第10話
翌朝、X、インスタグラムでは私を爆弾発言者として扱った投稿がスマホの画面を占めた。
「総理、これは由々しき事態ですよ」
「そうですね。せっかく掲げた政策が一つも話題として取り上げられていませんね」
「そうじゃなくて!」
前首相の秘書・
「高所得者が存在するおかげで、庶民は仕事にありつけられるじゃないですか。その味方をしたところでバックも何もありません。あなたの生活も、私の生活も保障されませんよ。低所得者なんて、今の給料で満足させれればいいじゃないですか」
「じゃああんた、よそで働いたら? 私とは仕事してもストレスが溜まるだけですよ。あ、ついでにお金もたんまり稼げないし」
すると伊良林は顔全体が赤くなった。
「私は! これまで! 前総理をお支えしてきた、政治のプロですよ! その私を、何も知らないあんたがクビにするんですか。あなたは狂っている!」
「私が民間企業の社長ならあんたを引き留めただろうね。でもここは政界。国を立て直すのにあんたの贅沢を保証したギャラは約束できない。前総理を支えたって言ったけど、その前総理が国民に何をした? 国民の生活を苦しめて、一部の富裕層をますます楽にさせて、海外に血税をばらまき、世界からはATM扱いされる。あんたは、その前総理を世界の笑いもの扱いされるのに導いたって自分で言っているようなもんだ。あんたが政治のプロだというならば、こんなちんちくりんが政界に入るわけねぇだろが」
私は、自分が大した人間だと思ったことはない。人に誇れるような人格であれば、一つの民間企業で生き抜き、ついでに自分の都合の良いよう企業の雰囲気を変えられたはずだ。それができないくせに政界に飛び込み、自分で言う通り私はちんちくりんだ。だからこそ、私欲に染まった人間をあらかじめ除く必要があった。
「とりあえず今日の出勤分は給料を出す。今、すぐに退勤しな」
これがまっとうな民間企業ならば、私の首こそ危うかった。
伊良林にとってパワハラ防止の法律を活用し労働者として自身の立場を守ることよりも、政治に携わる者としてのプライドがより重要だった。彼はそそくさと執務室を出た。それもわざとらしく大袈裟に足で床を叩きながら。
「補佐を見つけんば。こりゃ骨が折れそうばい」
私は上質な椅子の背もたれに体重をかけて伸びをした。座って十分も経過していないが、確かに腰に負担がかかりにくい。この椅子に関しては、もう少しランクを下げても腰痛が生じにくそうだ。
「さて、やるか」
私は水筒に入れていた麦茶を一口飲んだ。
この日にできる私の任務は二つ。
書類の分類と、有能な補佐の確保。
秘書や副首相ではなく。
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