第5話 序列ノ儀とリズの隠し事

 舞台の上の錬成士は、僕を差した指の向こうでニヤリと笑った。


 儀式の参加者たちは指名された相手の詮索せんさくいそしんでいたので見ることはなかっただろうが、彼が顔の片側をゆがめて笑うその表情は背筋をゾクッとさせるようなものだった。

 

 カノンの家族であるアルテミス家による嫌がらせか、はたまた我が家ベアトリクス家への因縁いんねんか――。理由はわからなかったが、その男を突き動かしているのは暗い感情であることだけは確かだった。


 僕には苦手なことが二つある。

 ひとつは早起き。もうひとつは――注目されることだった。


 序列じょれつに際して、視線にさらされながらの錬成となることは想定していたが、まさか全員の前で錬成することになるとは……。


 苦手な場面設定に茫然ぼうぜんとしていると、不意にそでが引っ張られる。いつの間にか離れて座っていたはずのカノンがすぐそばにいた。


「リズ――」


 彼女が眉尻まゆじりを下げていたので、何とか取りつくろおうとしてみたものの、僕は上手く笑うことができなかった。

 カノンの心配を引き受けたのだから困らせてはいけない、と自分を奮い立たせようとするがうまくいかない。


 そんな僕を見たからか、カノンはほほを膨ませた。


「私、あの人――大っ嫌いっ!」


 御淑おしとやかなお嬢様のイメージとかけ離れたその一言に、僕は開いた口がふさがらなかった。


 カノンの声はそれなりのボリュームであったため、近くに座っていた参加者たちも身体をプルプルと震わせている。笑いを堪えているのだろう。

 

「ぷっ……あははっ! カノン、だめだよ。先輩にそんなこと言っちゃ……ふははっ」


 僕が吹き出したせいか、周囲もつられて笑いのダムが決壊する。緊迫した雰囲気は一気に和らぎ、なごやかな空気が伝染していった。


 しばらく笑いを止められずにいると、カノンは恥ずかしさを誤魔化すためか、さらに頬を膨らませた。その愛らしい表情を眺めていると、当てられた悪意が小さくなっていった。


 こみ上げてくる衝動が一段落したところで、カノンに頭を寄せてその優しさに感謝すると、満足気な彼女はそれ以上何も言わず元いた位置に戻っていった。

 

「さて……売られたケンカは買わないと、ね」


 そう独りちて勢いよく席を立ちあがると、カノンの作り出した空気にまれた参加者たちから「がんばれっ!」と声援を受ける。


 舞台に向かう間に一度だけ振り返ると、周囲の詮索にも澄まし顔をしていたが、耳だけは真っ赤だった。


 また助けてもらっちゃったか――。


 反省交じりにそう思ったが、僕の心は羽のように軽く今ならなんでもできる気がしていた。





 僕が登壇すると、壇上の錬成士は澄ました顔を浮かべて会場へと呼びかけた。


「勇気ある彼に称賛の拍手をっ!」


 張り上げた声にまばらな拍手が起きるが、収入を期待したイベントであったなら失敗を予感させる程度だった。参加者たちはご近所さんとの噂話に忙しいらしい。


 彼の呼びかけは、ほとんど無視されたといっても過言ではなかったが、「うんうん」と何度も頷いていて満足そうにしている。どうにも友達にはなれそうもない。


「ではまず、名乗っていただけますでしょうか?」

「……リズム・ベアトリクス」


 端的たんてきに名乗ると、会場は一気にザワザワと騒がしくなった。

 が、それは気にもめずに僕は切り返す。


「そういうあなたは誰なんだ?」

「おや、失敬しっけい。私はゾルガ・オルディン――と申します」


 彼がうやうやしくお辞儀をしながら名乗ると、女神ノ間のざわついていた空気に拍車が掛かる。

 

