死神と女子高生
はとさん。
第1話 花束と鎌と放課後
『今日の天気予報をお伝えします。午前は晴れる見込みですが、午後にかけて天気が不安定になり、夜9時頃には雨の予報です。出かける予定のある人は傘を持ちはこ―』
ぼーっと見ていたテレビを消す。
急に耳への情報がなくなり、なんとなくスマホを開いた。Googleを開きネットサーフィンしていると、ある記事が目についた。
『【調査速報】10代LGBTQの48%が自殺念慮、14%が自殺未遂を過去1年で経験。全国調査と比較し、高校生の不登校経験は10倍にも。しかし、9割超が教職員・保護者に安心して相談できていない。』
思わずタップし、慌ててアプリを落とす。心臓の音が激しくなったのを感じたからだ。
―こういうのは、もうやめたんだ。
スマホを胸にぎゅっと抱くと、また興味もないテレビを付けた。
3年前、私は地獄を見た。
今思い返すと、あの環境下で私がカミングアウトしたのが悪かったのだろう。
彼氏いるの?としつこく聞かれ、ウザかったからと言って本当のことを言うもんじゃなかった。
小学六年生の頃、私はクラスメイト全員にレズビアンであることをバラした。それが噂となり、陰口となり、いじめとなった。当時は同性愛が悪いことだと知らなかったから、何度も気持ち悪いと吐き捨てられやっと理解した。
中学は受験していじめてきた人達とは離れられたが、カミングアウトしても良いことはないと分かったので口数を減らし、恋愛話は全くしないことにした。結果孤立したわけだが、あの頃よりは100倍マシだった。
そして―高校1年生。相変わらず孤立していた私は、趣味が読書になった。今ではほぼ毎日図書館に通っている。司書の先生に一度話しかけられたが、適当にあしらうと話しかけてこなくなった。
今日も―そんな日常のひとつのはずだった。
いつも通り図書館に向かい扉を開けると、違和感に気づいた。
―暗い。
図書館はカーテンが閉まっているが、いつも外からの光が漏れ出すくらいには明るかった。昼の7月でこの暗さはありえない。私が入口の前で止まっていると、カーテンが急にばさばさ暴れ出して、強風が吹いた。私が思わず目をつむり、風が収まるのを確認して目を開けた。ぼんやりと、何かが見える。
少女がそこにはいた。
ただの少女ではない。真っ黒なシャツとズボンに、赤いネクタイ。顔には骸骨風のマスクが付いていて、口元しか分からない。
そして何より大きな鎌を背負っていた。
まさに―死神というべきか、そういう風貌だった。私が息を呑むと、少女―死神が気づいたのか、こちらにゆっくり近づいてくる。なぜか動くことができない。二人だけの空間。
「君は1年後に死ぬよ」
「え」
思わず反射的に声を出してしまった。1年後?死ぬ??死神に余命宣告されるなんて…本当にそんなことがあり得るのか?理解が追いつかずフリーズしていると、案外低いハスキーボイスであはは、と彼女は笑った。
「まあそりゃこんな初対面で言われたら驚くよね。貴方の人生担当の…柊って言います。よろしくね。君は?なんていうの?」
「…柳夕陽」
彼女はよろしく、と呟くと、更に一歩近づいてきた。さっきから夜で時が止まっているような感覚だ。暗いし、周りの音が聞こえなくなっている。
「じゃあまず説明させてもらうね。もうお察しの通り、私は死神です。君は1年後に死ぬ、って余命宣告しにきた。死神も仕事なんで、1年後に死んでもらわないと困るから、下手に自殺とかやられて予定の寿命とズレるとお給料減らされちゃうのよ。だから1年間夕陽ちゃんが死んじゃわないよう監視しに来ました」
「え…はあ…」
私が呆然としていると、また柊は低く喉で笑い、私の頭にポンと手を乗せた。
「今は混乱して受け入れられないのもわかる、でも1年あるから。これからよろしくね、夕陽ちゃん」
ばちん、と音がして、気づいたら柊は居なくなり、あたりは明るくなっていた。いつも疎ましかったあの騒音も戻ってきた。
「…何だったんだろ…」
まず、疲れてるのかな?と思った。あんな夢を見るぐらいだからきっと精神的にも疲れているんだろう。今日は早く帰って早く寝なきゃ。
そう言い聞かせ、学校を早退してさっそうと帰った。部屋のドアを開ける時点で、嫌な予感はしていた。
「やあ。私だよ」
死まであと―1年
死神と女子高生 はとさん。 @moyashipon
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