第008話 MARE/MARE

 ──ドッゴーンッ!


 俺の弾を数発浴びたロボットが、爆発四散。

 火花、黒煙、焦げくさいにおい、そして破片……。

 撒き散らされたそれらが、ほんの数秒で形も、熱気も、においも、芝生の上でフェードアウトしていく。

 こんな正体不明の世界での、俺の初勝利。

 けれど安堵感よりも、高揚感よりも、イマリさんの安否……不安だけが意識に蔓延していく──。


「未来さんっ! イマリさんを知ってるのっ!?」


「え……? きみ、海土泊現在を知ってる……の?」


「いまは俺が聞いてるっ! イマリさんは無事っ!? 元気してるっ!?」


「え、ええ……。元気と言えば、元気……ね。無事かと聞かれたら、無事って答えることになる……かな」


「そっか……よかった! 超貴重な情報、ありがとうっ!」


 ──ダッ!


「あっ……ちょっと! どこ行くのっ!?」


「残り四体、ここのロボット倒せば一息つけるんだろっ!? だったらさっさと片づけるさっ!」


「な、なんなの……あのキャラ変。まるで別人……。海土泊現在と同じ貫通スキル、持ってるってことは……。まさか彼女と、特別な関係っ!?」


 イマリさんが……この世界にいるっ!

 生きてるっ……よかった!

 しかも未来さんの口ぶりじゃ、元気そうっ!

 俺がウイルス感染うつしたんじゃないかって、後悔ばっかりだったから……。

 無事がわかって一安心だっ!

 のろまロボットどもをさっさと倒して……会いに行くぞっ!


 ──タンッ、タンッ、タンッ……タンッ、タンッ、タンッ!

 ──カンッ、カンッ、カンッ……カンッ、カンッ……ドッゴーンッ!


「よしっ、残り三体っ! 次はどこだっ!」


「ええぇ……。あれ本当に、さっきまでの陰キャっぽい彼なの……? もしかして、海土泊現在を追ってレイドックスへ来た……の? 現実世界へ連れ戻しに来た、彼女の白馬の王子様な……わけ?」


 ──カンッ、カンッ……カンッ、カンッ、カンッ……ドッゴーンッ!


「残り二体っ! 次ぃ!」


「だったら、だとしたら……。なんて残酷な運命なの……。海土泊現在は、彼女は……。この世界の出口を塞ぐ蓋……。現実世界への不動の門番、死神……」


 ──カンッ、ガンッ、ガガンッ、カンッ、ガンッ……ドッゴーンッ!


「発射の間隔、発声の仕方で縮められそうだな! よっしゃ、次ラストぉ!」


「海土泊現在がリーダーのチーム、『LUNA MAREルナ・マーレ』……月の海。そしてかつらは……月に生えるとされる樹、月桂げっけい。明らかに海土泊現在が、桂馬くんを意識してつけたチーム名……。ダ……ダメ……。彼と彼女を、同じチームにしちゃダメっ! たった二人の貫通スキル持ちが同一チームになったら、この世界の出口……完全に塞がれちゃうっ!」


 ──ガガンッ、ガガガンッ……ドッゴーンッ!


「よっし! これで……全滅! だよね、未来さんっ!?」


「……彼は絶対に、うちのチーム『KNIGHT MAREナイト・メア』から手放せない。騎士の牝馬ひんばひめたい……ナイト・メア。そこへ牡馬おうまを入れるのは、種馬を招くようでイヤだけれど……。運よく彼を確保できたのには、運命……いえ、使命を感じる。わたしたちに、この世界の壁を飛び越えろ……っていう指名を!」


「……未来さん?」


「あっ……ご、ごめんなさいっ! ちょっと考えごとしてたの……アハハッ」


「ふーん……。あっ、それよりもさ。イマリさんとの連絡手段、教えてくれない? 彼女を知ってるんだよね? ユウもユーザー検索できるって言ってたし」


「え、ええ……。コンタクトの方法、わたしたちのミーティングルームで教えてあげる。彼女なら……元気。だから、ひとまず安心して」


「よっしゃああっ!」


 イマリさん、元気してるっ!

 このわけわかんない世界でも……無事、生きてるっ!

 きみの笑顔──。

 それをまた見られるのなら、この世界で頑張るっ!

 そして必ず……病院の外でデートするっ!


 ──フォンッ♪


「……未来さん、敵殲滅完了です。いかがいたしますか?」


 未来さんの目の前に浮かび上がるスクリーン。

 その中に……ユウ。


「戦闘はこれでやめるわ。ユウ、このままミーティングルームへ移動させて。あと、彼も一緒にお願いね」


「かしこまりました。先方のユウへ伝えておきます」


 ……あれっ?

 あのユウ、俺が相手してたのとちょっと違うな。

 話しかたが丁寧で、両手を体の前で揃えてて……礼儀正しそうだ。

 あと……明らかに胸が大きい。

 体の前でVの字に下げてる両腕から、収まりきれない豊満な膨らみが前に……。

 あのたっぷんたっぷんなら、うっかりタップしちゃうかも……。


「未来さん。そっちのユウ、うちのとなんか違うんだけど……」


「えっ? ああ、ユウは各ユーザーごとに、ちょっとずつ個性あるのよ。うちのユウはお淑やかでいい子だけれど、半面、わたしのおてんばぶりを反省させられちゃうこと多々、ね。アハハハッ……」


「ちょっとずつ個性……。いや、あのボリュームの差はかなり……」


 ──フォンッ♪


「はいはい桂馬さん、初戦闘お疲れさまでしたー。それから貧相な体つきで、すんませんしたー」


「わっ……俺のユウ」


 こちらのユウが薄い胸部をスクリーンへどアップにしながら、不機嫌そうに言う。

 当てつけ、なんだろうけど……。

 あっちのユウと質量の差がありすぎて、同情だけが無限に湧いてくる……。


「毎度おなじみ確認でーす。チームリーダーからのミーティングルームへの呼び出し、同意しますかー?」


 スクリーンには、向かって左の乳房の上に「はい」、右の乳房の上に「いいえ」。

 二重の意味で子どもっぽい当てつけ……。

 うちのユウは、扱い面倒そうだな……「はい」っと。


 ──ぷにゅっ……。


「……えっ?」


「ではでは、ミーティングルームへ転送しまーす。ぷんぷんっ!」


 スクリーンが消えて……。

 一面の芝生の風景も消え始め……いや、別の景色に切り替わり始める……。

 木目調の壁とテーブルといす……それに観葉植物。

 辺りに漂い始める、コーヒーの香り。

 こじゃれたカフェみたいな空間が、入れ替わりで周囲にフェードイン。

 それも十分、驚きなんだけど……。

 さっき「はい」をタップした指先に……人肌の感触が強く残ってる。

 宙のスクリーンをさわったはずなのに、体温を感じて、ほのかな柔らかさと強めの弾力を覚えた。

 あれって、まさか……。

 ユウの胸、おっぱいの……感触?

 もしかしてここは、やっぱり現実……なのか?

 イマリさんと会う前に、ここがいったいどこでどういう世界なのかを、確認しておいたほうがいいかもしれない────。

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