第11話 死の予感 その弐

 次に紹介する話は、リチャード・ロイド・バリー著作

「黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件 15年目の真実」から。


 もうだいぶ前になるが、六本木でホステスとして働くために来日したイギリス人女性、ルーシー・ブラックマンさんが殺害されるという事件があったことを覚えているだろうか。本書はその事件の真相に迫ったノン・フィクションで、500ページにも及ぶ大作である。

(話は逸れるが、この本は事件の詳細を記述しただけではなく、その背後にあった関係者の闇や、容疑者として捜査線上に浮かんだ人物たちの変態性などが暴かれ、その緻密な記事に圧倒される)

 その中に印象深い記述がある。

 詳細は省くが、プライベートな事情から、ルーシーさんは日本へ行き、ホステスとして働く決意をする。しかし、それを知った際の家族の反応は尋常なものではなかった。母親はこう証言している。

「(略)でも、何か恐ろしいことが起きる、私にはわかっていました。不安が頭から離れなかったんです。あの子が日本と口にした瞬間に、頭の中で声が響いたんですー。”何かひどい事態になる”。」

 だがそうした母親の反対も聞かず来日を決意するのだが、その出発前にも彼女は異常とも思える部屋の大掃除を始めたという。それは単なる片付けというレベルではなく、二度とその部屋に戻らないような勢いで、洋服などの品物を処分していたそうだ。

 また妹もただならぬ不安感にさいなまれていたようで、姉あてに書いた手紙十八枚の内容は重く、涙が止まらず、まるで最後の手紙を書いているような気分だったという。

「姉が日本について話すとき、帰国後の様子を思い浮かべることができなかった。姉が戻ってくる姿をどうしても想像できませんでした」

 そう証言している。なぜか、”最後”という感覚が頭を離れなかったようだ。

 家族が抱いた不安は現実なものとなり、その数か月後、来日したルーシーさんは湘南の海辺の洞窟のような場所で、無残な遺体となって発見されてしまうのである。

 確かに家族にとっては、ホステスという得体の知れない仕事への印象の悪さや、ルーシーさんのプライベートな問題も、不安に拍車をかけていたことへの一因であったかもしれない。しかしそれを差し置いても、彼女が日本へ旅立つ時に家族が胸に抱いたその不吉な感情は、予知という第六感だったと言ってもいいのではないだろうか。

(ちなみにこの事件の容疑者は、最高裁で無期懲役が確定しているが、その判決の真相はWebの記事などを参照して下さい)

 さて、この第六感の持ち主が、最近になって自分の身近にいることを知り驚いた。私の姉である。

 母親のそうした(?)体質が遺伝しているのか、結婚した頃から予知夢を見るようになったらしい。

 時としてそれは電車の中の場面であったりするようだが、何者かわからない人物が出てきて、嘔吐しているという気味の悪い夢を見ると、その二、三日後、決まって家族の誰かが体調を崩すという。それは今まで何度もあったとのこと。

 また旦那、つまり私の義兄だが、一昨年脳梗塞を発症し、棺桶に片足を突っ込んだ状態になったが、この時もなぜか数日前から旦那の出てくる夢を頻繁に見るようになっていたそうだ。

 姉は今では友人たちから、私のことが夢の中に出てきたらすぐに教えてね、と言われているらしい。

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