告白

@tonarinonuco

第1話

表情が乏しい人は結構いる

表情のない人は一人だけいた。

それは池袋であった子だった


その日仕事の絡みで一人の女の子に会った

色々話しかけるけど終始鈍い無表情、時々いかにも貼り付けた笑顔


あまりにも不自然、あまりにも不思議

猛烈な好奇心が首を上げる


ねぇ、ご飯一緒に食べない?

いつもの軽い口調、安心できる笑顔、すんなりできた。


彼女の上司の勧めもあり 二人で東口のお好み焼き屋へ 


頼んだメニューは豚玉と海鮮かな?よく覚えてないけど、店主が焼いてくれるそうでお願いした


ごめんねムリに誘って、ちょっと話をしたくなったんだ

あぁ~ ナンパとかじゃないよw


なんで誘ってくれたんですか?

小さな声で彼女が聞いてきた


表情がさ、抜け落ちたようになくてさ 今までのそんな人見たことなくてそれで話したくなった。どうしたの?

ストレート過ぎるストレートで聞いた


彼女は目を見開きはぁーと息を吐き出したあと、少し俯き目を伏せめがちにしながらポツポツと話し始めた



あたし父親に犯されたことがあるんです・・・

ん?かなり予想外の言葉 俺自身が凍りつく

彼女の告白が始まった 

それは小学校5年生のとき・・・・

彼女がその様子を話すが全然話が頭に入ってこない。軽いパニック状態だ


堰を切ったように彼女の告白は続く


断片的に頭の中に話が入ってくる

なんでお父さんこんなことをしたの?と聞いたら

お前が誘うからだ・・・

ハァ?意味がわからない


お母さんに相談したら初めは優しかった


ん?ん!ん?


初めは優しかった???

彼女の言葉が急に脳に入り始めた


初めはと言う事はその後は?

この泥棒猫がー と言われた


沈黙が降りた


それを母親に言われた時彼女は小学生

家庭の中で彼女の居場所は?


親って何故二人いる?それは片方に何かあったときの安全回路でありバックアップのはず


かぁ~ キツイ 聞いてるだけでキツイ

一瞬意識が飛びそうになる


相談事でこんなになるのは初めてだ


彼女の話は続く


話は中学の時に移る 当然のように彼女は不良グループへその中で一番のボスの彼女になった


『とってもカッコ良かった』

まるで憧れの韓流スターを語るように熱く彼を語る うっすらと涙を浮かべやや上の虚空を見つめながら


『頼もしかった』

サヲは不良グループはある種の疑似家族だというエッセイを思い出した 傷ついた心を癒す行為であると よく集合写真を撮るのは疑似の家族の証だと


あぁこれで彼女は救われる


彼女の声のトーンが急に落ちる

あの熱狂した表情が消える


中学卒業と同時に彼は暴力団に入ったの


それが重い言葉だと彼女の表情が物語る


なんの温もりもない空気を吐き出しながら彼女の告白は続く

 

それから私は風俗で働くようになったの

上納金を納めるために


ヤクザは子が親を食わせる世界 金を幾ら納めるかで立場が決まる この子の彼氏はヤクザとして優秀ではないようだ


お前が働いて俺を食わせろ!

そう言われた


瞳から光が消え失せた


彼女の告白は終わった


店は妙に静まっていた 彼女の話がこぼれ聞こえたんだろう


サヲは考える 今この話を聞いた責任をどう果たすか・・・・

つらいね それだけでおわれる話か?否

そんな仕事辞めちゃいなよ

彼氏と別れたら?

なんて無責任に言えるか?否


こんな時に掛けれる言葉・・・

診療内科の手法?あれは時間がかかり過ぎる


聖書に?否 釈迦の言葉に?否


イスラム教の言葉?そもそも知らない


よく考えろ何かあるはずだASD仕事しろ

一瞬深く思考の海に沈む


なんだ なんだ なんだ!


あ!


何気に寺の門前に書いてある今日の言葉みたいなやつを思い出した。

これか・・・


軽く精神を整える

ゆっくりと言葉を紡ぎだす


今日聞いた話に何か言えるかと言ったら何も言えない


ただね 貴方がすべてを我慢して飲み込んでしまったのはよく分かる だから表情が消えたんだね


よく聞いて 


泣きたい時は泣くの

怒りたいときは怒るの

楽しいときは声を上げて笑い

愛するものに出会ったら全身で愛おしむ

そして感謝の気持ちが湧いたら

心を込めてありがとうと言おう

少しだけかもしれないけど

人生が変わると思うよ


全身全霊を込めて半泣きしながら言った

これしか言えなかった 

心の中で深いため息が出た


その後二人で店を出て駅に向かった

外はまだ日が残り そんなに時間が経ってないことを教えてくれた


彼女の手をとって遠いところへ走り出そうか?一瞬頭をよぎる

無理だ ヤクザの彼氏がメンツをかけて探しに来るだろう

詰んでる状況なんだよね 彼女を助けるのには俺の手はあまりにもひ弱で短過ぎる


彼女を事務所前まで送りとどけ帰ろうとした時 彼女は声を発した


『あjがt0−』


ん?何を言われたか分からなかった。

振り返って、彼女の顔を見た。

そこには グシャグシャに涙を浮かべながら笑いのような泣き顔のような、すべての感情が入り混じり溢れ出すような そんな彼女がいた


『あjがt0−』


もう一度彼女が繰り返した


あぁ『ありがとう』かぁ


それは今までのそんな言葉も知らず、生まれて初めて喋る、まるでそんな『ありがとう』だった


うんうんうん

サヲはシッカリ3度頷いた

じゃぁね


彼女と別れた




帰りの電車のなかで 深く思考の海に沈む

今日の話 何故俺が聞いたのだろう サヲの話のテクニックが上手いから?否

時間が短すぎる 決して知り合って半日にも満たない時間ではない 通常だと付き合って最低3ヶ月はかかる 心を開くのに

なぜだ?


さらに深く潜り込む

あ!そうかぁ〜

サヲは顔を上げ彼女がいるであろう池袋の方向を見る


もう限界一杯だったんだね 何もかにも

ストンと落ちた

俺はその時に巡り合わせただけかぁ

今日何度目か分からいため息を深くつく


そんな状況ってなんだよ。


自宅のある駅に着いた。

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