憧れのチーム

「俺が応援してるのは『team undeux(チーム・アンドゥ)』。

 フランスにあるチームでエースはユーゴっていう選手なんだけど、彼をアシストする21歳のリュカが俺の1番のしなんだ。

 リュカは今年、大きなレースに出場し始めた期待の若手なんだけど、5月のジロで大活躍した。

 あ、毎年グランツールって言われる世界三大ステージレースが行われていて、どれも3週間に渡るレースでさ。5月のイタリアが『ジロ』、7月のフランスが『ツール』、9月のスペインが『ブエルタ』って呼ばれてる。


 リュカは俺らとあまり体格が変わらないんだけど、山も平坦もタイムトライアルも全て強い。

 まだ3週間通して良い時と悪い時とムラがあるし、何せユーゴのアシストだから総合成績は上位じゃなかったんだけど、まあ2〜3年後にはチームのエースになるんじゃないかな。

 俺は彼の先手先手で攻撃に出るスタイルが好きなんだ。他のチームにとってはやっかいな選手だ。力があるから放っておける選手じゃないからね。

 それに男らしくてイケメンだから、一気にジロでブレイクした感じ。こういう選手が出てくるとロードレース人気もグッと高まる。


 チーム・アンドゥはフランス人中心なんだけど多国籍チームで、その下に育成チームを持っている。

 その育成チームも拠点はフランスなんだけど、スタッフに日本人が2人いて、青山さんっていう人は日本のナショナルチームで出場する大会とか合宿とかに帯同してくれる事があるんだ。

 俺も青山さんには目をかけてもらってるっていうか色々とアドバイスをもらったりしてるから、育成チームに入るチャンスはあると思ってる。

 もっともっと頑張って強くなって、アンドゥの育成チーム『トゥア』に入れてもらって、世界でしっかり戦えるようになって、ワールドチームの『アンドゥ』に入る事が目標なんだ。


 だから、テレビで観るこういうレースは『チーム・アンドゥ』と『リュカ』に特に注目してる。

 ナギも漠然とレースを見るよりもそういう見方をした方が分かりやすいんじゃないかな。エースとアシストの動きとか分かってくると、どんどん面白くなっていくと思うぜ」



 なるほど。

 朝陽が言うように見てしまうせいか、リュカは走っている姿もカッコいいしスター性を感じる。

 なんか朝陽とちょっと似ているなって思う。

 僕たちと5歳しか変わらないのに、こんな大きな舞台で活躍している。


 チーム・アンドゥとリュカに注目して見ていると、朝陽と一緒になって彼らを応援したくなる。

 本当だ。少しずつレースの事が分かってくると、どんどんレースを見るのが面白くなっていく。

 それに、朝陽と一緒になって「リュカ行け!」とか応援するのが楽しくて仕方ない。

本当の事を言えば、レースはどうでも良くなっていく。こうやって一緒に笑って過ごせる事が何よりも嬉しい。



「選手の身体からだ、綺麗だって思わないか?」

 

 突然朝陽に聞かれて、うんうんと頷く凪。


「僕、インターハイでアサヒが走る姿を見て、人間の身体が綺麗だと初めて思ったよ」


「俺なんかまだ全然だけど、リュカやユーゴの身体は芸術的だと思う。2人共余計なものは何もない身体だけど、若いリュカは筋ばったギスギスした感じが無い。肌も柔らかい感じがする。ユーゴの浮き出た血管を見てみろよ。筋肉も浮き出てるし彫刻みたいだろ」


「僕はアサヒの身体がいちばん好きだな」

 なんだか流れで変な事を言ってしまった気がした凪は続け様に話す。


「アサヒとリュカはすごく似てる気がするよ。アサヒならきっとアンドゥに入ってあんな風に活躍できるようになると思うよ。そしたら僕は全力で応援する」


 凪がそう言うと朝陽は膨れっ面をした。


「おい、お前は応援じゃなくて、俺を全力でアシストしてくれるんじゃなかったのか?」


 凪はこの前バカな事を言った事を思い出して顔が熱くなった。朝陽の顔を見ると笑っていたので、きっと冗談で言ってるんだと思って笑ってごまかした。

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