順番待ち

 馬車が出発してしばらくすると


「ルクス…」


 そう言って黒髪黒目の少女、シグナが僕に抱きついてきた。彼女は年相応の様で、暮らしてきた村から離れる事に不安を感じてるらしい。


 この世界では黒というのは不吉の象徴で、黒髪黒目で生を受けたで彼女は、生まれた時に一悶着あったらしい。ただ両親はそんなシグナもしっかり愛して、村の人も数少ない子供に優しさを見せていた。彼女にとって村は安心出来る場所だったのだ。そこから離れるというのは、5歳の彼女にとって酷なことだろう。


「大丈夫だよシグナ、僕が守るから」


 だから僕のやるべきことはシグナを安心させること。村で唯一の幼馴染だ、愛着もある。僕はシグナの頭を膝に乗せて、優しく髪を撫でた。


 しばらくすると彼女は僕の膝の上でスースーと寝息を立て、安心した顔で眠りに落ちていた。





 ////


 最初は良かったものの、シグナの重さに長時間耐えられず…魔力トレーニングを兼ねてこっそり身体強化という不正を行いつつ、向かうこと約5時間。



「シグナ、起きて」


「んぅ……あさ…?」


 彼女が眠そうに目を擦る。馬車に揺られてだいたい半日。朝方に出発したのでお昼である。


「鑑定の儀でしょ?もう着いたから行くよ」


「うん…」


 彼女は寝ぼけているのか、よく分かって無さそうに頷いて、僕の手を握り『つれてって』とでも言うように視線を送ってきた。


 期待してくれてるけどごめん…僕も道が分からないので、案内してくれた人について行くことにする。彼はシグナを見て恐怖に顔を歪め、それを悟られないようすぐに顔を逸らした。


 ///



「着きました…」


 そう言ってすぐに御者だった男は俺たちに背を向けて走り去った。まるで何かから逃げるように。


 案内された教会は、僕の村からは想像できないほど西洋って感じがした。かなり圧がある。


「シグナ、この外套着て」


「…ん」


 想像以上に黒というのはアウェーらしい。僕は着ていた外套を脱いで、シグナに手渡した。


 彼女の手を引いて教会へと入る。そこには同い年と思われる子供が30人ほど集まっていた。彼らは用意されてある椅子に座っていて、まるで病院の待ち合い室みたいだ。


 僕たちも指定された場所に座って順番を待つ。


「ルクス…どきどきする」


 隣に座るシグナが、耳元でそんな言葉を囁いてきた。沈黙による不安だろう。村ではこんな場面ないからな、かなり緊張してると見受けられる。


「大丈夫だよ」


 僕はシグナを安心させるように、そっと手を握った。


 するとシグナは嬉しそうに微笑み、握った手をギュッと握り返してくれた。




 僕がシグナを安心させている中で、順番はどんどん進んでいた。どうやら村ごとに呼び出されるらしく、前の5人くらいの集団が呼び出されていった。順番的にあと6グループくらい後か…僕は長くなりそうな予感を感じて、スキルレベルの向上により4つに分岐した並列思考のうち、2つの意識でやっていた魔力トレーニングを、3つの意識に切り替えて再開した。

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