決戦②

 ネオバーンの息つく暇もない攻撃に、ケンジは防ぐ事に精一杯。

 気を抜いて一撃でも喰らったら、そのまま畳み掛けられて、終わってしまう。

 反撃の糸口を探す隙も思考もないまま、ただ防戦一方。剣を持つ手の感覚も痺れて失われてきた。


 くっ・・・・・・。

 イヂチは、腰に付けた巾着から小さな瓶をひとつ取り出し床に叩きつけて割った。

 茜色のサラサラした砂が床に広がった。

 小さく口を動かし詠唱する。

 広がった砂が3人の周りを薄く覆い優しい光を放つ。


 「うっ・・・・・・ううぅ」

 しばらくするとタージゆっくり動き出した。

 「・・・・・・」

 イヂチは、優しくタージの肩を叩く。

 クハッ! ハァ、ハァ、ハァ。

 タージは急に上半身を起こして周りを見渡した。

 「ショウ、イヂチ・・・・・・、ネオバーンは?・・・・・・ん?戦ってるのは、ケンジ?」

 イヂチは、頷いた。

 「まずいわ。すぐにわたしも!」

 アッ、クッ--。

 タージは立ち上がったが、背中に激痛が走りその場に倒れ込んでしまった。


 それでもタージは歯を食いしばり立ちあがろうと必死にもがく。

 「えっ?なに?今応急処置をしてるから、ちょっと大人しくしてろって?でも、ケンジが危ないじゃない--早くわたしもいかないと」

 「・・・・・・!」

 「何よ!えっ?・・・・・・作戦?」

 「・・・・・・」

 「ちょっとショウ!何やってるの?あなたも耳を貸して、早くっ」

 

 ・・・・・・。

 ショウは虚な目をゆっくりタージに向ける。

 「もう無理よ・・・・・・。私達じゃ勝てない、タージ。あなたも戦って分かったでしょう。強すぎる・・・・・・」


 「・・・・・・」「ショウ・・・・・・」

 イヂチとタージは、同じタイミングでショウに向かって手を差し伸べる。

 「いい、ショウ。諦めるのは早いわ」

 タージがグイッとショウの顔に顔を近づけて言った。

 「ケンジが戦ってくれている間に体勢を整えて参戦するわよ!いい?戦ってるのは私たちだけじゃない。あなたの父も母も、あなたの国が今、全力で戦っているのよ。さあ、作戦を聞いて」





 冥界門、アイ王国、この2か所において大陸全土を巻き込む大決戦が行われている、ちょうどその時・・・・・・。


 「いそげ!いそげ!」


 主人のいない魔王の城へ忍び込む怪しい影があった。


 「いそげ!いそげ!」


 黒い衣装を全身に纏い、木々の陰、岩の陰、柱の陰、塀の陰、建物の隅など、誰の目にもつかぬよう静かに大魔王の城へ近づいて行った。


 「いいな、戦闘は極力避ける。それでも必要があって戦う時は、速やかに、そして確実に仕留めること」

 先頭に立つ小柄な男が口元の黒い布を下ろして後ろの者へ伝える。

 全員で15名。目元だけが出ていて表情もわからないが、全員が頷いた。

 「最上階に玉座がある。その近くか、そのひとつ下の階にある可能性が高い。ここからは3つに分かれる。発見したらすぐわたしに知らせろ。勝手に触ってはいかん」

 全員が、再度頷く。

 「よしっ、いくぞ」

 城の一階に侵入した集団は、ささっと3つに分かれた。


 「わたしたちは一気に最上階に向かう」

 そこでも、また小さき者が先頭に立つ。

 「しかし、こうまでもぬけの空だと逆に気味が悪いですね・・・・・・」

 「こんなチャンスは200年に1度でもあるかわからない。探し物だけではない、とにかく色々な情報をこの機会に仕入れろ」

 「・・・・・・分かりました、ドン」


 そう、この男こそサンポーレル牛耳る18代目ドン・マッジョだったのだ。


 「命懸けでここまで来たんだ!死ぬ以上の価値ある行動を取れ!」





 「頭ーっ、魔物の野郎共がなんか強くなってきました!」

 場面はアイ王国へ。


 「ハンッ、泣き言いってねぇでしっかり戦え!大金を掴むんだろが!」

 「・・・・・・!そうだった」

 うぉぉぉー!

