32.城へは行かない!
夜が開ける少し前。
レオの朝はいつも通り素振りから始まる。宿の庭にて剣を振る。しかし一心不乱にとはいかなかった。
(俺のパリィはスキルじゃなく技術ってマジだったんだな……)
決められた型を無視してもキチンと相手の攻撃をはじけたと言うことは、そういうことなんだろう。そもそもスキルが何なのか、スキルを使うという感覚はどういうものなのか、まったく分からずにひたすら真似をして出来ていたつもりになっていたのだから滑稽この上ない。
つまり十年近く努力すれば戦士系スキル下級、初心者が覚える最初の技くらいならスキルではなく技術として使えるということ。
そして、戦士系下級を一つ覚えたつもりで他もいつか覚えるだろうと必死に剣を振っていたことが全部無駄だったということ。
(……いや、無駄ではないか)
マジク母曰く、攻撃をはじくスキルは下級なら下級の攻撃しかはじけないらしい。なら何故俺がまったく別次元の、それこそロサリアさんの技すらはじいていたのに誰も疑問に思わなかったのだろうか。
ロサリアさんはスキルの変質だろう、と言っていた。結果スキルでは無かったのだから、俺の技術はホスグルブ最高の騎士の目すら欺けるレベルなのだろう。
というかパリィ使ってる奴ほとんどいないからか? 相手の攻撃に合わせて使うより避けるか他のスキルぶつける戦いのほうが良く見るっちゃ見るし。発動タイミング間違うと死ぬスキル使う馬鹿いないって冒険者ギルドの誰かが言ってた気もするし、それもそうかって納得した気もするけど。
ま、ロサリアさんと同じく変質した、と思われていたのが正解かな。それ一本で何年も飯食ってたからな……。結果として、シルのバフ無しでも『五龍』クラスの超人じゃなければシルの付与無しでもはじくだけなら出来るし。
うん、無駄じゃない。無駄じゃないぞ。
他の技覚える為にやってたから、そういう意味では完全に無駄とか考えると負けな気がするから考えるんじゃない俺。
「おっすー」
「……あれ、随分と遅くまで頑張ってたんだな」
「ちょっち頑張り過ぎたわ」
スズが帰ってきた。
昨日狐の面を握っていたから『怪盗ルミナーレ』として暴れ回っていたのは分かるが、夜明け前までというのは珍しい。
「大丈夫? 今日一日休む?」
「へーきへーき。ウチ二徹までならよゆーやし。水浴びだけしてくるわ。覗いたらアカンよ♪」
「へいへい。行ってらー」
「ま。レオなら覗いても良いっちゃ良いんやけどなー」
それだけ言って手を挙げヒラヒラ揺らしながら宿の中へスズが戻っていった。
「疲れてんな、スズ」
いつもよりスズの足取りが重い。それに平時のスズなら覗いても良いなんて言わない。
よし。
今日の城に行く予定は辞めてしまおう。レオはスズの様子を見てそう決めた。
という訳で。昼前、城から来た送迎の人々に「今日無理。行かない」と告げる。
「そんな! どうかお願いします!」
「無理。俺
「……絶対にお願いしますよ!」
と少し問答をして追い返す。ルーラン嬢には何泊でも大丈夫と言われているので問題無い。
「いや国側の都合として問題大ありなんちゃう?」
「そんなもん知らん。スズのほうが大事」
「……はいはい」
「あー、スズ照れてるー」
「マジクうっさい!」
スズの様子を見て今日は一日、宿でのんびりすることにしたのをやはりスズは少し気にしていたが、こういう時はパーティーリーダー権限とか言って無理矢理休ませる。そんな権限無いんだけどシルもマジクも笑顔で同意してくれたので良しということで。
「私が来ました!」
「帰ってどうぞ」
今日は一日のんびりと、宿の俺の部屋にみんな集まってダラダラとカードゲームをしていたらどっかのプルスウルトラ的な最強ヒーローみたいな台詞を吐きながらクルスさんがやってきた。というか宿の人も俺になんか聞いてからクルスさん部屋まで連れてくるとかないの? ……まあ『聖女』様の訪問とか普通は邪険に扱わないか。『聖女』様だ! と外で騒ぎが起こってしまっているのは流石ではあるがもうちょっとこう……、いや、わざと目立ってやがるなコレ。
「ヒマなのであれば少し街を回りませんか?」
「今日は引きこもりの予定で一杯なので」
面倒なのでいつも通り適当にあしらおうとしたのだが、まさかの方向からクルスさんへフォローが入った。
「ええやん、レオっち行ってき?」
「スズ?」
スズがクルスさんとの同行を進めてきた。意外というかなんというか。
「スズさんも是非ご一緒に」
「ウチはレオっちに休め言われとるからええわ」
「ではシルさんとマジクちゃんも」
「あはは……私はスズと居るから」
「私もー」
ニコリと笑いながらクルスさんは皆も誘ったが、皆スズと一緒にいるとのこと。
「すまんなレオっち。ウチ、モテモテやったわ」
「それは知ってる」
カラカラと笑いながらスズに言われた。知ってる。実際、スズはモテる。主に女性に。『怪盗ルミナーレ』としてもだけど、素でモテる。
「多分二人で話あるみたいやし行ってき」
とスズに耳元で呟かれた。ええ……面倒「面倒とか思わんでな?」なんでみんな俺の心読めるん?
