第10話 剣士と盗賊団③ ラバーロック

 俺は、イダン。

 今は、馬車の御者をしているが、これでも金級冒険者の端くれだ。


 今は、縄やら書類やら食料やら、必要な物資を積んで、盗賊の根城となっている洞窟に向かっている。

 そして、ギルド職員が一人と護衛として冒険者が四人乗っている。

 ……護衛、ねえ。ギルド長の考えは本当に分からない。わざわざ盗賊団と内通しているかもしれない怪しい奴らを集める必要は無いだろうに。何か考えがあるのかもしれないが、よりによって俺が見張ることになるとは。というか、一緒に乗っているギルド職員のアネッサ嬢も災難だ。こんな危険な連中をまとめる必要があるとはな。

 後ろの馬車に乗っている奴らは、どいつもこいつも一癖も二癖もあるような奴ばかりで、どいつも怪しく見えてしまう。

 ラインバルト。金級冒険者。乱暴な性格から王都のギルドを出禁になった為、この町に来たという噂だ。

 ノモサ。半月程前に冒険者になった駆け出し。無名ながら、既に銀級の腕を持っている。裏の人間だったとしても、ちっともおかしくない。

 ニオン。本人は学園出身だと言っていて、魔法の腕も高いが、いつも酔っている。そして、彼女がこの町に来たのと、ラバーロックが活動を活発化させた時期が一致することも怪しい。

 エラント。依頼達成数が他と比べ、著しく少ない。しかも、町で彼を見かけることも少なく、休日に何をしているのか不明。

 

 誰も彼もが怪しく見える。気を抜けない。そう考えていたからこそ、後ろから突き出された槍を避けることが出来たのだろう。






 ラインバルトが、御者に対して攻撃し、それを御者が避けた。


「チッ」

「え?」

「……!」

「ラインバルトさん!?何をしているんですか?」


 ノモサは驚いた。確かに、素行が悪いことは知っていたが、頭を狙っていた今の攻撃は、避けていなかったら恐らく致命傷だった。

 ラインバルトは槍を戻しつつ、数歩下がった。丁度ノモサ達と御者の中間辺りまで後退して、そこで止まった。

 ノモサ達の側からは、ラインバルトの背中しか見えない。鎧をまとっているせいもあって、隙が無いように見える。それに、こちらには非戦闘員のアネッサさんもいるし、刺激するべきではない……か。


「内通か」

「俺が、盗賊と繋がってる?いやいや、そんなわけないだろうが」

「なぜ攻撃を?答え次第では殺す」


 御者が、服の中からナイフを取り出し、構えた。

 しかし、ラインバルトは槍を構えずにニヤリと笑う。


「おいおい、血気盛んなのは俺の好みだがなぁ、折角だ、名乗らせてくれよ。てめえを殺すのは、裏切った冒険者でも、盗賊の下っ端でもねえ」

「……」


 そして、声を張り上げて名乗った。

「俺は、ラインバルト!盗賊団、ラバーロックの頭だ!」

「……!!」


 御者が、ラインバルトに切りかかり、戦闘が始まった。


 頭?いやいや、冒険者じゃないの?何がどうなると、盗賊団の頭が依頼を受けて、物資を運ぶことになるんだ?

 それにしても、御者が槍を避けたのは、素早い動きだった。恐らく冒険者だろうが、加勢するべきだろうか?

 さっき何か気づいた気がするんだけど、情報量が多すぎて、分からない。

 その時、アネッサが小声で呼ぶ声がした。

 ノモサと、ニオン、エラントが集まる。

「皆さん、ラインバルトさんの相手はイダンさんに任せて、私達も動きます。」

「アネッサさん、あの御者さん……何者なんですか?イダン、さん?」

「彼の名前はイダン。ああ見えて、金級冒険者なの。任せておけば大丈夫よ……と言いたいけれど、ラインバルトさんも同じ金級だから、はっきりとは言えないわ」

「……俺が加勢しても、足手まといですか?」

 その問いには、アネッサは答えなかった。

「……エラント君、地図は頭に入っているよね?」

 エラントが頷く。

「森に入り、迂回して盗賊の根城となっている洞窟まで行き、応援を呼んできて下さい。合言葉は『作戦・セスト』。ヤベッツさんにそう伝えて下さい。いいわね?」

「……わかりました」

 エラントは、そう言うとちらりとラインバルトとイダンの戦いを見て、ラインバルトに見られていない事を確認した上で馬車から飛び降り、森に駆けて行った。

「ニオンさん、ノモサ君。二人の事は信用したいけど、確証が無い。私が言えるのは、お互いに気は抜かないで」

 えっと……ラインバルトさんみたいに、盗賊の仲間かもしれないってこと?一緒に何度も戦ったし、それは無いと思うけど……というか、エラント君はどうなんだ?

「では、倒れていた人の救出と、必要ならばイダンさんの援護をお願いします。無理はしないようにね!」

「わかりましたー」

「あ、はい!」


 そして、作戦会議を終え、視線を戻す。

 二人は、まだ戦っていた。ラインバルトの突きを、イダンが躱し、イダンの攻撃は鎧に阻まれてラインバルトには届いていない。

「……ッ」

「おいおい、関節を突くように攻撃してるけどなぁ、この鎧に隙間なんてないぜ!『継ぎ目はあるが、隙間は無い』、水の一滴も零れない最高傑作だ!」

「ならば……」

「バーカ、てめぇの考えなんざ、お見通しなんだよ!知ってるやつは目を狙うよな、単細胞が!」


 ふと気づいた。

 ラインバルトとイダンが激しく戦っている、それは良い。しかし、倒れていたはずの、旅人?商人?が見当たらない。途中で起きて、逃げたならばまだ良い。しかし、危惧するべきは……

「アネッサさん、さっきの商人が、いないです!」

「え?……あ、あの人も盗賊団の⁉イダンさん、気を付けて!さっきの……」


 アネッサさんが注意を呼び掛ける為に声を張り上げようとした、その時だった。


 いつの間にか、倒れていたはずの男がイダンの後ろに現れていた。

 指輪の付いた手で触れる。

 崩れ落ちるように、イダンが倒れた。

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