第3話 四十二

 日本では四、九の数字を忌み嫌う傾向にある。漢字で四は死、九は苦、を連想させるからだ。漢字の言語文化国ゆえの特徴とも云える。

 それが四十二(42)ともなると〃死に〃で事態は更に深刻さを増す。実際に四十二という番号を敬遠する風潮は今も根強く、代表的なものではホテル等の客室番号402や、病室番号に4を欠番にしている例だ。

 最もこの忌み数は、古くは戦国時代からあったそうで、当時戦に明け暮れる武士たちは縁起を担ぐ為、四の数字を嫌ったそうである。

 

 昭和四十年代頃の話だが、この忌み数にまつわる不思議な話を母から聞いた。

 当時住んでいた目黒の実家の町で、ある時地域の銀行が顧客の住民を対象に旅行会を催した。高度経済成長真っ只中だった当時の日本では、他にも葬儀会社(互助会)などもそうした団体旅行を催していたようだ。

 その銀行の能登半島への団体旅行に私の父も参加していて、その中に地域の知り合いだったA氏という男性がいた。このA氏、宴会の最中に何故か一人で風呂に入りに行ったが、酩酊状態だったのか、そのまま風呂場で急死してしまったそうだ。

 不思議なのはこのA氏にまつわる忌み数で、死亡したその日が四月二日、年齢が四十二才、バスの座席番号が四十二番(四列二番だった可能性もある)だったというのである。まるで死にとり憑かれていたようだ、とこの話は地域で随分と話題になったらしい。

 こんな話を聞いて育ったせいか、私も縁起を担ぐ気質になり、日頃から忌み数に敏感になる。

 私の家系は寺の檀家で、毎年九月に施餓鬼法要が行われる。

 ある時その法要に参加した際、下足番の札を渡されたのだが、それが四十二番だった。場所が場所だけに、このタイミングにこの番号には不吉な気分にもなる。自身の身に何か禍いが起きる予兆かもしれない。小心者の私はそんな偶然に怯えながら日々を過ごしていた訳だが、その年の冬、初詣に出向いた神社でおみくじを引いたところ、なんとそれも四十二番札だったのである。

 数ある中で同じ数字を二回も引く確率はいかほどなのか…?これはもう何かある、きっとおみくじには大凶とあり、命運もここまでなのかもしれないと一人戦慄を覚え、震える手で恐る恐るおみくじを開封してみると、それは大吉であった。

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