 オルディン家は、過去に司祭を何人も輩出はいしゅつした銘家めいかで、現司祭フルーゲ・オルディンもその出だ。


 オルディン司祭は、錬成士を大量に失った八年前の大事故を生き延びた数少ない錬成士であり、三専制さんせんせいの司祭のうち二人を失った後も、協会を率いてきた人物だ。指導力もあり、世間からは絶対的な信頼を置かれている。

 錬成の腕も確かで、水や風といったものを扱う特異錬成以外においては、司祭の右に出る者はいないとまで言われている。


「そういうことか……」


 この自信過剰な態度と奇抜な行動は、その後ろ盾があってこそなのだろう。

 しかし、そのオルディン司祭の子息の評判は決して良くない。


 虎の威を借る狐――。

 それが息子ゾルガに下された世間の評価だった。


「では、早速錬成をしていただこうと思います」


 彼はふところにしまっていた錬成石を取り出すと、こちらへ放り投げた。


「お好きなタイミングで始めてください」


 そう言い残すと、ゾルガは再び歪んだ笑みを僕だけに見せて舞台を去っていった。どうやら右往左往するのを観客として楽しみたい、ということらしい。

 

 一人残された僕は、根源石クリスタルにおかしな仕掛けがされていないかを確認する。が、特にそういった点は見られない。


 純粋に失敗してほしい、ってわけか――。


 どうやったかは知らないが、ゾルガはおそらく僕が視線を苦手としていることを知っているのだろう。その怒りを買った覚えはないが、相当に嫌われていることだけは間違いない。


「はぁ……」


 彼の思惑通りに舞台に立ってしまったからには仕方ない。

 いっそのことあの自信過剰な表情を打ち砕いてやればいい、と前向きに捉えることにする。


 序列じょれつの宣言では、形状変化や材質変化といった錬成士としての片鱗へんりんを見せれば十分であるような言いっぷりだったが、最早それだけでは僕の気が済まない。


 負けん気をたぎらせると、僕は錬成物アーティファクトを思案し始めた。





 理想は高く掲げたのはよいものの、やはり苦手なものは苦手なままで、一段高くなっている舞台からでは嫌でも儀式の参加者たちが目に入ってしまう。思考にはどこか霧がかかっているように冴えなかった。


 集中を欠いて秀逸しゅういつイメージを持てずにいたそんな時、目の端に黄金色の何かが映った。


 カノンの美しい髪だった。彼女は他所行よそゆきの微笑みを浮かべていたが、目だけは鋭く舞台を降りたゾルガを鋭く追っている。

 

 これは……相当怒ってる――。


 今にも槍でも錬成して投げ込みそうな雰囲気だったが、ふと僕の視線に気付くと睨むのをやめて、可愛らしく小さく手を振ってきた。


 そんな彼女との小さなやり取りの中で、唐突に錬成物アーティファクトイメージが降ってきた。彼女の首元がいつもより寂しく映ったのかもしれない。

 

 素材はシルバー。トップは網目状で、蝶番ちょうつがいを使った開閉式。長さは40センチ前後を狙っていこう。重くなりすぎないように密度はそこそこにして、っと……。


「うん、いいね。カノンに似合いそうだ」


 僕は思わず笑みを浮かべると、すぐに錬成に入る。


 素材は単一で規模も大きくないため錬成の難易度は高いわけではないのだが、手元の根源石クリスタル五等級未満カケラであることが懸念材料だった。


 昨晩使ったような高度に圧縮した根源石クリスタルでなくとも、五等級以上のそれであればなんら問題はないのだが、五等級未満カケラでは複雑なイメージに対応できず、崩壊してしまう場合がある。


「ふぅぅ――」


 あまりこねくり回さない様にと意識しながら、いつものように錬成光マナの気配を探っていく。


 間もなく見つかった錬成光マナは、今までで一番穏やかに循環していた。

 

 意識の中でも緑に感じるのはなんでだろう――。


 そんな場違いなことを考えながら、昨晩と同じように錬成光マナを溜めていく。きっと錬成士の素質がある儀式の参加者からは、僕の身体が翡翠色ひすいいろに発光しているのが見えるはずだ。


