25.クルス合流
「それでレオさんは何故マカロン王女と一緒に?」
「……なんでだろうねえ?」
『聖女』の護衛をしていた神殿騎士団に、イーノキ教の集団と一緒にいるようにクルスが命じた。当然反対されたが「だって貴方達全員よりレオさん一人のほうが強いですよ?」とクルスから言われ押し黙った。『黄龍』一人に打ちのめされた神殿騎士団に、『黄龍』と同等の実力と言われる『白獅子』の存在は重い。「いや、それを言うならクルスさん一人のほうがよっぽど強いんじゃ……?」とのレオの呟きは無かった事になった。レオの頭の中ではロサリアとクルスが互角で遥か下にレオという図式なのである。
なので神殿騎士団は、可哀想に全員無理矢理赤いタオルを首に掛けられイーノキ教の集団に合流。クルスはレオ達と一緒にウツノミヤへ行く事になった。
それはともかく、クルスからの質問に「そういやなんでだっけかな……」と不思議そうに答えるレオ。あまり深く考えないようにしていた為である。事の重大さを理解するということを放棄しているとも言う。
「なるほど。成り行きですか」
「え、今のやりとりで何故分かるんですか!? 流石『聖女』様……」
「あはは……」
そんなレオの様子を見て、物事を考えるのを辞めている時のレオだとクルスは理解した。レオが思考を放棄する時はだいたいスズあたりに全てを任せている時だが、とりあえず目的地があるのでそこに行く、という事以外考えていないんだろうなと。
レオとクルスの関係性を知らないマカロンは思考を読めるかのような『聖女』様に驚嘆する。
そしてそんな様子に苦笑いを浮かべるしかないシル。
この様子は現状の問題点を浮き彫りにした。
そう、ツッコミ不在なのである。
「そうです、『聖女』様。これを見て頂きたいのですが」
「これは……『星三華』の証、ですか。確か『月薔薇』と『翠百合』」
「はい。レオさんが獲得している物です」
思い出したかのようにマカロンが取り出した『星三華』の証。
レオが獲得、とのマカロンの言葉に一瞬クルスが顔を顰めた。
クルスが親しい人間以外にそんな表情を見せてしまうのは、本当に珍しい事であり恐らくロサリアが見たら驚愕していた程である。
「なるほど。……レオさん?」
「ん?」
「『星三華』の証についてですが」
「何それ?」
「……なるほど?」
おそらくレオは本気で言っているなとクルスは思う。
マカロン曰くレオが『星三華』の証二つはレオが獲得した物。なれば王族であるマカロンの目の前で獲得した物だろうと。『星三華』の証を三つ集めればホスチェストナッツの王となる資格を得る事が出来る。……レオが王位に興味を持つ? いやそれはない。
「マカロン王女。レオさんに『星三華』の話は?」
「興味ない。どうでもいい。いらない。そう仰られていて……」
そうでしょうね、と少しクルスは安堵した。
ホスチェストナッツの人間からすると理解不能であろう。闘争の国である。その国の最強の証であり国の象徴とも言える物である。地位も名誉も手にする事が出来る、誰もが欲する証である。
けれどもレオを知る人間からすると、それは当然だと思う。レオはそう言った物に対する欲求が無い。地位も名誉もいらないと言って憚らない人間である。もっとぶっちゃけて言うと仲間以外興味が無い。
だからホスグルブの人間はレオを自国に縛る物が無い事に焦りすら感じている。レオは昔から住んでいるから、なんとなくそのまま住んでいるだけなのだから。
「レオさんらしいですね」
マカロンの言葉を聞いて、クルスは相変わらずなレオに笑う。
「ですが、恐らくというかこのままだと間違いなく三つ、証揃えてしまうと思うんですよね……。我が国としては大問題になると思うのです」
「そうですね……。諦めては?」
「ええ……」
まさかの『聖女』の言葉にマカロン王女ドン引きである。
「レオさん、自由人ですから」
「いや、あの、多分これ新たな騒動になるというか」
「大変ですね。頑張って下さい。レオさん、王となる気は無いですよ? 間違いなく」
「うう……」
クルスは問答無用でぶった斬った。救済は無い。というかこの問題にクルスが関与するということは完全に教会によるホスチェストナッツへの内政干渉になる。現状のマカロンとしてはむしろ教会を自分の味方にしたい所であるが、そんな事をすれば教会の上層部がそんなに甘いものではなくこの期にホスチェストナッツの根幹に永劫入り込むのがクルスには分かりきっていた。
つまり深く関わらない、というのがクルスの優しさなのである。
「あの、イーノキ教設立と本部設置の支援、うちで用意しようと思うんですよね」
そうきたか。
イーノキ教はクルスが受け持つと宣言している。聖教会ではなく、『聖女』クルスに助けを求めていると。クルスとしても聖教会内で余計な揉め事が勃発しそうな気配を感じている上、闘争の原因となるであろう『形天』についてまだ詳しく掴めていない。犠牲となりうる人を逃がす場、というのは欲しい所。
「……言ってる意味分かっていますか?」
「もちろんです」
世間知らずの王女かと思えば案外したたか。クルスはマカロンへの認識を少し改めた。
「……一応言っておきますけど、うちの面倒ごとにも巻き込まれますよ」
「それでも私には味方が必要なんです」
ああ、なるほど。この王女はきちんと理解と覚悟をした上で言っている。
なれば、良いか。
利害が一致している関係なら悪くはないとクルスは思う。
「私が『聖女』である当代のみ、という事になりますよ。次代においては次代の考え方に任せますので」
「勿論です。『聖女』クルス様であればこそ、と思っています」
「分かりました。……当代がいつまでかは分かりかねますが」
「私は少しでも長くクルス様に『聖女』であり続けて欲しい、と願います」
「……そうですね、私もまだ、もう少し長く生きたいと思うようになってしまいましたから」
そう言ったクルスの視線の先にはレオとシルの二人。
「なあシル、今日天気良いな」
「レオ、レオの事も話してるけど良いの?」
「難しい事は分からん」
いつも通りな二人。隣が自分じゃない事を少しクルスは寂しく思う。
「レオさんは『聖女』についてどこまで?」
二人を見つめたクルスにマカロンが尋ねる。
「言ってませんし知らないでしょう。各国の王族や教会の上層部以外、『聖女』の持つ真の役割は知らないはずです。それにレオさんは元々『聖女』という存在に興味ない人ですからね」
「……それで宜しいのですか?」
「私にとって、立場など関係なく接してくれる唯一の人ですから。崩したくないんですよ。それにもし口に出してしまうと……言ってしまうと思うんですよね」
──助けてください。
クルスの立場上、絶対に言えない言葉。
『聖女』という役割を放棄する言葉。
それは自身が『聖女』である事を当然として、レオと出会うまでは考えもしなかった言葉だった。
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