追1-2.シル出会い中編
「あんまりモンスターに出会わないですよね」
早朝、さっさとキャンプ道具を片付けて依頼先の村へ向けとことこと歩き出した。シルさんは昨日から外でモンスターに出会わないのが少し不思議なようだ。
「大きな街や街を繋ぐ街道近くにはモンスターは寄ってこないからね。百年近く前の凶悪だった頃はどこでも現れてたみたいだけど。だから小さな村でモンスターが出たら依頼が大きな街のギルドに寄せられるんだ」
「そうなんですねー。師匠と住んでいた家、森の中だったんですけどモンスターがたくさんいましたよ」
「え、それ大丈夫だったの?」
「はい、師匠が良く爆殺してましたから」
「へ、へえ、そうなんだ?」
良く爆殺してました、えへへと笑顔でシルさんは言う。あれ、この娘思ってたよりもずっと変わってる……?
「そういえば、師匠が言ってたんですけど」
「うん」
「オークって人間の屁の臭いを嗅ぐと死ぬって本当ですか……?」
「いやいやいやいや初めて聞いたけどそれ嘘だと思うよ!? あいつら獣臭凄いしそれくらいじゃ死なないでしょ!」
「あーやっぱりそうですよねえ」
これシルさんじゃなくてその師匠って人が悪いわ。そう確信した。
そんな雑談をしながら依頼先の村に着く。村長の家を教えてもらい、村長と依頼の内容の確認。村長の話だと畑に最近良くゴブリンが五匹ほど出現するらしい。収穫時期だからな。
「じゃあちゃちゃっとやってきますよ」
「宜しくお願いします」
「ええ、任せて「レオさーん!」……シルさん!?」
村長と話をしているとシルさんの大きな声が外から聞こえてきた。俺は慌てて外に飛び出した。
「レオさん、ゴブリン見つけましたー!」
そう言って尾を引っ張るシルさん。
人型で緑肌の醜悪なモンスター。うん、大体合ってる。
体長が三メートルほどある巨体じゃなければ。
「シルさん、それオークって言うんだけど」
「へ?」
シルさんはオークを見上げて、少し考える。
「……なるほど!」
「なるほどじゃないよねえ!?」
「あはは、オークさん間違えました。帰っていいですよ」
「それで帰るわけないよねえ!?」
何がなんだか分からないといった顔をしていたオークだが、まあいいかと手にしていた棍棒代わりの巨木の枝をシルさんへ振り下ろす。
「あっぶない!」
「ふえ」
振り下ろされた棍棒は大地を撃った。轟音が鳴り響く。流石にとてもじゃないが間に合わないと思ったのだが、俺は何故か振り下ろされた棍棒より速くシルさんの下へ走り、シルさんを抱えて離脱出来た。
「シルさん、流石に危ないから注意して」
「すみません……」
村中に響いた轟音になんだなんだと家々から村人が出てくる。小さな村に現れたオークを見上げ、多くの悲鳴が上がる。
「さてと、どうすっかな」
「あの……」
オーク。デカい。力強い。硬い。単純にフィジカルが強い。スキル無しの俺とすこぶる相性が悪い。頭は良くないから罠に嵌めるとか事前準備が出来れば良かったんだが。かと言って村に出てきてしまっているオークを放ってはおけない。
「えっと……」
「シルさん、今考えてるから」
「はい。でもあの……大丈夫ですか?」
「何が?」
「さっきからオークに殴られてますけど……」
「うん?」
振り向いた俺。棍棒を振り被るオーク。撃たれる俺。ノーダメージ。幾度も俺を叩いていたらしいオークは肩で息をしながら化け物を見る目で俺を見ていた。いや化け物はお前だけどな。
「……シルさん、付与魔導使ってる?」
「はい、村に入る前から」
「村に入る前!?」
「あ、すみません……。遅かったですか……?」
付与魔導。所謂バフ。一般的に言われている効果、およそ三十秒。それは『聖女』でさえ変わらない。
『聖女』様に一度聞いた事がある。力や速さ等のバフはスキルを使えば補えるのは分かるが、対麻痺やら対毒やらのバフなら使いようはあるんじゃないかと。『聖女』様からその時返ってきた言葉は、一度に数十秒しか持たないから食事の時とかなら使えなくはないが、一度受けて回復したほうが圧倒的に魔力の節約になる。白魔導師が状態異常になった時に回復出来るアイテムさえ確保出来ていればそのほうが良いと。
「……シル、付与魔導ってどれくらいの時間持つの?」
「え、時間測った事ないですけど……多分半日くらいです」
長え! いやそれもだけど!
