大魔王との戦いにむけ
「良かった、みんな無事で」
ケンジとドン・マッジョが執務室で3人を迎えた。
「とにかく、無事に任務が完了出来て良かった。エイ、みなさんに食事の用意を」
「はい、ご主人」
エイは、スッと部屋を出て行った。
「彼は、私の執事長をしてもらっているエイです。見ての通りの体格で腕っぷしも強くて、料理の腕も立つんです。唯一の欠点は、私のことを呼ぶ時、毎回違う呼び方になる事・・・・・・。変わっているでしょう」
ドン・マッジョはケンジを含めた4人にソファに座るように勧めた。
「みなさん、お疲れでしょうから食事をしたらお休みください。とにかく魔法で冥界門まですぐに行けるようになったのは非常に大きいです」
ショウとタージは、まだ機嫌が収まらず憮然とした態度。イヂチは何か口を動かしているがタージが代わりに何も話してくれないので言っている事が皆目分からない。
「ケンジは何してたのよ」
ショウがつっけんどんに言う。
ケンジはドン・マッジョに目をやる。
「ケンジ王子は私と大魔王との戦い方をあれこれ検討していたんです。なんせこの世界で実際に大魔王に戦いを挑んだ者は現存しませんからね。古い文献をひっくり返したりして、ね」
ケンジもあわせて頷く。
「剣も使う、魔法も使うどちらも強力無比。どこに付け入る隙があるのか・・・・・・」
「ネオバーンだって、心臓があって生きているんでしょう。だったら思いっきりぶっ叩けば倒れるでしょう」
タージがドン・マッジョの話に割って入る。
「それは、あなたの一撃は強力だ。魔帝十指だって倒せる拳を持っている。それは分かります。でも、だからと言ってネオバーンにも通用するかと言われれば、それは分かりません。大魔王は、大昔、当時のアイ王国や今は亡きモリアン、ゴゴなんて大国の進撃を単独で止めたと伝えられています」
「それは、あくまで伝えられた話でしょう。本当かしら?」
「私は事実であったと考えています。でなければ、今の人間はより領土を広げ、窮屈な生活はしてないでしょう。魔物があの広大な豪魔地帯を有しているのは、数百年前の大魔王活躍があったからだと考えられるからです。それに・・・・・・」
ドン・マッジョは、立ち上がって後ろのクローゼットから重厚そうな作りの長い箱を取り出した。
ショウとイヂチが何かを感じ取り顔をしかめて反応する。ケンジにもその箱から発せられる不気味な気配が伝わった。
ドン・マッジョは、金具を外しゆっくり蓋を開け、一本の古びた杖を取り出した。
「・・・・・・なんなの、それは?」
「これは、その当時最強と謳われた魔道士ロマネグリードの摩滅の杖です。彼はモリアン帝国のハラ王と一緒に大魔王と戦い、敗れたと記録が残っています。戦いが終わった後、戦地を訪れた兵士がこの杖を発見しました。回収しようとした時戦いの記憶が兵士の頭に流れたという話が残っています。どうです?」
ショウとイヂチは、ジッと杖を見て動かない。
見かねたタージがその杖に手を伸ばす。
「見かけより随分軽いわね」
なんでもない様子でヒョイっと持ち上げる。
ほらっとショウに手渡した瞬間。
ショウとイヂチ、それからケンジの脳裏に、ロマネグリードとハラ王がネオバーンに戦いを挑んだ記憶が映し出された。
しばらく目を瞑り動かない3人をタージは不思議そうに眺め、ドン・マッジョは興味深そうに眺めていた。
しばらくすると、ケンジが2人より先に強い呪縛から解放されたように、バサっと前に倒れるように意識を取り戻した。
「みんな、急にどうしたの?」
タージの質問にすぐには答えられない。
間をおいて、ショウとイヂチも同じように意識を取り戻した。3人とも額から汗が流れ落ちている。
ドン・マッジョは、3人が落ち着くまで待ってゆっくり声を掛ける。
「どうでした?」
3人は互いに視線を交わし、ケンジが観念したように口を開いた。
「強すぎる・・・・・・、戦ってきた敵とは桁違いに。おそらくは・・・・・・」
今度は、タージとドン・マッジョが目を合わす。
「そんなに?」
「この記憶が本物なら。大剣の扱いも、魔法の使い方も僕の知ってる戦い方とは全然違う」
「ケンジ王子、あなたの剣は大魔王に届かないでしょうか?」
「分かりません。ハラ王の槍は避けていたので剣が届けば戦いにはなるかもしれません」
「なんでそんなに弱気になってるんだよ。もう2日後には戦うんだぞ」
タージがケンジの弱音にイライラが隠せない。
「この杖が本物で、しかも何百年前の役目を果たすなんて・・・・・・、俄かに信じられませんでしたが、少し軽率でした。ごめんなさい」
しばらく、沈黙する時間が続いた。
「でも、考え方によっては・・・・・・」
ショウが口を開いた。
「・・・・・・」
イヂチも反応して口を動かす。
「えっ?ああ、そうなの。うん、うん」
タージがイヂチの声に相槌を打つ。
「彼ね、魔法を考えて使えば良いって言ってるよ」
「そうなのよ。魔法とか、矢で撃ったりそういう攻撃はことごとく攻撃した人に跳ね返してたわよね。だからそのカラクリを解くまでは魔法攻撃はしてはダメね。タージの打撃とか、ケンジの剣で戦うの。そのサポートに徹する」
「・・・・・・!」
「えっ、なるほどね!えーと、彼ね、得意な大地の呪文で土を召喚して身体にまとわせて戦う事が出来るから、それなら攻撃を加える事が出来るかもだって」
「そうか、そういう魔法の使い方もあるんだ。それならわたしも応用出来るかもしれない・・・・・・」
「僕の剣に、ショウの魔法を上手く組み合わせ出来ないかな。実はしばらく前から考えていた事なんだけど・・・・・・」
「あー、なるほど。ケンジ、それならさっさと言えばいいのに。たぶん出来るわよ」
ドン・マッジョは、目の前で繰り広げられる若者の会話に圧倒されていた。なんと逞しい。
「ああ、えーと、皆さん食事の準備が出来たそうですが」
「よしっ、食べたら早速特訓よ」
「そうね、なんだか新しい魔法のイメージが生まれてきたわ」
「・・・・・・!」
部屋を出て行く彼らの背中を見てドン・マッジョは大きく息を吐いた。2日後なんとか全員が欠ける事なく大魔王ネオバーンを倒してくれることを願って。
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