 

 茶月教、ゼロ一派の活躍で魔物の大群の侵攻は一時的に止めることは出来ていたが、ここに来て奥に潜んでいた能力の高い魔物に相手が代わり、戦いの潮目が変わってきた。

 特に超大型とされる13体の魔物は強力で、茶月教の副長3名でやっと1体の足留めをするのが精一杯。

 13体の魔物の中心にいる、その中でも頭ひとつ大きな魔物の肩には、十指のひとりクロードが乗っている。

 「ギャハハハハハ、さあ、いけー!虫ケラ共を踏み潰すんだ」


 超大型の魔物達は、10メートル近くある足で人間を簡単に踏み潰したり、虫を払うように腕を左右に振るだけで何十人という兵士を1度に吹き飛ばした。


 「コナ、カエン、お前達は他のやつをやってくれ!」

 茶月教の副長のひとり、バラが言った。

 「私達で、1体相手するのがやっとだ、馬鹿言うな!」

 同じく副長のコナが、超大型の拳をかわしながら叫ぶ。

 「しかし、このままでは全部は止められないぞ・・・・・・」


 ズズズズシーーーン。

 その時、戦闘が始まって以来の大きな揺れと低い衝撃音が辺りに響いた。


 3人の副長が戦うちょうど反対側、超大型の魔物が横に倒れたのだ。


 オオオオオオオッッッッッーーー!!

 人間側の兵士が沸き立つ。


 その傍には、拳を突き出した、盗賊団ゼロの頭、イ・キュウの姿があった。




 「さっさと喰らえーっ!!」

 アラン王は、エックスの降り掛かる攻撃の合間に呼吸を整える。

 - 波紋(はもん) -

 エックスの猛攻に対し、隙を突くアラン王の攻撃が炸裂する。

 予期せぬ方向からの斬撃にエックスの四肢が切り落とされそうになるが、僅かなタイミングで手足を引き躱す。

 異次元の攻撃に、異次元の反応速度だ。

 「クッソー、ナヨナヨした技、使いやがって」

 「本気なんだ、仕方あるまい」

 アラン王が斬りかかる。

 エックスは、後ろに回転して飛び躱しつつ、着地と同時に地面を蹴ってアラン王へ飛び掛かる。

 右拳、左蹴り、回し蹴りに踵落とし、変則的なエックスの攻撃が始まるとアラン王は防戦一方になってしまう。

 フンッ!

 エックスの重い打撃は、剣で受けられないよう上手く隙を突いて攻撃してくる。

 躱し方を間違えて肘が上がると、脇に向けて鋭い1発が飛んでくる。

 アラン王が必死に膝で受けても、威力が強すぎて吹き飛ばされダメージを負う。

 互角に見えていた、攻防戦も徐々に形勢が傾いてきた。

 「どうしたーっ!?攻撃が単調になってねぇか、王様」

 「・・・・・・」

 「オラオラーッ!!」

 

 - 凪(なぎ) -


 アラン王は、瞬時に剣を地面に突き刺し、目を閉じ指を丸い形をこしらえた。

 エックスは、身を引いた。

 先の戦いの際に受けた稲妻が頭をよぎったからだ。


 「どうやら勝った気でいるようだが、調子に乗るなよエックス」

 薄く目を開き、無表情のままそう言った。

 しかし、言葉の節には怒りが剥き出しになっている。

 「奥の手があるなら、早く出した方がいいぞ・・・・・・」

 王の前に立つ剣が、ポッと灯がついた様に輝き出した。

 「もう一度言う、奥の手があるなら早く使え」


 - 金波(きんば) -


 ザンッ・・・・・・。


 エックスの左脚が吹き飛んだ。

 「なっ・・・・・・、なに」

 

 アラン王が、エックスを通り越して遥か後ろに立っていた。


 切られた足のつけ根から、大量の血が流れて落ちる。

 「くっ、なっなんだよ・・・・・・」

 エックスが、崩れ落ちた。


 アラン王は、再度剣を地面に突き刺した。

 片膝を付いて座り込む。

 剣の光も、ゆっくりと消えていく。


 「・・・・・・頼むぞ」

 

 アラン王もその場に倒れ込んだ。



 「くっ、まずいぞ!ミカデ行けーーっ!」

 ベガルードをはじめ4人の師団長と魔道士セイラは、十指の6人と厳しい戦いを強いられていた。

 ベガルードは、いち早くアラン王の様子に気付き対応を考えた。

 「ミカデ!いそげ」

 「・・・・・・クッ」

 ベガルードがミカデと対峙していた、ゾッドの前に立ちはだかった。

 「すぐにっ!」

 そう言い放ってミカデは走り出した。


 「セイラ殿、すまんが全力でお願いしたい。トレイナー、ヤン、ワシらはコイツらの首を持ってあの世じゃ」

 セイラは頷き、トレイナーとヤンは少し笑って返事をした。

 トレイナーは、左手のロッド掲げて周りにドーム型の幕を張る。

 「これでほんの少し、相手の魔法を弱体化できるでしょう」

 「なんだ、こんな魔法あるならさっさと使え!」

 「左手が使えなくなっちゃって、リズムが刻めなくなるのが嫌なんですよ」

 「相変わらず、分からん戦い方をするやつだ。まあ、いい。いくぞ!」

 4人は十指に向かって走り出した。

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