第10話 死の予感 その壱

 動物には特殊な能力があると云われる。地震の前兆を察知して異常行動を起こす、というのはよく聞く話だ。ただこれは地震雲と同様に科学的な根拠がないようで、その真相は嘘か真実か判然としない。信じる人はそれで良いのではないか、というのが世間の風潮のようである。

 では人間はどうか、といえば、そうした何かを察知する能力は、人によっては、時に予期せぬ結果となって発揮されることがあるようだ。

 私の読書は乱読で、マンガからエッセイまで幅広く興味のあるものを読む。怪談ものも沢山読んできたが、まったく別なジャンルの著作から、不思議だなあ、と思った記述があったりするので、簡単に紹介させていただく。


 まず、門田隆将さんの著作、

「風にそよぐ墓標 父と息子の日航機墜落事故」の中から。

 この著作は文字通り、五百二十人の犠牲者を出した、1985年に起きた日航機墜落事故を、何人かの遺族の当時の苦境と、その後の心境に迫ったノンフィクションである。

 その多くの遺族の一人に、不思議な予知の証言がある。

 仮にA氏とするその男性は、当時中学二年生だった。彼の父親が事故の犠牲者となったのだが、その日地元大阪での法要を家族で済ませた後、父親は東京へ出張するために駅へ向かった。

 家族で駅まで見送りに行った際、なぜかA氏は駅へのコンコースで、後ろ姿の父親にこんな言葉を投げかける。

「親父、死ぬなよ」

 ふっと出た不吉な言葉だったとA氏は述懐しているが、なぜあんな言葉がその時出たのかわからない、父親の身に何も起こらなければいいが…、という思いが残ったそうだ。

 その不吉な予知は、かくして残酷な結果となる。

 単純に飛行機に乗ることへの不安から出た言葉、とは言い切れないのは、著作を読めばわかる。テーマが違うので、門田氏はそのことについては自著で見解を述べていないが、私はそれは血のつながった親子の絆がもたらした、ひとつの予知だったと思うのだ。

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