間だと思ってたのに!!何かちょっと勝手に裏切られた気分。

それを誤魔化すためにリタの腰にギュッと抱き着いて頭でグリグリする。


「痛い痛い。それにニア本人なら未だしも、ニアのお姉さんたちは絶対無理ね。だってあの人たち性格の悪さが顔に滲み出ちゃってるって有名じゃない」

「そんなに有名なのか?」


レンブラントさんの質問にリタは大きく頷いてから。


「何であの姉妹の中でニアだけがまともなんだろうって疑問に思われてる程度には」


何ソレ知らない、私まとも枠だったの?

余計なお世話だけどそんなことを疑問に思わないでほしいね。


「ニアにボロ着せて働きに出しておきながら姉たちは綺麗に着飾ってるって」


あ、それ絶対私のお給料から支払われてるわ。

もしかしてお肉の件が無くても、私って結構ご近所さんたちからの『見守り』対象だったりした?これからもよろしくって意味でお肉持ってった方が良い?


そんな疑問が顔に出てたみたい、皆一斉に頷いたのでした。

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料理音痴さんは知識チートがしてみたい 暑がりのナマケモノ @rigatua

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