秘密共有

「ケンジ王子、2日前のことですが・・・・・・」

 ドン・マッジョは真剣な表情でケンジを見た。

 「・・・・・・はい」

 「王子はアレがなんだかご存知なんでしょう?」

 「・・・・・・」

 「知っているどころか、アレはあなたの物ですね?今は使われていないように見えるのですが、どうやって使う物なんですか?」

 ケンジはどう答えていいか分からなかった。

 「素材も見た事のない物だし、不思議だ。わたしは、何かの魔法の補助器具かと考えましたが、それにしてはチープな気もするし・・・・・・。なんでもいいんです。話せる事だけで構わない。教えてください」

 ドン・マッジョは、机に頭を確かに付けて言う。

 ケンジは、また混乱しはじめる。

 そもそもスーパーファミコンとドラゴンクエスト5は、小堺健二の物であって、アイ王国ケンジ王子の物ではない。

 あっちの世界とこっちの世界、直列に並ぶ全く別の現実。一個人の脳みそでは考えが追いつかず完全なオーバーヒート。

 「そっ、その事を考えると、具合が悪くなるので、手短に答えます。あれは、別の世界の僕の物です。ゲームです。子供が遊ぶテレビゲーム。勇者を操作して魔王を倒すゲーム」

 「ゲーム?あれが、子供のゲームなんですか?」

 「もちろん子供限定じゃありません。大人でもやっている人はたくさんいます。テレビという映像を映す箱型の機械に繋げてあそびます。前の世界の記憶では、僕はそのゲームをやっている途中にこの世界に移ったと記憶しています」

 「えーとっ、すみません、理解が追いつきません。ケンジ王子は、元々この世界にいない存在だったと?それで、何かの力でこの世界に現れたとおっしゃっていますか?」

 「そうかもしれません・・・・・・、そうじゃないかも・・・・・・、分かりません。自分にも」

 「前世とは違いますか?前世の記憶とか、誰か他の人の記憶が移ったとか・・・・・・、周りの人の昔話をずっと聞かされて頭で作った偽りの記憶とか?」

 「それも、正直分かりません。ただ僕には前にいた世界がどうしても前世とか架空の事だとは思えないんです。確実に僕のこの脳みそと体が存在していた現実であったと思います」

 ドン・マッジョは、じっとケンジの目を見た。

 「そうですね。この世界、理解を超える不可思議な事は必ずあります。説明できない現象なんて山ほどある。ケンジ王子がそう思うなら、きっと前にいた世界はあるのでしょう。もしくは・・・・・・、あったのかもしれない」

 ケンジは頷いて、ドン・マッジョの言葉を耳に入れた。

 「その世界では、子供の遊び道具に、その・・・・・・」

 「スーパーファミコン」

 「そう、スーパーファミコンがあったと。ケンジ王子は、ゲームをしている途中に急にこの世界へやって来たという事ですね」

 「ええ。ゲームの途中に用を足しに立って自分の部屋の扉を開けた瞬間です。それから、気付いたらこの世界にいました。来た時は、まだ赤ん坊で母上から産まれた時でした」

 「うん?・・・・・・っというと、赤ちゃんの時の記憶があるのですか?」

 「ええ、そうです」

 「じゃあ、前の世界の記憶があって、この世界でも、しかも産まれたての時から記憶があると」

 「ええ、そうです。あっ、で、その後不思議な事が5.6回起きました」

 「それ以上に不思議な事が?」

 「それ以上かは分かりませんが、子供の頃、早送り現象が起こりました」

 「早送り現象?」

 「夜寝ると不思議な事に、自分の周りだけが超高速で動き回るんです。寝ている僕を中心に周りの人や物なんかが、無音で動き回るんです。太陽だって昇って沈んでをすごい早さで繰り返す。それで、さあ起きようって気になって起きると何年か時間が進んでるんです」

 「なにかの魔法じゃないですか?」

 「時を進めてる魔法なんてあるんですか?聞いたことがないな。それに僕だけに魔法を掛けたってメリットが少ない。術者が自分に掛けるのならメリットも生まれそうですが」

 「確かに・・・・・・、それもそうか」

 ケンジはドン・マッジョと話しているうちに、混乱していた頭が整理され気持ちが落ち着いてきていることに気がついた。

 そういえば、この話はずっと自分の中に秘めていた事だったので、急に堰を切ったように言葉が出てきた。

 「とにかく、その早送り現象が・・・・・・5回か。起こって、あっという間に15歳になってしまったのです。それ以降はそういう現象は起きていないんですが」

 「その早送り現象が起こった時、早送りの最中に起こった事は記憶に無いんですよね?」


 ケンジは少し黙って考えてから口を開いた。

 「いえ、それがあるんです。だから、周りの人達から何か言われても話が合うんです。しかも、その時習った剣術・魔法なんかもしっかり覚えているんですよ」

 「そうですか。不思議だ。どういうカラクリがあってそういう事になるのか、全く検討がつきません」

 ケンジはドン・マッジョの目を見ながら頷いた。と同時に、頭の中では別の事・・・・・・、ショウの事について言うべきか悩んでいた。

 前の世界から引き継いだ自分以外の唯一の人物。ただし、ショウには前の世界の記憶は無く、しかも前の世界では健二の年の離れた兄、正一。この世界では双子の妹、ショウ。この違いについても不明点が多い。

 ドン・マッジョの目が光る。

 「まだ何かありますよね?」

 「うっ・・・・・・」

 ケンジは、諦めてショウの事も話をする事にした。

 身内の事を真剣に話すのはどこか恥ずかしい気がして、大枠を話して終わろうと思ったが、ドン・マッジョが今までになく強い興味をもって、深いところまで質問がおよぶ。

 「ケンジ王子と、お兄さん、いや妹のショウ王女との関わりはよく分かりました。ご自身以外で前の世界から1番強い痕跡はショウ王女です。うーん。私にはこの件は、今生きるこの世界にとってすごく重要な意味を持つ事のように思います。ケンジ王子、スーパーファミコン、そしてショウ王女。この事は魔法とは違って世の理から外れているように思います」

 しばらく、ドン・マッジョは下を向いたまま何か考えていたがスッと立ち上がって右手をケンジに差し出した。


 ケンジは手を掴んだ。

 軽い力で引っ張られてケンジもスッと立ち上がった。

 「王子、ありがとうございました。色々話せて良かった。ゆっくりお休みください」

 ドン・マッジョは、ケンジに丁寧に退出を勧めた。

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