第25話 新手
「サデンドス卿。いったいなんだ? この請求書は!」
エルフ国王が激怒している。
「いえ。これは、ご隠居様から送られてきたもので……。
勇者達の活動の為の必要経費だそうです」
「ふざけるな! こんなもの、人間の国王に回しとけ!!
しかし……おばば様にも困ったものだ。何かにつけ、金を無心してくる。
まあ、おとなしくあっちの世界にいて、あまりこっちには口出ししてこないので、大目に見てはいるが……。
それで、サデンドス卿。この勇者達にこのまま任せおいてよいのかね?」
「そうですな。やはり、マナが使えなければただのボンクラ揃い。
何か考えなければ……というより国王陛下。
これは、我がエルフが人間に優位を取るチャンスでは?
今まで、魔族退治は人間どもに任せないと立ち行きませんでした。
それであんな下等生物共を立てて共存してきましたが、あっちの世界となれば、我々エルフでも魔王に勝てますぞ」
「そうか!
そうすれば、人間どもにわざわざ下手に出る必要もなくなるという事だな。
おもしろい! その計画をただちに立案しろ!」
「御意」
◇◇◇
勇者タイガが警察のお世話になってから、二週間くらい後。
ナナとイラストリアは、江ノ島観光に来ていた。
エリカは、存在を悟られない様、必死に深層の最奥に引っ込んでいる。
「へー。これがたこせんべい? おもしろーい」
「イラさん。形がわからなくて残念だけど……味もおいしいから……」
「ん? あ、ああ。触った感じで、形も分かるよ」
イラストリアは、マナで少し視力が回復しているとは言えず、あわててごまかす。
エスカーに乗り、神社などを巡り……眼の悪い人に水族館はどうかとも思ったが、イソギンチャクとかに触れるコーナーがあって、イラも大喜びだったので、ナナもうれしかった。
休日を満喫し、陽も傾いて来たので、そろそろ引き上げようかという時だった。
「イラ!? で……あれ? 君は……愛しの君?」
ナナが声の方を向くと、あれ? あのストーカー騒ぎの人。
もしかして、また追ってきたの?
すると、イラストリアがその男に向かって声をかけた。
「タイガ! どうしてここに?」
「いや、コンパスの差す方向にひたすら歩いてたんだけど……」
「ちょっと、その話は今は……」
「あっ! すまん」
「あのー。お二人はお知り合いなんですか?」
ナナが不思議そうにイラストリアに問う。
「あー、いやその。私とタイガは、仕事の同僚でね……。
今日はたまたま、こいつも江ノ島に来てたみたい……」
イラストリアがごまかす。
「でも、先日、私がイラさんを大仏さんまで送った日に、そちらの方が教室に入って来て、お巡りさんに連れて行かれましたけど……。
あの日は何か二人でお仕事だったのですか?」
「いや、あの時、俺が勘違いで君の教室に飛び込んじゃって、イラが放置されちゃったんだけど……イラを助けてくれてありがとうな。お嬢ちゃん」
「いえ……それは別に……」
(おいおい、勘弁しろよ。今度は勇者タイガかよ……。まじ、息殺さねえと……)
深層のエリカは気が気ではない。
イラストリアが、タイガの襟首をつかんで、ナナからちょっと離れた。
「あんたにしちゃ、うまくナナちゃんごまかせたみたいね。
で、コンパスがどうこうって?」
「いや、それなんだが……あの娘。ナナちゃんって言うんだ。かっわいいー……。
それで……魔導コンパスの針が、あの子指しっぱなしなんだけど……」
「なんですって?」
イラストリアも確認してみるが、魔導コンパスの針は確かにナナを指している。
だが、イラストリアがナナに近寄っても、試しにハグしてみても、何も魔族の気配は感じられなかった。
「ねえ。やっぱりこれ。壊れているんじゃないの?
あの子が魔族の訳ないでしょ!」
「そうだよな……あんな天使が……で、今日お前、あの娘とデートしてたのかよ?
なんて羨ましい!! 俺も混ぜろ!」
「ふざけるな。この変態ロリコンストーカー!」
「あの……タイガさんでしたっけ?
せっかくですから、みんなでお茶しません?」
「うおおおおおおー!」
ナナの誘いに、タイガが喜びの余り飛び上がった。
(あーあー。ナナ。頼むから、早くここから離脱してくれーーー!
息が続かん……)
深層では、エリカが何度もため息をついていた……。
◇◇◇
ナナが、タイガ達と別れて帰る途中、エリカが尋ねた。
「なあ、ナナ。なんでまたあんな連中とつるんでるんだ?」
「えー。イラさん素敵だし、タイガさんカッコいいし……。
エリカも表に出て見ればきっと気に入るよ!」
「あー。遠慮しとくわ……」
「でもね。ちょっと気になってる事もあるんだ。タイガさん、私の教室に乱入した時、エリカって言ったように聞こえたんだよね……もしかして知り合い?」
「え? いや、そんな訳ないだろ。聞き違いじゃねえか?」
エリカは、あの二人が自分を探している勇者パーティだと喉元まで出かかったが、それでナナからバレて自分があいつらに捕まったら、ナナも死体一直線だと考え直し、思いとどまった。
(畜生。根競べは苦手なんだが……)
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