第9話 剣士と盗賊団② 連携の取れない冒険者達
店の裏側に停めてあった馬車は、見た目はかなり大きかったものの、大半は物資で既に埋まっていた。もちろん屋根もついていない、商人が使っているような普通の馬車だ。
御者は眠そうにしていたが、こちらの姿を見て姿勢を正している。
「では、出発します。乗り込んでください」
冒険者四人と職員一人で、馬車に乗り込む。全身鎧のラインバルトが場所を取ることもあり、馬車の中は少し狭い。
アネッサさんが御者さんに告げ、馬車が動き出す。
彼女は地図を広げて、冒険者達に見せる。
「オスターの町がここにあります。行き先は、ここから馬車で東に六時間程、街道を進み、森を大回りして迂回し、ミワット山の麓の洞窟が目的地です」
今いるオスカーの町から、北東には森が広がっている。コシュ村の近くの森もこの一部であり、今回はその森の南側を大回りする形だ。そして、北部地方最大の山、ミワット山の麓まで行くらしい。
森を突っ切って行けば徒歩でも三時間位で付くだろうが、入り組んでいて馬車で行くことは出来ない。……どうして盗賊がそんな町や村から遠く離れた場所に根城を構えているのかと思ったが、彼らは森を突っ切っているのか。
「街道を進んでいる間は森側からの魔物に特に注意してください。前方はイ……御者が見張っています。後方、森側は交代で見張りを立ててください。では、お願いしますね?」
そして、馬車内は沈黙で満たされる。
えっと。冒険者同士で話して決めろってこと?そこも指名してくれた方が、こちらとしては助かったんだけれども。
「俺が見張る。てめえらのことは信用できねえ」
いや、ラインバルトさんも信用できないんだけど。まあ、一人に任せるのも良くないか。
「……わかりました。でも、ラインバルトさん一人に任せるわけにもいかないので、俺たち三人も、交代で見張ります」
「ふん。勝手にしろ」
「あ……ニオンさんと、エラントさんは、それでいいですか?」
「はーい、私はいいよー」
「……」
エラントは微かに頷いていたので、了承したということにしておく。
……何で俺が仕切っているんだろう。鉄級冒険者で、級が一番低いのに。
「外」
御者の声が聞こえた。
「町の外に出るみたいですね」
町の外に出るそうだ。まだ町の周辺ならば、魔物は出ないだろうが、気を引き締めておこう。
門番にも話は通してあるのだろう。止められることも無く、そのまま外に出る。
「皆さん、では、行きましょう」
「じゃあ、最初は俺が見張っておきますね?一番ランクが低いですし」
「ノモサ君、よろしくねー」
「……」
ラインバルトは、じっと後方を眺めている(多分)。なので、俺は側面を見張ることにした。よし、どこからでもかかってこい!
四時間後。
「雑魚はてめえらが片付けておけ!」
「各自撃破してください!」
「はい、適当に魔術でどーん!」
「……面倒くさい……」
何度目かわからない、魔物の襲撃に合っていた。
今回の魔物は、森から出てきた猪型の魔物「イノボアー」の集団である。
村で暮らしていた時には出会わなかった魔物だが、オスターの町に来てから何度か倒している。
冒険者や馬車めがけて突進してくるが、大して大きくないし速くないので、落ち着いて避けつつ首を撥ねれば簡単に倒せる。
横を見ると、ニオンは水の魔術で吹き飛ばしていて、エラントは短剣を投げて突き刺していた。
これまでの戦闘でわかったが、ニオンは水の魔術を得意としている。水球で吹き飛ばすこともあれば、鞭のように使うこともあり、かなり戦闘が上手い。しかし、自分勝手に動く。
エラントは、必要最低限の動きで相手を倒していて、ナイフで刺したり、たまに投げる。しかし、自分勝手に動く。
最初は協力しようかと思ったけど、どちらかと言うと俺が足手まといになりそうだし、魔物も弱い個体ばかりだ。問題なさそうなので、個々人で対処することにした。
ちなみに、ラインバルトは、毎回馬車の前で仁王立ちしていて、戦闘に参加していない。兜で分かりづらいが、こちらの戦闘をじっと見ている。
途中で気づいたのだが、打ち漏らしがあった時の為に、後ろにいるのかも知れない。馬車を壊されるのは絶対に避けないといけないから……いや、わからないけど。
「ふう、終わった……」
そのまま何もなく、戦闘が終わった。
イノボアーはそのまま魔素に還元され、消えていく。
動物は死体が残る。魔物は倒すと消える。それが、動物と魔物の違いであるとされている。
しかし、慣れない環境での戦闘は疲れる。今のところ強い魔物は出てきていないから何とかなっているが、馬車で移動しているのもあって魔物が多い。
警戒はするものの、馬車で移動している間もある程度話をするようになった。ちなみに、今の見張りはラインバルトとエラントだ。
「ノモサ君もエラント君も、いい動きだったねー!」
「……ありがとうございます」
「特にノモサ君!鉄級とは思えないよー!私史上一番だね!」
「いえ、ニオンさんの魔術も凄いですよ。水属性が得意なんですか?」
「もちろん!私は毎日酒を飲んでいるからねー!水は友達なんだよ!」
「えっと、得意な魔術って、生活で決まるんですか?」
「んーや、全く関係ないよ。生まれつき、私は水属性魔術以外はほとんど使えないんだー」
「そうなんですね」
「あ、でも私きゃあ何!」
「うわっ!」
その時だった。急に、馬車が止まった。
「どうしました、イダンさん!」
「人だ」
アネッサの言葉に、御者が反応する。
前を見ると、道の真ん中に男の人が倒れこんでいるのが見えた。指輪は両手にいくつかしているのが見えるが、荷物は持っていない。武装していないし、戦いに向いた服装ではないから、旅人か、あるいは商人だろうか?
なぜ倒れているか……あるいは亡くなっている可能性もあるが、盗賊と関係があるかもしれない。そうでなくとも、道の中央に倒れているので馬車で通れないし、何より放っておくわけにはいかない。
余裕を持って止まったので、生きているのか死んでいるのか遠くてわからない。
「御者、お前が見てこい」
今まで黙っていたラインバルトがそう言うと、御者が立ち上がった。
しかし、ラインバルトの勝手な行動に、アネッサが突っかかる。
「勝手に指図するのはやめてもらえますか?ラインバルトさん」
「いい」
「ほら、こいつも行くっつってるじゃねえか」
「……そうですね」
御者は、倒れている商人に近づいていく。
何事か話しかけたり、体を揺すったりているが、商人の方に反応は無さそうだ。
「おおっと、あんなヒョロヒョロじゃ、抱えて運べねぇじゃねぇか。俺も行き倒れの顔を拝んでくるとしよう」
ラインバルトはそう言うと、槍を持ち、馬車から降り、御者に後ろから近づいていく。
「そもそも、何であんなところに倒れていたんだろーね?馬車も見当たらないし、荷物も持ってないし」
「うーん、分からないですね」
「……お家無いのかな……」
荷物は持っていないから、盗賊に奪われたのか……?
あれ、何か違和感が……
そして、ラインバルトが、御者の少し後ろに立ち止まる。
御者の頭に向けて槍を突きだした。
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