傷の手当て
「アサヒ、大丈夫?」
転んだまま凪は上体を起こして朝陽を見る。
「俺は大丈夫。ナギは?」
朝陽はすぐに立ち上がって凪の方にやってきた。
「大丈夫だよ。ごめん。巻き込んじゃって。穴が見えなかった。怪我、したんじゃない?」
「俺の方こそ悪かった。大した事ねぇよ。ナギ、肘から血ぃ出てるよ。どっか痛い所は?」
「大丈夫だよ」と言って凪は立ち上がった。
「ほら、背中も破けてるし、擦りむいてる。腕上がるか?」
「大丈夫だって。アサヒだってお尻の所、穴空いてるよ。ちょ、ちょっと顔見せて。ほっぺたの上の方が赤く傷ついてる」
「俺は慣れてるし。全然大丈夫だから。お前の肘はちゃんと洗わないと。バイクは大丈夫かな」
凪のハンドルに巻いてあったバーテープとサドルが少し傷ついたのと、朝陽のブレーキレバーが少し曲がった位で2台ともちゃんと乗れる状態にあった。
「とりあえず、家に来て。傷の手当てをしてから一緒に学校に行こう」
凪の家で2人はシャワーを浴びた。
「いい
パンツ一丁の凪を見て、朝陽が言う。
スラリと均整が取れていて筋肉もしっかりとついてきている。憧れのリュカのように絞れてはいないが、もっと余裕があるというか、これから成長していく赤ちゃんのような柔らかさを感じる。
「少しはロード選手っぽい体つきになったでしょ。まだまだアサヒにはかなわないけどね」と凪が笑う。
朝陽もパンツ一丁だ。
彼は学校に制服を置いていて、小さなリュックを背負って通学しており、その途中で凪と合流して朝練をしている。
「良かった。2人とも大した怪我しなくて。あんなんでアサヒが大怪我しちゃったら僕は立ち直れなかったよ。
アサヒは身体に古傷がたくさんあるんだね。これまで何度も何度も痛い目にあってきたんだな」
「いっぱい転んだけど俺は転び方がうまいから大怪我はした事ないんだ。今日はスピードも出てなかったしさ。ナギもうまく受け身とったな」
凪は大きな絆創膏を自分で右肘に貼ろうとしているが自分ではうまく貼れそうにない。
「俺が貼ってやるよ」
朝陽の手が凪の腕に優しく触れた。
優しい手だ。ドクンドクンと波打つ心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかとハラハラする。
「ここ、痛いだろ? 肩の所、少し擦りむいてるし赤くなってる。湿布あるなら貼ってやるよ」
凪は打ち身の痛さと湿布のヒンヤリ感にビクッとした。
ピクリと動いた凪の身体を見て朝陽もドキッとする。
綺麗な肩甲骨だな。
湿布を貼りながら朝陽の指が優しく肩甲骨をたどる。
凪の背中に自分の顔を押し付けたい衝動に駆られたが、そこはグッと我慢した。
朝陽の指の軌道にゾクゾクしながら凪も耐えていたが、もうこれ以上我慢できない。
「ありがとう。今度はアサヒの番だよ」
「お、俺はケツに自分で湿布貼るだけで大丈夫だよ」
「ほら、目の下が傷ついてるから薬塗ってあげるよ。顔、こっちに向けて」
「お、おお」
2人の顔と顔の距離が近い。
凪は自分の薬指に軟膏をつけて、軽く朝陽のほっぺたに触れた。
「ぃて」
朝陽の小さな声が漏れた。朝陽の目は凪を見ないように横を向いている。
「ごめん、痛いよね。ちょっとだけ我慢して」
凪の指が優しくゆっくりと傷から離れていき、朝陽の唇の上で止まった。
朝陽はびっくりして凪を見る。
目と目が合った。
「アサヒ、好きだよ」
一瞬の間があった。
「ダメだよ」
びっくりした朝陽は我に返って、軽く凪を突き飛ばす。
「ご、ごめん。アサヒ、本当にごめん」
朝陽は大きく首を振っていた。
「ご、ごめん。俺の方こそ。ナギ、傷ついただろ。本当は俺だって‥‥‥。でもダメだよ。俺たち‥‥‥」
「僕、どうかしていた。忘れてほしい。どうか、変わらずに今まで通りに‥‥‥。ムリかな。そんな事。僕の事嫌いになっちゃったよね」
朝陽は動揺を隠せない。凪の方を見ず、怒りをぶつけるように壁に向かって語りかけた。
「嫌いになんてなるもんか。でも今はダメだ。分かるだろ? 学校に行こう。もう遅刻だけど。今すぐ行こう。ナギの体育ジャージ貸してくれ」
凪は制服に着替え、朝陽は凪のジャージを借りてロードバイクで一緒に学校に向かった。
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