「顔に書いてあるで」
「レオさん表情に出ますからね」
言葉にしなくてもだいたいのことがスズとクルスさんに伝わるの笑う。
◆
「スズさんに感謝ですねー」
「そう?」
「そうです。レオさん最近冷たかったですからね」
「うちのパーティー最優先なだけでは?」
「だったら『白獅子』に入れてくれてもいいじゃないですか!」
「良いわけないんだよなあ」
「もう、いじわるなんですから」
意地悪とかそういうんじゃないし。シルのメンタルを優先するだけだし。そんな適当な会話を久しぶりにしながら街中をダラダラと歩く。
「『白獅子』様!?」
「『聖女』様も!?」
めちゃくちゃ目立ってて失笑。まあ遠目から見てくれてるだけマシか。
「そういやロサリアさんやレイラは?」
「ああ、あの二人は国賓として呼ばれていますから城に居ますよ」
「……それクルスさんも一緒なのでは?」
「一応そうですけど、『聖女』としての行動は何事にも優先されるので問題ないんです」
「街中ぶらついてるだけでは?」
「大丈夫です。周りが勝手に深読みして理由を考えてくれますから」
「誰だよこんな不良『聖女』にしたの」
「……ほんと、誰なんでしょうねえ」
やべ。なんか地雷踏んだ? クルスさんは一瞬立ち止まって俯いた、ように見えたが次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。……うん、絶対地雷踏んだな。
「なんて、目的があるのは本当ですよ」
「目的?」
「ええ、『白獅子』に依頼があります。ニコウにある古代遺跡への巡礼と儀式の護衛です」
「護衛? ……ああ、それで神殿騎士団も一緒に来てたのか。っていうか神殿騎士団がいるなら不要じゃない? 俺達を雇うってそっち側の面子とか大丈夫なの? 面倒事は嫌だけど」
「確かに私の護衛目的で神殿騎士団の皆さんはいらっしゃいましたが、彼らの護衛対象を変更することにしました」
「変更?」
「ロサリアさんやレイラさんもですが、この国へ招かれた理由は、マカロン姫のお父様、つまり亡き王の国葬が行われる為です。我ら聖堂教会の教皇様もいらっしゃいます。ですので彼らには教皇様の護衛をお任せしようかと」
「待って待って。その国葬にクルスさんが出ないのはマズいんじゃないの?」
「いえ、先ほど申した通り、『聖女』としての行動は何事にも優先されます。何事にも、です。それは全ての国において同様に。ニコウにある古代遺跡への巡礼と儀式は『聖女』として絶対に果たさなければならない役目なんです。……九つの時、訪れた事があるのですがその時は私、失敗してしまいました」
「……歴代最高って言われてるクルスさんが?」
「ええ、なので力はあれど『聖女』としては落ちこぼれですね」
そんなことある? 奇跡を体現しているとか言われているクルスさんが?
「ああ、レオさんも城の人に『聖女の護衛に行く』『国葬が終わるまで登城はしないから』って言っちゃえばしばらく問題ごとを避けられますよ」
「よし行こう」
「ありがとうございます」
そう言うとクルスさんは俺の手を取り。自分の首に触れさせた。
「レオさんには色々知って欲しいんですよね。ほら、これが私の頸動脈の拍動です。ドクドクしているのを感じますか?」
「ちょ、急に何を」
「心臓の鼓動と同じかどうか、私の胸を触って確かめますか?」
「あーあそこに焼きギョーザ串の屋台があるなあそこに行こうそうしよう」
「ふふ、可愛いですねえ」
この後ひたすら揶揄われ続けた。なお、古代遺跡にはスズとマジクは行かずに俺とシルだけ行くことになった。
この街での『怪盗ルミナーレ』無双はしばらく続く模様である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます