46.帰宅

 我らがパーティーハウスに帰った。


 いやこっそり帰ろうとしたら、パーティーハウスに帰り着く前にスズが飛び出してきて泣きつかれた。その様子を苦笑しながら見ていたクルスさんが、「また明日来ます」と言って帰った。スズに「ごめん」と謝るが、スズは「ウチが力無いせいでごめん」とずっと泣きながら謝ってくる。しばらく泣いた後、冷静になったスズが少し恥ずかしそうに「シルとマジク、ずっと泣いとるからな。覚悟しいや」と俺に告げた。


 パーティーハウスの扉を開けるやいなや、スズが大きな声で「レオっち帰ったでー!」と叫んだ。ドタドタと大きな物音ののち、マジクがひょっこりと顔を覗かせた。目が合い、「ただいま。ごめんな」と言うと、マジクが大泣きしながら飛びついてきた。もうずっと大泣きしていて泣き止んでくれない。話そうにも言葉にならない様子のマジクの頭をずっと撫でた。しばらく撫でていると、その様子を見ているロサリアさんとレイラに気付いた。二人はこちらを確認すると言葉には出さず口だけ動かして「おかえり」と告げて引っ込んだ。ようやく泣き止んだマジクだったが、引っ付き虫と化してしまい離れてくれない。



「マジク?」

「やー」



 と声にもならない。背中にマジクを貼り付けたまま、シルの私室へ向かった。扉をノックし、シルが出てくるのを待つ。返答はなかったが、しばらく待つと顔を赤く腫らしたシルが扉を開けてくれた。俺の顔を見て少し固まり、そしてぐしゃぐしゃに顔を崩し「゙お゙がえ゙り゙な゙ざい゙ー」と言って泣きながら俺の胸に飛び込んできた。シルにつられたのか背中に貼り付いているマジクまで再び泣き出した。その様子を横で見ていたスズまで泣き出してしまった。

 

 皆が落ち着いてから居間に集まった。

 椅子に座るとマジクが俺の上に座り抱き付く。



「マジク、ちょっと飲んだり食べたりし辛いかなー?」

「やー」



 うん、これは無理だな。そして俺の左腕を取り肩にもたれかかりながら未だにぐずっているシル。身動き取れないよこれ。スズを横目で見るも助けてくれそうにない。



「で、何があったん?」

「うん」



 ここからは掻い摘まんで話した。

 セルキスがクルスさんの血を欲していたこと。セルキスが『魔女』化をしたが失敗したらしいということ。リィナさんがそれを見て贋作と罵りセルキスの胸を貫いたこと。セルキスが逃げたこと。リィナさんとマジク母は一緒に去ったこと。



「つまり……クルス様と取引をするエサにされたんか」

「そういうことみたい」

「リィナ師匠……」

「結局、どういうことかは分からないけどシルの為、みたいに言ってたけどね」

「でもスズを傷付けた……」

「うん、まあそこは後で話を聞いてぶん殴ろう」

「……うん」

「アレと一緒にいるんだ」



 俺の胸に顔を埋めていたマジクが顔を上げた。怖い。なんかすっごい怖い顔してる。ゴゴゴゴゴゴゴってマジクの後ろに見えない筈のエフェクトが見える気がする。



「お、おうマジク。落ち着こう、ね?」

「うん……」



 一瞬マジクの髪が逆立ったような。というか雰囲気が変わったような。

 頭を撫でたら落ち着いたけど。



「しかし……強かったな。あの二人は」



 リィナさんとマジク母。まったく連携取るつもりは無さそうだったけど個の力が強過ぎる。なんだあれ反則だろ。ロサリアさんが状態が完璧だったとして、クルスさんもいたとして。……勝てるビジョン見えないんだけど。

 うーんと腕を組み悩んでいると、察したスズが話題を変えた。



「にしても前、レオっちに主人公はそんなこと言わないみたいなこと言うたけど、どっちかっつーと扱いがヒロイン化しとるな」

「見た目がヒロイン化してるのはロサリアさんだから」

「ぐはっ」



 会話に参加していたロサリアさんにダメージが入ったらしい。



「なんや男二人でダブルヒロインしおって。こっちに役回さんかい」

「ダメージ入ってるロサリア姉様可愛い」

「……うん、レイラ様も本来はヒロイン側の筈やねんけど」

「柄じゃないし」



 レイラはそういうが、ホスチェストナッツの時は完全にお姫様だった。どちらかが演技だとしても演じ分けが凄すぎる。



「……ようやく、いつもの空気が帰ってきたな」



 うんうんと頷くスズに皆同意する。



「でレオっち、話あるんやけど」

「あ、私も……」

「私もー」



 スズの言葉にしがみついているシルとマジクも乗った。



「うん、三人とも、どしたの」



 皆、目が死んでる……?



「いや今回ウチ、自分の無力さをよー分かった訳やんか」



 あ、これ嫌な予感する。



「私も力が全然足りなくて……」

「レオ助けられなかった……」

「い、いやそれを言ったら俺がミスったからで、ね?」



 ああ、いつものやつだこれ。

 見てみ、ロサリアさんとレイラ苦笑してるから。



「「「だから私(ウチ)、『白獅子』辞めようと思うんだけど……」」」

「何でもするからそれだけは勘弁して!」



 いつものやつである。日常が帰ってきたなと思った。

 こんな日常の感じ方、本当に嫌だけどね!



※良い感じに終わったように見せてまだ何にも解決してない件。

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