「ちなみに今掛けてあるバフって?」
「『力』『速さ』『防御』『対魔導』『対毒』『対麻痺』『武器に切れ味』『武器に不壊』です。……少なかったですか!?」
「いやいやいやいや」
あれ、バフって一度に一つまでじゃなかったっけ?
「がああああああ!」
再び唸りを上げたオークが棍棒を両手で持ち渾身の力で振り下ろす。俺の頭部に直撃する。砕ける棍棒。うそやん。俺聞いたぞ、防御のバフって革の服一枚多く着たくらいの感覚だから過信するなって。
「……レオぱーんち」
適当な事言いながら軽くオークの腹部を殴る。悲鳴を上げながら宙に舞い吹っ飛んだオークは頭から落下しピクピクと死亡寸前である。
「レオさん凄い! オリジナルスキルですか!?」
「いやいやいやいや」
何これ。キラキラ輝いた目で俺を見るシルさん。いや違うよとんでもないの貴女ですよこれ。とりあえず終わらせなきゃとオークに近付いた俺は、ふと思い出したので試してみる事にした。ぷぅっと空気が抜ける音。拳に臭いを握り締める俺。オークの顔面で拳を開く俺。絶命するオーク。
「嘘でしょ」
「レオさん、オークって本当にそれで死ぬんですね」
「シルさん、俺に『屁に即死』とか付与したりしてない?」
「あはは、やだなーそんなのある訳ないじゃないですか」
「そうだよね……」
本当に? この娘とんでもなさ過ぎて疑っちゃうぞ。ほんとは『屁に即死』とかいうオリジナルバフあったりしない?
あと気付いたらゴブリン五匹がこっちを驚愕した顔で見ていたので拾った石を投げたらゴブリンの上半身がパーンと軽快に爆散しました。
「レオさん凄いんですね……」
「凄いのどう考えてもシルさんだよ!?」
バフってレベルじゃねえぞこれ。どうなってんの……。
「いやー、なんという圧倒的な力! すさまじいですなあ!」
手を叩きながらやってくる村長。それと周りの村人も先程の一方的な虐殺を見てキャッキャと騒いでいる。
「圧倒的でしたな! いやーあれだけの強さを見たのは長い事生きてきたが初めてだ」
完全に人外レベルでしたもんね。俺が一番びっくりしてるんだが。シルさんが横で凄い凄い言ってるけどあんたがやったんや。
「いや、俺の力じゃなくてこっちのシルさんの付与魔導が凄くて……」
「付与魔導で? なるほど。いや、そういう事にしておきましょう」
完全に村長信じてなくて笑う。なるほどじゃないんだが。勝手になんか勘繰らないでもろて。村長から依頼書に依頼完遂のサインを貰って街へ戻る最中、気になった事が多すぎてシルさんに質問しまくった。
「あのオークどこから引っ張ってきたの?」
「え、街の真ん中にいましたけど。やだなー私の力で何処かからあんなに大きいの引っ張ってこられないですよ」
「シルさん自身に付与魔導掛ければいけるんじゃない?」
「私、何故か自分には掛けられないんですよね」
「誰かに使った事は?」
「師匠には使いましたけど、『まあ付与魔導ならこんなもんでしょ』って言ってましたね」
シルさんがバグってるの絶対育ての親のせいだよねこれ!
「あれ、一つ前にもパーティーに参加してたんじゃ?」
「ああ、スキル持ってるから使わなくて大丈夫だから後ろに下がっててって言われちゃって」
なるほど。勿体無い事したなそのパーティー。新人だから危なくないよう配慮した結果なのか。まあ普通の付与魔導基準で考えたらそうもなるか。
そうだな。
よし、決めた。
「シルさん、良かったらうちのパーティーメンバーに会ってみない?」
「へ?」
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