第12話 深層

 あの日以来、ここ数日、麻美はあまり攻撃的にエリカに絡んでこない。

 やっぱ、この手の奴には、力を見せるのが一番なのかとも思う。

 

 学校では芳野達と極力つるむように行動していて、警戒しているのかリヒトも近寄っては来なかった。



 そしてある日の夜、エリカは麻美が指定したホテルまでやって来た。


「へー。ラブホテルってこうなってんだ……誰にも顔見られずに入れんのか……。

 でも、ナナ。お前、本当に大丈夫か……。

 だいたい、あたいと入れ替われるのかよ?

 はなはだ不本意ではあるが、あたいも別に生娘ってわけじゃねえ。

 鼻つまんで我慢するくらいやってやるぞ……」


「ううん。大丈夫だよ……もう慣れてるから。

 それに、万一エリカに切れられたら、せっかくの覚悟が台無しだし……」

 

 ちくしょー。こんな子に、慣れてるから……とか言わせるなよ。


 そして指定された部屋に入ると、これもまた結構ゴージャスだ。

 でも、なんか下品な感じだな。はは、ベッドが真ん丸だ。

 

 しばらくすると、ドアブザーが鳴り、続いて人が入って来た。

 

 げっ! 高橋……。

 

「よお、ナナ。久しぶりって……二週間も経ってねえか……。

 こないだはよくもやってくれたよな。

 上に頼んだら、早速こんな機会を作ってくれたぜ。

 今日は、覚悟しろ。おめえ、五体満足じゃ返さねえからな!」


 ちょ、ちょっと待て。おい、エッチするだけじゃねえのかよ!?


(エリカ。もういいから……交替しよ) 

(つったって、お前。これ、殺されかねんぞ……)

(……大丈夫。わたしもう死んでるから……)

(いやいやいや。この身体壊されたら、あたいが死ぬ!)


「なに、ごちゃごちゃ独り言ってんだ? 覚悟しやがれ!」

 そういって、高橋が飛びついてきて、後ろから抱き着いた。


 ひゃー!! 

 ………………


 あれ? なんか真っ暗になったぞ……。

 違う! これ、ナナが表に出たんだ!

 でもそれじゃ……ナナ。だめだ、替われ! お前にゃ酷すぎる!

 ……くそ! 戻れねえ。

 あいつ、こんな芸当出来るの隠してやがったな。


 …………


 そっか。深層だと、外の声や音しか聞こえねえのか……。

 ナナ……いっつもこんなところでじっとしてたのかよ……。

 こんな風に入れ替われるんだったら、もう少し替わってやればよかったかな。

 しかし……これ……どうやって表に出るんだ!


 エリカには、表のナナの息遣いと高橋の下品な言葉しか聞こえず、他の感覚が何も無いので、一体ナナが何をされているのか、全く分からない。


 突然、ものすごい悲しみがエリカを襲った。


 なんだこりゃ……おい、ナナ。大丈夫か! 返事しろ……聞こえてんだろ!

 ……くそ、一体何なんだ、この悲しみは……。

 ちくしょー、高橋ぃ……覚えてろよ!


 その時、エリカは自分の周りが淡く光り出しているのに気が付いた。

 あれ? これって…………マナだ!


 そうか……やっぱり深層にある魂が、情動でマナを生成するんだ……。

 だとすれば、これはあたいの怒りだ! ちっくしょー。

 もっと、もっと怒れ、あたい!!


 エリカの周りの光がどんどん大きくなっていく!

 よっしゃ。これならいけるぜ!! って、なんの魔法を放てばいい?


 そうしたら、何か外が騒然としている事に気が付いた。

 高橋以外の人の声が聞こえてくる。


「未成年への不同意性交等罪の現行犯だ! 署まで来てもらうぞ!」


 えっ? 何だ? 

(エリカ……どうしよ……警察が来ちゃった!)

(どうしよって……助かったんじゃね?)

(だめだよ……これだと、お母さんも捕まっちゃう!)

(いいじゃん、あんなの)

(だめだめだめ。私、お母さんに会えなくなっちゃう!)


 ちっ、仕方ねーな……。

 まあ、せっかくマナも貯まってるし、ここは表で頑張ったナナの顔を立てるか。


「ギガテレポート!!」


 ナナの身体は、瞬時に自宅に移動した。


 ◇◇◇



「なんですって? ナナが居なかった?」

「おう。部屋に踏み込んだ時、マッポは一瞬見たらしいんだが、いつの間にか消えてて、女の子の服と下着と、高橋のおっさんだけで……そんで証拠不十分で、おっさん御咎めなしだとさ。

 おっさん怒ってたぜ。麻美がチクったんじゃないかって……。

 でもまあ、どっちに転ぶかまだ分かんねー。お前も気をつけろよな」


 くそ。これで母親は逮捕。ナナは施設送り……のはずだったんだが、どういう事だ? 計画が気づかれていたのか? でもどこで……。


 まさか芳野に何か掴まれていた? いや、まさか……。

 だが、ちゃんと確かめないとまずい。

 芳野は、今確か……。


 望月理人は、どこかにスマホで連絡を入れた後、自室から深夜の町に飛び出していった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る