第14話 フーリア=デイ=ホワイト


 フーリア=デイ=ホワイトは両親に愛され、仲のいい友人ルークと成長していくはずでした。

 優しい心を持った少しやんちゃな可愛らしい少女それがフーリアです。

 

「だがある時、事件が起こる。魔物がいつになく凶暴化していた」


 その事件でルークは母をフーリアは両親を失った。

 ホワイト家は辺境の地を任されていたものの優秀な剣士を出してきた貴族であり、その子供にも期待されていた。

 

 だけど残ったのはフーリア1人だけ。

 両親はまだ若くてこれからという所だった。


「フーリアの母とルークきみの母のお腹の中には子供がいたらしいよ」

「え……は……?どうして」

「そんな状態でもまだ身に宿したばかりであり、十分に戦えるとその時は判断したんだろう。しかし……」

「……まさか魔物に……」

「……」


 詳しくは語らないクレスト、それ以上は憶測で話そうとしませんでした。それにそれは今のフーリアとは関係の無い話だったのです。

 ルークもそれを理解して話に耳を傾ける。初めて知った衝撃的な事を頭の片隅に置いておきながら……。

 

 フーリアが親戚に引き取られた後は厳しい教育の下で育っていきました。

 それはホワイト家の分家の仕業でフーリアを死なせるために過度な修練を積ませました。


「分家の野心……あわよくばホワイト家を乗っ取ろうとしていたらしい」

「そんな……じゃあ今は」

「今もだ。それで目を付けたのがホワイト家の宝剣」


 ホワイト家の宝剣は代々受け継がれて行くもので、順当に行けばフーリアの物になるはずだった。

 ただそれを分家の人に盗られてしまった。

 

 ホワイト家はその剣を唯一扱える一族でそれが無いと本来の実力を発揮できない。

 剣より魔法の方が得意なルークに負け越しているのも実力が無いわけじゃなく、自分に合った剣を使えていないから。


 ただ単に今使っているのが無名の剣だからという理由だけじゃない。

 

「そしてそんな重要な話を王家が黙っているわけが無い。君のバレンタインとフーリアのホワイトは国の安全のためにも必要でな」

「じゃあ王家が介入すればすぐに解決するんじゃ……」

「そうとも言えない、何せこの宝剣は我々のものだー!と所有権を主張してきた。実際、宝剣はフーリアの引き取られた先の物になっていたし」


 クレストは後で聞かされた話だが、フーリアの引き取り先がホワイト家の遺品を受け継げるように手を回していたという。

 

「だけど王族なら……」

「無理やり所有権を奪えと?そんなことをすれば反感を買って自分たちもいつか何か大切な物を取られるのではと他の貴族も考えるだろう?適当な嘘を付いて他の貴族から物を剥奪させることだってできるし」

「話は分からなくもないのですが、元々はホワイト家の物なら返すのが道理では?」

「だから交渉を持ちかけた。そして王家の指示の下、譲歩する所まで何とか持って行ったんだが、その譲歩の条件はフーリアが宝剣を持つに相応しい剣士になるかどうか」

「そんな……」


 フーリアは慣れない剣で実力を見せなきゃいけない。

 元々魔導士の家系であるルークに負けることは許されなかった。


「じゃあまさか……」

「手を抜くのはやめた方が良い。彼女はそれに気づくし、馬鹿でも剣士の名門ホワイトの分家、彼らもそれに気づいてしまう」

「そ、そうなんですか?」

「そりゃそうだろ……真の剣士ならそれくらいは分かるよ。ましてや素人の演技ならね」

「……」


 ルークは今日の授業でクレストに言われたことを考えていました。

 素人であるルークは剣士としての才能がないということ、そしてそれには自分も気づいていた。


「まあ才能はあるんだと思うよ?あの剣は見たことも無いしまだ隠している力があるでしょ」

「……」

「不服そうだね」

「まあだって褒められたのは剣ですし」

「技術に関しては限界は近いだろうな。まあ仕方ないさ」

「はぁ……あの子が私に対してあんな態度を取っている理由は分かりました。最後に聞きたいのですが……どうしてクレスト王子はそのことを教えてくださったのですか?」

「そりゃ俺にも野心があるからさ、君達とは違い俺は逆に同じ血を引く者が多くてな。王に選ばれるのも大変なんだ」


 クレストはこの国の王になるため国にとって必要になりそうな者達へ恩を売っておこうと考えていました。

 その1人が最高の魔導士の家系のバレンタイン家と最強の剣士の家系ホワイト家。

 

 本当ならクレストはこの事を放置するような性格だった。

 しかし、第4王子のクレストには覇権争いの相手が多いのです。

 

「野心のため……ですか」

「そうだ、君にもあるんじゃないか?」

「……野心という程じゃないですけど」

「それでも協力しようじゃないか。俺はこうして君達に情報を提供する。この借りはいずれ近い未来に返してもらう」

「なるほど……」


 ルークは考えていた。この取引を受けるべきか否か。

 将来的に何を要求されるか分からないリスクは怖いが王子からの情報なら信憑性も高く細かい事まで知ることができるはず。

 

 例えば自分が生まれ落ちた15年前に何があったのかを……。

 前世の自分が死んだ理由はこの世界にあると女神から聞いていたルークはその謎を解き明かしたいという目的を持っている。

 

 もちろん一番は第二の人生を謳歌することでこれは単なる気になる事の1つ。

 しかし、その秘密はいずれ自分ルークにとって何か大切なものだと感じていた。

 関わるとロクな事がないが、ずっと放置して解決しないままでいるとその問題は関係の無い所まで飛ぶことだってある。


 フーリアは5年以上その問題と戦っている。

 細かい危険分子でも排除するべきだとルークは考えた。

 気になっている事だからこそ放っておけない。

 

 そんな言い訳を頭の中で巡らせる。本当は関わらない方が良いのは分かっているけど、フーリアのためになるのならと自分を騙す。


「分かりました。その提案を受けます」

「それは結構。じゃあ最後に俺から1つ聞きたいことがあるんだが」

「なんですか?」

「本来剣士は魔法を使えないんだが……実は両方使えたりして?」

「……さすがに無理ですよ」


 魔法も使えて剣も持っている人間はまずいない。

 ルークとしてはあまり目立ちたくないからここで魔法も使えるとバレたくなかった。

 魔法騎士エーテルナイトは崇められるような存在だから、無闇にバラしたくなかった。


「それより、私も聞きたいことが……15年前に何があったかについて」

「うーん、じゃあそれはノーコメントで」

「……」

「君の働き次第だ。俺の期待を裏切らない奴って分かれば教えてやるよ」


 上から目線で上の立場からモノを言われていい気はしないだろう。

 しかし、それに物申すことが出来るカードを持っていないのも事実でした。

 それ以上にフーリアの秘密を知ってしまったからこそ、無闇に断ることは出来なかった。

 

 ルークはふと考える――自分が魔導士として来ていれば……と。

 

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