四つ巴Ⅱ
「どうしましたか?」
「隊長。これを……」
「ふむ、血痕とは穏やかじゃないですね。可能性があるとすればチャド殿の可能性が高いでしょう」
顎に手を当てて、しばし考え込んだ後、後ろへ振り返って号令をかける。
「血痕を発見した。これをチャド殿の物と仮定して動く、このまま血痕が続いているところまで辿る。全員、注意して進め」
アンディの口調が変わり、鋭くなる。それだけ、余裕がない事態と感じているのだろう。
他の騎士たちにも、それが伝わったのか。その佇まいが先程よりも緊張感に満ちたものに変わった。
「何故、チャド殿の物と?」
「偶然、我々が辿り着いた場所がユーキ君のいた場所というよりは、一緒に行動していたチャド殿が負傷したと考えた方が自然だろうからだ。それに彼が戦ったというのならば、その痕跡が見当たらない」
アンディはユーキのことを全て知っているわけではないが、初めて会った時のことが脳裏にしっかり焼き付いていた。
刀が折れて剣で戦ったとは考えにくい。ユーキなら間違いなく近づかれる前にガンドを使うだろうという確信がアンディにはあった。そして、それを使ったのならば、ミスリル製の城壁を貫通するレベルの攻撃の余波でこんなところなど吹き飛んでいるだろう。
故に、アンディの結論はチャドが自分たちを庇ったか、敵を引き付ける際に負傷したと考えた。そうなると案内人であるチャドを失った自分たちは、彷徨い歩く以外に方法はない。ここは危険を承知でチャドの後を追うべきとアンディは自分の直感を話した。
「フェイ。君はクレア様とマリー様、その御学友を守る最後の砦だ。離れるんじゃないぞ」
「わ、わかりました」
「それでは諸君。前進開始だ」
目を細めたアンディはハンドサインと共に宣言した。騎士たちはそれに無言で応え、ゆっくりとクレアたちを包囲して進み始めた。
それを頼もしくも思いながらも、本当に危険が訪れた場合はどうすればいいのかという疑問が彼女たちの中に芽生え始める。
「くっ、これじゃ本当に足手纏いじゃないか」
「マリー様。今は耐える時です。何事も攻めるべき時とそうでない時のタイミングがあると奥様も仰っていたではありませんか」
「それとこれとは別の問題だって」
最初からこうなると知っていても、ここにいるメンバーは全員が妖精庭園へと救助に来ることを選んだだろう。なぜならば、誰もが一度はユーキに助けられているからだ。今度は自分が助ける番だと意気込んだのも無理はない。
だからこそ、自分の得意な魔法を封じたまま全てが終わってしまうと思うと悔しくて仕方ない。
「せっかく、母さんに鍛えてもらったんだ。いざとなったら、森全部を焼き払ってでも……!」
「マリー。そんなことしたら……」
「わかってるよ。あくまで最後の手段だ。でも、ここにいる誰かの命が懸かったら、その時はもう迷わないからな」
「マリー……あんた……」
アンディ以上に酷く鋭い眼光を宿したマリーに思わず姉であるクレアも動揺する。
「な、何だよ。姉さん。あたしなんかおかしなこと言ったっけ?」
「いや、好戦的なのはいつものことだけど、ちょっと雰囲気が違ったからさ。あたしの気のせいだろうけど」
首を振ってクレアは前を見据えた。
これ以上は騎士たちの警戒を邪魔するだろうとの判断だ。それでも、心の中はどこか穏やかではなかった。
「……母さんとの訓練の影響で変な方向に突っ走らなければいいけど」
少しずつ進んで行くアンディの背中を追いながら、耳を澄ます。クレアにも聞こえていた妖精の声は今は聞こえていない。
心配なのはマリーの変容だけではない。妖精たちが保護をするという話を聞いてから、ずっと胸騒ぎが止まらないのだ。
「(昔、あたしたちが見たのも同じ大妖精でチェンジリングが目的じゃなかったのだとしたら……、あたしとマリーのどちらか、或いは両方がまだその対象の可能性もあるってことよね。もしそうだったとしたら――――)」
保護するには、それなりに理由がある。当たり前の考えではあるが、それがクレアには恐ろしくもあった。
「(――――あたしたちを保護する理由って一体……!?)」
かつて大妖精に狙われた時には何が原因で狙われたのか。全く心当たりがないことが逆に鼓動を早めて行った。
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