 必要量まで達しかけた錬成光マナを意識に繋げ止めつつ、今度はイメージの具体化に入っていく。

 


 才があると分かって錬成の練習を始めた頃、僕は上手くイメージを持つことができなかった。


 もっと分かりやすくと強請ねだる僕に、母は優しく説明してくれた。


「スプーンを思い浮かべてみて。大きさも重さも手に取るようにわかるでしょう?」

「うん。わかるよ……」

「大きさはどうかしら。先は細長い? それともまん丸?」

「おっきくてまん丸!」

「重さはどう? 模様はどんなかな?」


 そんな風に母は優しく、僕にイメージは積み上げなのだと教えてくれた。

 その経験が今の僕には活かされている。


 イメージが出来たら、集約した錬成光マナへと混ぜる。

 あとは、根源石クリスタルを近づけるだけだ。


「――っ!」


 そららの距離が限りなくゼロに近づいていくと、ある瞬間バチっと電気のようなものが身体中を駆け巡る。


 それに耐えていると、根源石クリスタルの握る感覚が変化していき、やがて身体には消費した錬成光マナの分だけ怠さが残る。


 根源石クリスタルから熱を感じなくなれば、それが完成の合図だ。


 少し……体力をつけた方がいいかもしれない――。


 連日の錬成にくらっと意識が歪んだ時、僕はそんなことを考えていた。


 さっきまで持っているのがつらいほどの熱さだった根源石クリスタルは、今やひんやりとした手触りで金属特有の滑らかさを顕現けんげんしていた。


 素材の変化が上手くいっていることを認識して僕は安堵する。

 握っていた指を慎重に開いていくと、そこにはキラキラと輝く首飾り――ネックレスが出来上がっていた。


 トップは桜色の波を入れた球状に仕立て、銀のチェーンは二面だけを平たく加工して、光を細かく反射するように設計した。球状部に僅かなマナを吸わせれば錠が開き、中には小さなものを収納できる。


 僕が参考にしたのは、ガムランボール。

 かつて、旅した時にお土産として買ってきたものだ。


 うん、部分的な崩壊なし。開閉機能も良好。デザインも想像通り――。


 「あっ……」


 出来上がった錬成物アーティファクトの出来を確認していると、そこが舞台の上だったことを思い出す。


 近づいてきた老練ろうれんの錬成士に首飾りを渡すと、彼は一度頷いてから高らかに宣言した。


「リズ・ベアトリクスを錬成士として認めるっ!」


 固唾かたずを飲んで見守っていた儀式の参加者たちは、その宣言を合図に盛大な拍手と歓声を上げた。女神ノ間の異常な雰囲気がようやく晴れた瞬間だった。


「完全な錬成物アーティファクトなのか……? 序列ノ儀だぞ?!」

「あんなにキラキラした首飾り、初めて見たわ!」


 各所から上げる賛辞に、僕は錬成前よりも戸惑っていた。

 だが、かつて母がそうしていたのを思い出して、錬成物アーティファクトを握った拳を高く掲げてみせた。


 すると――、会場には突き抜けるような歓声が響いた。


 

 そんな中、ひとりの男が舞台にあがってくる。ゾルガだ。

 

 彼は小ばかにするようにゆっくりと手を叩きながら、暗い笑みを浮かべて舞台の中央へとやって来た。


 僕は緩んだ顔を引き締めてゾルガと対峙する。

 が。次の瞬間、彼は僕から視線を逃がした。


「皆様にもリズ殿のような素晴らしい錬成を期待しています。では――、早速始めていきましょう。舞台に向かって右のブロックは……」


 ゾルガは極力きょくりょく僕をいないものとして振舞ふるまった。先ほどの錬成を認めたくなかったのだろう。真っ青にしてやろうという計画は達成されなかったが、僕は溜飲を下げていた。


 ことは終わったと舞台の袖へと向かっていると、すれ違った一瞬でゾルガは言った。

 

