12

永遠子はするすると私の衣類をはぎ取っていった。ブレザー、ワイシャツ、スカート。その間、私はただ立ち尽くしていた。その手に抵抗することもできなければ、協力することもできず、ただ。

 今になれば、あのときの永遠子の手際の良さを、慣れだと判断できる。永遠子は13歳にして、もうあの手の場面に慣れ切っていた。けれど13歳の私は、そんな事さえ分からず間抜けな案山子みたいに突っ立っていた。私にはその手の経験がなかったし、目の前の永遠子に陶酔しきってもいた。永遠子にとっては、つまらない、ありふれた相手だっただろう、

 私を下着姿にした永遠子は、自分の着ていた白いワンピースに手をかけた。私は、息を飲んで彼女のその様子を見ていた。

 するりと、ひと動作で永遠子は下着姿になった。下着も白かったけれど、私には永遠子の肌の白さしか目に入っていなかった。

 「したい?」

 うっすらと笑みを刷いた唇で、永遠子がそう囁いた。

 私はがくがくと、震えるみたいに頷いた。なにをするのかさえ正確には分かっていなかったくせに、ただ永遠子に触れたいと、その欲求だけで爪が溶けそうなくらいだった。

 「いいよ。」

 永遠子はさらりと微笑んで、一歩後ろに下がると、その場に横たわった。

 いいよ。

 私はなにを許されたのかさえ把握できていなかった。

 まさか、この身体に、目の前に投げ出された子の真っ白い身体に、触れてもいいという許可が出たのだとは、到底思えなくて。

 「久子、ここに。」

 永遠子の白い腕が、ぽんぽんと彼女の傍らの床を叩いた。

 私は震えながら、操られるみたいに永遠子に示されたちょうどその場所に腰を下した。

 永遠子はやはり笑っていた。暗闇の中でも、彼女の赤い唇が微かに笑っていることが辛うじて読み取れた。多分あのとき永遠子は、私の事をあざ笑っていた。あっさり永遠子の罠に落ち、ずぶずぶと底なし沼に嵌っていく私を。だって永遠子は、あまりにも性的な事柄に慣れ切っていたし、いっそそれらに倦んでいるような様子さえあったのだ。援助交際と妊娠と堕胎。それらは真実だと、私はそのとき悟るべきだった。おずおずと、幼い性欲に身を焦がしながら、永遠子に触れる前に。

 永遠子は静かに笑ったまま私を受け入れた。永遠子の身体は、私が触れるままにいくらでも形を変えていく軟体動物のようだった。いくら触れても、触れている気がしない。彼女の肌の冷たさが、さらにその感覚を助長させた。だから私は、泣きたいくらいの欲望を持っていたのに、それを果たすこともできなくて途方に暮れた。抱いても抱いても抱ききれないような永遠子を前に、幼かった私は途方に暮れたのだ。

 

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