決戦の火蓋が開かれる

 「ねぇ、随分上ってる気がするんだけど」

 「ええ、おかしいわ」

 「・・・・・・」

 「変ね、ケンジの戦ってる音も消えたわ」

 ショウ、タージ、イヂチの3人はケンジを残し、大魔王ネオバーンを倒すべく上の階へ向かったのだが・・・・・・。

 「気をつけて、何かのトラップよ」

 ショウが言うと、上に続く階段の先が、ズズズズズズ・・・・・・、低い音をたてて壁が内側に窄まっていき、完全に先が閉ざされてしまった。

 「なっ、なんなの」

 タージが唖然としていると、イヂチは後ろを振り返る。

 すると、階段の下の方も同じように壁が動きすっぽり閉じてしまう。

 「はっ?閉じ込められた訳・・・・・・」

 そういうとタージは壁に向かって右拳を打ち込んだ。

 ズンッ。

 鈍い音が響き、壁に大きな亀裂が入るが崩れる様子は無い。

 「空間魔法ね・・・・・・」

 「ネオバーンの仕業かしら?」

 「そうかもしれないわ。だとしたら出るのは困難よ。多分閉じ込めて殺すつもりでやってる訳だから」

 「・・・・・・」

 「えっ、なに?ふんふん、どうぞ、やってみなさいよ」

 イヂチは、スッとショウを見て腰からロッドを取り出した。

 「なによ」

 イヂチは、ショウに手招きした。

 近づいたショウの手を取ってロッドの柄を持たせた。

 イヂチもロッドの柄を持って柄の先を階段に着けた。そして、イヂチは目を閉じて口を動かす。

 「はーん、いいわ。貸してあげる」

 ショウも理解して目を閉じて集中し始めた。


 ショウ、イヂチの髪や服が、ゆすらゆすら浮かび上がる。


 「大丈夫?わたしは、何もしなくていいのかなぁ」

 タージが心配そうに2人を眺める。


 ふたりは、目を固く瞑り続ける。


 ズズズズズズ・・・・・・。

 進む先の閉じた壁が、ゆっくり戻っていく。


 「やったー」


 ふぅー。ショウもイヂチも肩で息をしながら立ち上がった。

 「・・・・・・!」

 「あっ、ほんとね。悪趣味な扉が見えるわ」

 3人は走り出して扉の前で止まる。

 「間違えない・・・・・・」

 タージは、自然と額から汗が一筋流れ落ちた。

 ショウ、イヂチの顔を見て頷いた。

 

 デュュオラララァァァーー!


 タージが扉を蹴破って中に滑り込む。

 タージを先頭に右にショウ。左にイヂチが並び、構えをとる。



 真紅の絨毯の先、幾何学模様の装飾の付いた規格外のスケールの椅子に深く座る、全身黒い衣装を身に纏う者・・・・・・。

 フードを目深に被り顔もよく見えない。

 

 等間隔に灯される松明の火は青白く部屋を明るくするよりも、不気味さを増しているようだ。


 「たった3人でわしの前に現れるという事。勇気とは言わん」

 意外にも聴きやすい通る声。

 両方の肘掛けに手をついてゆっくりと立ち上がる。

 上背でいえば、タージよりも低くイヂチと同じくらいだろう。立ち上がり徐々に溢れ出てくる邪悪なオーラは、3人にとってこの先の戦いを不安にさせるには充分だった。


 「我が名は、ネオバーン。魔物達の頂点にして、この世界を我が恐怖によって支配する者。精鋭なのだろう?何もせんうちに事切れぬようにな」


 ネオバーンが足を一歩踏み出す。


 距離が1メートル縮んだだけで、圧力は増し、息苦しさを3人は感じた。

 

 でぃあららららららぁぁぁー!!


 「タージ!待って!」

 タージがたまらずネオバーンに向かって飛び出して行った。慌ててショウが止めるが、声をあげるので精一杯だ。

 右拳がネオバーンの左頬を捉える。

 鈍い音が響き渡る。

 次に右ハイキック、左ストレート、左回り蹴りと一連の動きで攻撃を繰り出す。

 同じような鈍い音がこだまする。


 キャッ!

 タージの体が後ろに吹っ飛んだ。

 ネオバーンは、左掌を前に突き出した格好で立っていた。


 ぐはっ。

 タージは胸を押さえてうずくまる。


 「あと数ミリ足りんな」

 そう言いながらネオバーンは、一歩、また一歩とゆっくり3人に向かってくる。



 「ムンッ!」

 ゼットの翼から複数の風の刃が巻き起こる。


 《真一文字一閃》

 ケンジも斬撃を飛ばして打ち消そうとするが、手数が追いつかず、からだを転げてなんとか避けた。


 「おいおい、拍子抜けだな」

 ゼットはそう言うと大きく息を吸い込み、激しい炎を口から吐いた。

 ケンジは剣を横に引き真っ二つに炎を切り裂いた・・・・・・か、に見えたが、炎は途切れるどころか火力を増して押し寄せる。


 うわわわわわぁぁあぁぁあ。


 ケンジは剣と、自分の使える最大限の魔法で守り固めるが防ぎ切ることは出来ない。


 ゼットは、体がくの字な曲がるまで吐き尽くした。ゆっくり体を起こしながらケンジに目を向ける。


 ハァ、ハァ、ハァ。

 火傷と酸欠により、立っているのがやっとという状態。

 「・・・・・・」


 ゼットは翼を広げて大きく羽ばたき、勢いをつけ、鋭い角の先をケンジに向けて突っ込んでいく。

 ケンジは、体をよじり剣で尖った角の先はなんとかいなすが、体がぶつかり吹き飛ばされる。

 「・・・・・・なんなんだ?お前は」

 吹き飛ばされつつもケンジは剣を床に突き刺し踏ん張って倒れなかった。

 

 ゼットは、ズシン、ズシンと音を立ててケンジに歩み寄る。

 あと一歩という距離まで近づいてケンジを見下ろす。

 ケンジも視線をあげて見返す。

 視線が交錯する。


 ゼットが右手を高くあげ爪を立てて振り下ろす。

 「くっ・・・・・・」

 ケンジも反応するが、避けきれず左肩から胸にかけて斬り裂き、威勢よく吹き飛ばされた。

 

 ケンジの上着が切り裂かれボロボロになったが、ケンジは剣は手放さず立ち上がった。

 

 ギリッ。

 「・・・・・・貴様」

 ゼットは怒りを抑えられない表情をケンジに向ける。

 「貴様、馬鹿にしているのかっ?!」

 広い部屋全体が揺れる程の大声が響く。

 

 ケンジは剣を両手で構え、ゼットを見返す。


 ゴゴゴゴラアアアァァァァー!!!

 ゼットは、怒り露わにケンジに飛び掛かる。

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