「緊張で漏らすんじゃないかと思ってたが、残念だ。くっくっく……」


 その物言いに食ってかかりたくなるが、女神ノ間での揉め事はゾルガにのみ責任を帰したい。そう思って、僕は無言を貫く。


 ゾルガはそれ以上を発しなかったが、その態度はこれは始まりに過ぎないことを告げていた。





 重圧から解放されて舞台から降りると、僕は儀式の参加者たちから次々に称賛受けた。

 慣れないながらそれに対応して、ようやく席の近くまで来たかと思うと、今度は外套がいとうのフードを目深まぶかに被った錬成士に呼び止められてしまった。


「ベアトリクス殿、こちらへ…」


 その錬成士は女神ノ間の両袖りょうそでにある扉の一つを示した。


 『またか……』とげんなりした僕であったが、一方でその錬成士の洗練された所作がそうさせるのか、従うことにあまり抵抗を感じなかった。敬称付きで呼ばれたことも、印象を良くしていたのかもしれない。

 

 僕はその錬成士に向けてあごを引いた。

 それから、カノンの方に向き直って「あ・と・で」と口の動きだけで伝えると、きちんと内容を理解したらしく、彼女はゆっくりとしたまばたきをした。



 錬成士に従って女神ノ間から出ると、塔の外周に沿って続く通路を進む。

 

 そして、古い扉の前で立ち止まると、彼は腰に掛けたいくつもの鍵の中から、かなり古いそれを取り出した。


 重い錠が上がる音とともに開いた扉をくぐると、そこは遥か塔の上層まで見上げることができる吹き抜けだった。

 正面には床が一段高くなっている部分があり、その四隅よすみからはレールのようなものが上へと伸びている。

 

 僕はそのように固まっていると、対して錬成士はスタスタと歩いていってしまう。


「これは昇降機というもので、長い階段を使わずとも塔の中を移動できるので重宝します。おそらく世界エイリアに一機しかないのではないでしょうか」


 促されて柵に囲われた中へ入ると、その錬成士は床からえた、円柱を斜めに切り落としたような操作盤と思わしき物の前に立った。そして、埋め込まれた黒の石に錬成光マナわずかばかり当ててやり、ボタンの押すと、バチっという音と共に地面がふわりと浮かび上がった。


 地上階から見えないところまで昇降機が上昇すると、錬成士はフードを外す。

 現れたのは整った顔立ちの若い男だった。色素が薄いのか女性のように色白で、髪は暗い青。前髪は目にかかり、襟足えりあしは肩まであったが、清潔感はある。まるでどこかの神官ようであった。


「私は上級錬成師のアドレーニ。オルディン司祭の秘書をしています」

「…………」

「そんなに警戒しないでください。ベアトリクス殿には司祭に会っていただきます」

「司祭、ですか。どのようなご用件なのでしょう?」


 そう問うとアドレーニは首を横に振った。


 これ以上は司祭に直接聞くしかないと理解して、昇降機がいくつかの乗り場が通り過ぎていくのを無言で見つめていた。


 やがて、とある乗り場に向けてゆっくりになっていった昇降機は、チンッと軽い音を鳴らして完全に停止する。



 再びアドレーニが先導して扉を開けると、そこには女神ノ間とは全く違う景観が広がっていた。


 まるで野原のようだ。神殿のような石工せっこうで作られた回廊かいろうの中央には、草木がい茂り、小ぶりな木までが生育されている。一番大きな木の陰には石造りの装飾もない机と椅子が三脚置かれていた。


 日差しがある――。


 それに気付いて見上げると、天井の大部分が透明な素材で日光を取り込める設計になっていた。調整機能も備わっているのか適度に温かい。


 遠くから陽炎ようえんの塔を眺めると上部の方に一段細くなる箇所がある。その細くなった主塔の周りに、三つの突起のようなものが並んでいるのだが、恐らくその内のひとつがここなのだろうと僕は想像した。


