ギンジムへ向かえ
「そっ、それは、まさに一瞬の出来事で・・・・・・城も、民も、兵士も・・・・・・あぁあぁぁ」
バビロン帝国の現王ポアロ3世は、アイ王国のアラン王の呼びかけに答えて、王都から逃れた民や兵士を連れてアイ王国へ避難してきた。
「そのゼットという名の魔物。私の息子と娘も対峙しています。ポアロ王のおっしゃる通り危険性は計り知れないと思います。そうだな?」
その場に同席していた、ケンジとショウは頷いた。
「わたしは・・・・・・、王である自分で口にするのはおかしいですが、バッバビロンの軍事力は大陸一だと自負していました。そっその軍隊が・・・・・・、あぁあああぁぁぁぁーー」
ポアロ3世は、顔から血の気が引き、膝から震えが広がっていくようで、とても平常とは言えない。
「これは、いかん。誰か、医者を!」
衛兵に抱えられ部屋を出ていった。
「あの様子では、バビロンの復興にはまだまだ時間が掛かるだろう。しかし、時間がない。またいつ巨大な侵略がはじまるかも分からんのだ」
「バビロンの次に狙われる国は・・・・・・」
「そうだ、おそらくはここアイ王国になるだろう」
近頃の魔物の動きからアイ王国侵攻の可能性が高い事は、誰しも気付いていた。ただその事をはじめて口に出したのは国王のアランだった。
場の空気が重くなった。
厳しい現実を突きつけられたのだ。
「備えはしている」
アラン王の言葉に周りの者たちは、一斉に王に顔を向ける。
「ここ数日で軍事同盟を結んだ国は七つ。現在交渉中の国は五つ。おそらくその五つの国も同盟には承諾してくれるだろう。それから、四方に配置している四つの軍隊を全てこの王都に集結するように進めている。それぞれそこに住まう大事な民も連れてくる故時間が掛かるがあと1週間のうちには大方揃う見通しだ」
「父上・・・・・・」
ショウのこぼした言葉に、アラン王は力強く頷いた。
「徹底抗戦する構えである」
おおおおぉぉぉおーーー。
王の言葉を聞いた、国の官僚達が慌ただしく部屋を出ていった。
「ケンジ、ショウ、こちらへ」
王が控えめな声でふたりに声をかけた。
「今言った通り、厳しい戦いがまもなく始まるだろう。ケンジ、ショウ。ふたりに至急のお願いがある。良いかな?」
「・・・・・・?ええ、なんなりと」
「これからすぐにふたりで西の都ギンジムに向かいなさい」
「ギンジム?」
「ギンジムって交易都市よね。色々な国の中心にあって珍しものが揃う事で有名だわ。でもここからは遠い」
「ああ、そのギンジムだ。そこで起こっている騒動を解決してきて欲しい」
「わざわざ私達が行って?その騒動っていうのは何ですか?」
「それは、行けば分かる」
「・・・・・・。随分無責任な任務だと思いますが」
「おいっ、ショウ。言い過ぎだ」
ショウが不機嫌に言った言葉を慌ててケンジが嗜める。
「良いか。これは、非常に重要な任務なんだ。こんな時期にお前たちを行かせる意味を考えて欲しい。とにかく事は刻一刻を争っている、すぐに、向かって欲しい。カロイっ!」
「ハイ」
「今回もふたりに共せよ。すぐに向かえ」
廊下を走りながらカロイが言った。
「また大変な事になりましたな・・・・・・。馬を用意して下で待っております」
「カロイ、あなたは何も聞いていないの?」
ショウが鋭い横目を向けて聞く。
「まさか、はい。こんな急務を仰せつかるなんて、正直びっくりしていますよ」
「ギンジムって言ったら、ガーラ領よね。馬でどのくらい掛かるの?」
「まあ、2日も走り続ければ・・・・・・、途中、山脈を越えなければなりません」
「もう、よく分からない任務の上に、寒い山越えなんて・・・・・・」
「王の命令ならば仕方がありません。ねぇケンジ様」
「えっ、うん。まあそうだね」
「はははっ、ケンジ様はこんな時でも変わらない。お見事です」
「何言ってるのよぉー。もう本当にー」
「あなた・・・・・・」
玉座の間には、アラン王とビアンカのふたりが残っていた。
「・・・・・・、ああ」
「もしかして、あの子達を行かせたのはー」
「ああ、昨晩お告げが届いたのだ」
「やはり・・・・・・。また例のエルフの長から?」
「ああ、これはケンジとショウにしか出来ない事らしい。もし失敗したり、時間が掛かり過ぎた場合は、此度の戦がより厳しい事になるだろう」
「・・・・・・、そう」
ビアンカは、ふたりが出ていった扉を見て行った。
「あの子達なら大丈夫よ、きっと」
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