第4話 じっちゃんの家
さて、じっちゃんの山の家は古民家で紹介される農家そのもの。
家の前に車を停め、懐かしいじっちゃん家の玄関を開け大きな土間の中へ、土間の明かりを点けて上がり框から居間へ入る。
縁側の雨戸を全開にして、陽の光を部屋の中いっぱいに引き入れ風を通す。各部屋の仕切りになっている襖も全開にした。
座敷を通って奥の納戸へ入り、布団を縁側まで運び出し縁側前の物干しに掛けて陽の光にあて、今夜の安眠の準備をまずおこなった。
座敷の奥にある仏間を開けて、じっちゃん、ばっちゃん、そして御先祖様にご挨拶。
次に、庭に出て片隅にあるあの小さな社の湯呑みの水と榊を交換し、買ってきたお団子を捧げてご挨拶。
最後に、大黒柱(本当に真っ黒に塗ってあるデカい柱なんだな)の横に設置されている神棚の榊を新しいものと交換して、お詣り。
一連のご挨拶が終わったところで、車からクーラーボックスを降ろし、台所の冷蔵庫に肉や魚、野菜、果物などを収納。
一息ついた所で、買ってきたコンビニ弁当でお昼にする。
縁側は陽射しが暖かく、このまま寝転んで日向ぼっこしたくなるが、家の周りの点検が先だ。
土間に戻り、再び前庭に出る。
家の横に建っている、農家に必須の納屋の鍵を開けて中を確認。
そこには土建屋かい! と言わんばかりに土木建築用重機が並んでいる。生前じっちゃんが買い揃えたもので、止めようとしたうちの親父とじっちゃんが喧嘩した因縁のものだ。
たしかに田んぼや畑作り、開墾のために重機を使えれば、生身よりはるかに簡単苦労なくできると思う。
年取ったじっちゃんが欲しがるのは無理無いことだ。
僕は残念ながら特殊車両の免許を持ってないので、今のところ宝の持ち腐れなんだけどね。
出来るだけ早く自動車学校にいって免許取らないと、近い将来、親父達に売払われる可能性が高いじっちゃんの遺産の一つだ。
もちろん、耕うん機などの農業機械なども一緒に並んでいる。
車両の状態をざっと確認したあと、家と田畑をぐるりと囲み設置されている電気柵のコントロールパネルをチェック。 異常無い事を確認。
電気柵やフェンスは大事だ、それらがないとイノシシ、シカなどの野生動物によって作物は食い荒らされ全滅の憂き目にあう。
植林した杉や檜なんかも食害からは逃れられない。
野生動物との戦いの中で、田舎の田畑や里山は維持されている。
都会の生温い感覚では田舎は生きていけない、ある意味修羅の国なんだから。
庭から畑へ出て、電気柵のそばまで移動。
柵に沿って柵の周辺の確認をおこなっていった。
グルっと柵をチェックしながら一周して庭に帰ってくる。
ついでに野菜も収穫。
家と畑などを囲む電気柵だけでも、結構な距離になる。
明日は、山の敷地を囲むフェンスの点検だ。間違いなく、まる1日の仕事になってしまうが、もし破れや穴が空いていた場合、早急に修理しないと侵略者の侵入を招く事になる。
山に生きる場合、大事な事だ。
早くも夕方になってきたので布団を取り込み、給湯器の風呂スイッチを入れて、お風呂にお湯をはった。
山の日暮れは早い。
夕食の準備の前に、開け放していた戸や窓を閉めて、縁側の雨戸も閉じる。
台所はかって土間だった一画だ。
そこにあったかまどを撤去して、居間から一段低い床を張り、流しやガスコンロを設置、近代的なキッチンとなっている。
風呂、トイレも土間の一画にあり、排水は複合浄化槽に流れ込むようになっている。
また、水道は庭の一画にある井戸に電動ポンプを取り付け、汲み上げている。
今日は焼肉にするつもりだったので、ホットプレートを棚から取り出し、茶の間のテーブルの上にセッティング。
キャベツ、シイタケなどを一口大に切ってボールに入れてホットプレートの横に置く。買ってきた肉のトレイもその横に。
冷蔵庫から缶ビールを出して、また、炊飯器のご飯を確認。
肉や野菜をホットプレートの上で焼いて、タレを付けて口に放り込む。単純にしてお手軽だけど、これがうまい。
茶の間のテレビを点けて見ながら、ビール片手に一人焼肉で腹いっぱい堪能する。
片づけは明日にして、居間に布団を敷き、ホットプレートのコードを引き抜いて火の用心を確認。
酔を冷ましてから、寝る前にお風呂に入る。
町のアパートの倍以上の空間を自由に使えと言われても、小心者の常として、物を持たない貧乏人根性の僕は、居間の真ん中ではなく茶の間との敷居に沿って敷いた布団に寝っ転がった。
持ってきた文庫本を眠たくなるまで読んで、じっちゃん家の最初の夜はふけていった。
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