 中庭をぐるりと囲う回廊を歩いていくと、アドレーニはある扉の前で足を止める。


 「こちらです」


 光沢こうたくのある木製のドアをアドレーニがノックすると、一拍置いて部屋の中からかすれた声が聞こえてきた。


 「いている」


 無言で扉をひらいた彼の後を追うと、L字型の長机ながづくえで書類に目を通す中年の男が座っていた。


 「司祭、お連れしました。ベアトリクス殿でございます」


 紹介を受けて一礼すると、司祭は持っていた書類から目を外して僕を視界に入れた。


 僕も頭を上げるのと同時に司祭を観察する。

 顔には何日も寝ていないような深いクマが浮かんでいて、半分ほどを覆う皮膚のただれた跡が痛々しい。


 やがて、司祭は興味が尽きたとでもいうように再び視線を書類に落としてしまった。


 「他の該当者は講義室に集めておけ」

 「承知しました」


 アドレーニはその指示に素早く応じると、キビキビと部屋を出て行った。


 それからしばらくの間は、遠ざかっていく足音と書類をめくる不規則な音だけが部屋を支配していたが、足音が完全に聞こえなくなると、司祭はようやく口を開いた。


 「おまえも錬成師になったのだな」


 手にしていた書類を机に放り投げると、司祭は背もたれに深く寄りかかった。


 「……オルディン叔父さん、お久しぶりです」


 昔の呼び名を呼んでも、彼はわずかに頷いただけだった。


 オルディン叔父さんとの間に血縁関係はない。昔、叔父さんがよく両親と行動を共にしていたことから、懐いた僕が『オルディン叔父さん』と勝手に呼ぶようになっていたのだ。物心ついた頃から毎日のように夕食を囲んでいれば、そうなるのは必然かもしれないが……。


 僕の記憶の中では、今浮かべているような厳しい表情を見せることはなく、父さんとふざけてばかりの、優しくて楽しい人だった。


「下で錬成したものを見せてみろ」


 錬成物アーティファクトをポケットから取り出して渡すと、叔父さんは片目を閉じて注意深くそれを観察していた。


「見たことがないデザインだ……。思い起こせば、お前は昔から独創的な錬成物アーティファクトを造っていたな」


 何と答えればよいのかわからずに押し黙っていると、ひとしきり観察を終えて満足したのか、叔父さんは革張りの椅子を鳴らしながらそれを返してよこした。


 そのまま机の上で指を組むと、再び口を開く。


「かねてから、お前が錬成士になったら質問しようと思っていたことがある」

「……なんでしょう?」


 僕はどんな質問が飛んで聞くるのかと身を固くした。


世界エイリアの空はなぜ青いと思う」

「………………?」


 その質問が発っせられた時、真っ先に耄碌もうろくしてしまったのではないかと疑ってしまった。文脈的にも意味不明な上、何を求められているのかがさっぱりわからない。


 しかし、その鋭い眼光は一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを探っているようでいて、とても冗談を言っているようには思えなかった。


 さて、どう答えるべきか――。


 一般論になぞらえるのか、はたまたとぼけるのか。

 あまり間を開けるわけにもいかない。僕は逡巡すると、結論を出した。


「空は海の青を反射しているから青いのではないでしょうか」


 僕は惚けることを選択した。

 

 すでに錬成士の認定は受けている。ここで何かあったとしても、それはかわらないはず。下手に知識をひけらかす方が危険だ。


 しかし――、その答えは叔父さんの想定内だったようだ。


「やはり、な……」


 叔父さんはそう言って、深いため息をついた。


 僕は混乱した。あえて間違った回答をしたというのに、それがなぜ『やはり』になるのか、全くわからなかった。しかし、僕は自問自答を重ねていくうちに、その事実に気付いてしまった。


世界エイリアのどこに……海とやらがあるというのだ……?」


 この質問は罠だったのだ。世界エイリアでは科学が発展していない。故に、この質問に答えた時点で、全てが誤りだった。


 オルディン叔父さんは、試したのだ。

 僕がこの世界の住人であるのか、を――。

 

「やはりお前は……外から来た人間だったのだな!」

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