第41話 師弟


 バレンタインに帰ってきたら街から追放されたダインスレイブと再会してしまった。

 本来であれば私は嬉しいんだけど……スレイブはフーリアを危険に晒した。それはいくら恩のある人でも許せない。

 炎の剣を抜き放ち、スレイブに向かって構える。


「久しぶりに稽古を付けて上げる」

「……」


 稽古……?こんなつまらない稽古に何の価値があるの!!

 

 剣を力強く握り、スレイブに向けて振り下ろす。炎を纏った剣がスレイブの魔剣を捉える。

 全力で叩き潰す勢いで斬りかかった。スレイブは先程まで魔剣を構えていなかったのに……あの一瞬で私の剣に合わせた!!


「速い……!」


 そして何より純粋な力が強い。

 炎を纏って威力を底上げしているのにこっちが押される。


「何してんのよっ!!」

「そんなこと言われたって……!!」

 

 押されている私の事を見かねたのかフーリアが横から入ってくる。

 剣を抜いてスイレブの胴体を狙う。

 さすがのスレイブも1つの剣で2つの剣をしかも別方向からの攻撃を受け止める事は出来ない。たまらず後ろへ下がってフーリアの攻撃を回避する。


「ほぅ……なかなかいい筋をしている」

「はぁ……逆にあなたの弟子の剣筋はイマイチなんだけど……ちゃんと教えてるの?」


 え?なんで急に私の悪口……?


「教えたさ……でもほら、才能ないし。まあそこが可愛いんだけど」

「……」


 何これ?なんでこんな状況で私は説教されているの?

 

 私が急なダメ出しに戸惑っているのにフーリアとスレイブはそんなことを気にせず2人は剣と剣をぶつけ合う。

 鍔迫り合いが続く……。フーリアの剣は無名のアーティファクトなのに多分、聖剣を持つ私が打ち合うより長く戦えている。


「ルーク!剣術は極めれば弱い力でもこうして受け止めきれるんだよ!!」

「私がルークの剣を受け止めたのもそれだ。君はほら、力任せに振るい過ぎだね」

「あの……これ、私に対しての説教をする会ですか?」

 

「「いや?」」


 2人はとても息の合った返答をする。

 

 ただ2人の戦いを見て改めて感じる……やっぱり私には剣術の才能が無いみたいだ。正直ムカつくけどそれは分かっている。

 剣術でやり合いたいと思う一方でこれは私だけじゃなくフーリア……そして後ろに居る子の命が掛かっている。

 

 幸いここには私達しか居ない。なら……悔しいけど得意な魔法に切り替える。

 私は剣の刃をスイレブに向ける。そして塚をやり投げの方式で握りそのまま投げた。

 

 当然その程度の攻撃をスレイブは避け、フーリアはその愚行に何をやっているんだと馬鹿を見る目で私を睨んでくる。

 スイレブも一瞬は何をしているんだ?という顔をしていたが瞬時にこれが私の作戦だと理解したのか意識を投げた剣へ向ける。

 

 さすがに私の力を良く知るだけあって察しが良い。

 

 スレイブは宙を舞い、飛んでくる炎の剣を魔剣で受け止めようとする。私は炎の剣と魔剣が触れる瞬間に炎の剣の軌道を変えて師匠の懐まで潜り込ませる。

 そして塚でスレイブのお腹を思いっきり突いた。


「ぐふっ!?」


 これは私の魔法、と言っても特別なモノではなく、誰でも修練を積めば使える事ができる炎を操る魔法。

 剣に炎を纏わせてそれを操ったに過ぎない。

 

 結構強めに突いたからスレイブは仰け反り体勢を崩す。そこへさらに氷の魔法で追い討ちをかける。

 槍を象った氷の塊がスレイブを襲う。体勢こそ崩したものの、剣を握ったままスレイブは無理矢理腕を挙げて氷の槍を剣で受け止める。


 だけどうまく踏ん張れないせいで後方へ吹き飛ばされ、その光景を見ていたフーリアは呆気に取られていた。

 バカな行動をして呆れた様子はない。純粋な驚きだろう。


「あ、あなた……氷の魔法も使えるの?」

「まあね得意魔法は炎帝剣と相性が良いから炎なだけで属性有りの攻撃魔法から無属性の付与魔法なんかも使えるよ」

「……最初から魔導士でよかったじゃない」

「刀……剣士に憧れてたから……」

「やっぱり馬鹿?まあいいわ、いずれ本気のあなたと手合わせするとして今は目の前の問題を解決しなきゃ」

「結構飛ばしたけど?」

「剣を交じ合わせてわかった……というかあなたが一番よく知っているのでは?あの人がそこまで弱くないって」

「確かに」


 スレイブが吹き飛んでいった先へ向かう。直後スレイブ……いやダインの魔力を感じた。

 第1の人格、魔法使いのダインの魔力を感じると言うとは今、あの人はダインってこと……?


 血の気の荒いスレイブよりは話を聞いてくれるかもしれない!!そう思って駆け寄った瞬間、そこに居たはずのダインの気配が消える。


「あれ?ここらへんじゃないの?」

「ん、さっきまで居たよ?」

「さっきまで……つまり移動したってこと?」

「ん~そうなるかな?」

「まさか!!あの男の気配を探れる?」

「分かった。えっとダインは……さっき私たちの居た場所……?」

「やっぱり!」


 フーリアは私が師匠の居場所を言う前に剣を抜いていた。

 そしてものすごい勢いでさっき私たちの居た場所へ戻っていた。

 一瞬どうしてダインがさっきの場所に戻ったのか……それはおそらくあの鳴き声の……。


「あの子!!」


 私は全速力で元の場所へ戻る。

 そこまで離れていないからすぐに到着できるんだけど……妙なことにとても静かだった。

 

 フーリアは血相を変えて凄まじい速度で戻っていった。ならダインと剣を交えていてもおかしくない。しかし剣と剣がぶつかる音は聞こえない。

 到着するとそこには剣を抜いてその場に立ち尽くすフーリアと手の平サイズの小さな獣を乱暴に持ち上げるダインが居た。


「ダイン!!」

「来てしまったかルーク……もう師匠せんせいとは呼んでくれないんだね」

「その子をどうするんですか!?」

「君とこの子を接触させたくないんだ。だから分かってほしい」


 ダインはスレイブよりは人の話を聞いてくれる人格だけど、どうやら話を聞いてくれそうにない……小さなナイフを取り出してそれを小さな獣に向けた。


「やめてぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」


 ダインがその獣に止めを差す……その瞬間――

 獣は眩い赤い光を放つ。

 

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