第二章 勇者と賢者

第19話 発覚

「タイガ。早く起きなさい。王様に叱られるわよ!」

「なんだよ。うっせーなー、イラ。まだ昼前じゃんか……」

「ほらー。今日は王様に呼び出されてるんだって……早く支度しろ!」

 そう言いながら、イラと呼ばれた女性が、タイガの布団を引きはがした。


「まったく。お前はおかんかよ……。

 だいたい、もうパーティ組んでかなり立つけど、エッチはおろか、手も握らせてくれないしなー。まあ、戦闘中にぱんつ見えた事はあるけど……」


「タイガ……あんた、一度、二百G位の重力負荷かけてあげようか……」

「おおー。筋トレに丁度いいかも!」

「この、脳筋バカ!」


 タイガと呼ばれた若者は、三か月前、魔王エリカを一刀両断した人間の勇者で、イラというのは、そのパーティーメンバーの賢者で、フルネームはイラストリアと言う。

 勇者パーティーには、この二人以外に、壁役の戦士とサポート役の神官がおり、魔王撃破後、特にする事もなく、各々が勝手気ままに暮らしていたのだが、今日は王様から招集がかけられているのだ。

 

 久しぶりで四人そろって王様の所に集まった訳だが、どうやら客人がいる様だ。


「おお、勇者諸君。よく来てくれた。ちょっと内密で話があってな」

 そう言いながら王様が、脇にいた客人を紹介してくれた。


「こちらは、隣のエルフ王国の高官、サデンドス卿だ。

 それで卿は、表向き、魔王打倒の祝辞を持った表敬使節団の団長としておいで下さっているのだが……サデンドス卿。貴君から彼らに説明してやってくれないか」

 

 王様に指名され、サデンドス卿が前に出て来て、話を始めた。

「勇者タイガ殿及びそのお仲間達。

 大変申し上げにくいのだが……魔王がまだ滅んでいない事が分かったのです!」


「えっ? そんなはずは……。

 タイガが剣で両断した後、私が確かに灰にしたのですが……」

とイラが訴え、タイガもうんうんとうなずいている。


「ですが先日。

 我が国のシャーマンが易占を立てたところ、魔王の魂は滅していないと……。

 それであわてて、我が魔導庁総出で調査したところ、魔王エリカの魂は、この世界を逃れ、人間の異世界に潜伏しているらしい事が分かりました」


「えー。でも魂だけなら死んじゃったのと同じ事でしょ? 別にいいんじゃ……」

「勇者殿! 笑い事では済まされませんぞ! 魔王の肉体が何等かの方法で復元されれば、奴は元通りになってしまうのです!」

 サデンドス卿に叱られて、タイガはしゅんとなってしまった。


「それで、勇者タイガよ。君たちの詰めが甘かったということで、ちゃんと責任をとってほしいのだ。そして、魔王の魂が滅したのを確認するまで、先日差し上げた報償は、一旦国に返還してほしい。

 まあ、君たちのメンツもあるだろうから、この事は極秘に進めるがね」


「えー。ですが王様。もう結構使っちゃってて……全額お返しするのは……。

 それに異世界とか……魂を捕まえに行くにしても、どうすればいいんですか?」

「うーん。まあお金の事は、全額君に貸し付けたという事で、借用書を書きたまえ。そうすれば残りも当面の活動資金にしていいから。

 それから異世界に行く件は、異世界転移用のエルフの秘術があるらしいので、サデンドス卿と相談してくれたまえ」


 ◇◇◇


 サデンドス卿を交え、エルフの魔導士達と打ち合わせた所、こちらの人間があちらの異世界行くのは、魔族のそれと違ってそんなに簡単なものではなく、行ける人数も、向こうでの行動も大きく制限されるとの事だった。


 一番問題なのは、あっちの世界にマナがほとんど無い事。


 タイガも人間ではあるが、マナを使用した攻撃魔法や自身の能力強化が可能で、それで勇者な訳だが、マナが無ければ、ただの脳筋バカだ。

 他のメンバーもマナあっての異能な訳で、エリカが逃亡した先の異世界では、皆一般人と何ら変わらなくなってしまう。いや、イラストリアなどは、もともと視力がほとんど無いのだが、マナの流れで周囲の状況を把握しているため、マナが無いと移動する事自体が危うい。


「でもよー。マナが使えないのは、魔王エリカも同じだろ? 

 奴の居所さえ分かれば何とかなるんじゃね? 

 それに、俺達でやらないと、借金まみれだぞ……」

 戦士のその一言で、勇者パーティーは、エリカを追って異世界に行く事を決めた。


 ◇◇◇


 エルフの国。

 魔導庁の会議室で、勇者タイガとエルフの魔導士技官が激論を交わしていた。


「えー? イラでないとだめですか?」

「はい。帰還の際には、どうしても賢者様クラスの魔法行使力が必要になります。

 マナ自体は、この充填カプセルを持って行っていただければ、何とか帰還分は賄えます」

「でも、イラはマナがないと周りが見えないんですよ! それでどうしろと……」

「ですから、勇者様が賢者様をサポートしていただいて……魔王の探知は、マナではなく、この魔導コンパスを使っていただければ、大体の位置は分かるはずですので……」

「いやいや……それで魔王を見つけたとして、その後どうすれば?」

「そこは、根性と努力とチームワークで……」

「って言っても、二人しか行けないんでしょ!」

「はい……いまの我々の技術レベルでは、二人送りこむのが精いっぱい……。

 申し訳ない」

「…………」


 ◇◇◇


「イラ……不安だとは思うが……俺も頑張るからさ……」

「ええ。あなたのセクハラが一番心配なんだけど……でも、行くしかないのよね。

 タイガ……ほんと頼むから、真面目にやってよね」

「分かってるさ。あっちの世界に協力者もいるらしいし……。

 とりあえず、俺が魔王探して何とかするから、お前はその協力者の所でじっとしていて、帰る時だけ頑張ってくれればいいから……」

「それはそれで……不安なのよね……」


 数日後、タイガとイラストリアは、帰還用と、それ以外の緊急用にマナカプセルをいくつかエルフから貰い、魔導庁にある転送装置から異世界に出発した。


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