好きなもの、好きなこと

イヤホンで耳をいじくって暗がりホールを作ること

最近のイヤホンはものがいいので 劇場ホールのあの暗闇広くによく繋がる

音が生まれ 染みて無に戻っていく あの減衰はとても心地がいい


拍取りリズムは裏打ちが好き

主旋律が用意したその出番に向けて スティックを溜めて 万事良好とたわませるように振り下ろしながら 立てる音はかっちりとした刻み短音スタッカート

期待通りを涼しい顔で だから何回も進行を待つ 君がいい


弦を断然はじくような強調入りマルカート これまた大きな楽しみの一つ

音を立てる時を待ちかねて はっきりと鳴って「はっ」とさせて そして暗闇をあとに残す

かと思えば「びん」と戻ってきて 跳んで 「ここはとてもいいところさ」と目配せをくれる

君がいなかったら きっと生きている幸せの 何割ぐらいかはわからないはず


たまに聞こえない時がある

聞こえはする でも減衰がわからない あの暗がりがいない

具合がぱっとしないのだろうと思うことにしている でもつまらない


耳を澄ますと気が抜ける 身体が緊張していても

逆の順序で夢を見ている、そんな感じだ

夢から居眠りが起こるから 夢の居場所に君らがいて 何ともまあ 何もない

これはまあまあ好き


石を投げ上げて てのひらに染ませるように受け止める

慣性の名残をやぶってまた飛ばし 消えた重さを注ぎ足したらまた飛ばす

そういう遊びが好きだった

僕の好きなもの、好きなこと 丸まって聞く音楽が連れてきてくれたいつかの加速度

君は裏打ちスタッカート 充溢消散マルカート

待たされて満たされる この暗がりのまんなかは いいところ

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