凱旋の一歩Ⅰ
筋肉痛も感じなくなった心地よい目覚めを堪能しながら、ユーキは背伸びをする。
昨日で家屋の破損記録は終わり、城壁の修復はほぼ終わってしまった。人海戦術とはいうが、冒険者や魔法使いが集まるだけで、あっという間に終わってしまったことに拍子抜けしてしまう程だ。
短いながらも濃い日々ではあったが、ユーキたちは今日の朝、この伯爵領を旅立つことになっていた。今回の件に関しては、王都もかなり問題視しているらしく。伯爵とビクトリアは領地から動くことができない。
本来の領地経営を含めた最低限の引継ぎなどをマリーたちにする予定だったが、既にその点においては伯爵たちも予想は出来ていたため、護衛をつけて、さっさと王都へと送りたがっていた節がある。
クレアたちもそれをわかっていたからこそ、先日、ユーキの部屋に集まって、寄り道の話を決めたのだろう。幸いにもユーキたちは手で運べる程度の荷物しか持ってきていないので、移動するのには問題はない。問題があるとすれば、地理に疎い為、どれくらいの旅になるのかわからない所だろう。おまけに、王都に行くまでに襲われる可能性も否定はできない。
「あまり長居するのは迷惑だけど、王都までの旅路も安全とはいかないからなぁ」
夜中に道端で酔いつぶれて寝ていても、物一つ盗られないような安全な国とは違い、ほんの少しの油断で命を落とす世界だ。感覚がマヒしていたが、出発の時間が近付いていることを自覚した瞬間に、不安になってきてしまう。
「(こういう嫌な予感がする時って、本当に何かあるから嫌なんだよな)」
何かわからないが嫌な予感というか悪寒がするとき、ユーキは必ずと言っていいくらいに不幸が襲ってくる。
それは事故であったり、身内の不幸であったりと様々だ。その中でも一番印象に残っているのは曾祖母の死だった。流石に小さい時だったので自分自身は覚えていないが、母親が言った言葉は今でも覚えている。
「あんた、覚えてないの? 夜中にいきなり、おばあちゃんに会いに行こうって言いだして、次の日に行くって決めたけど、今すぐいきたいって駄々こねたじゃないの。それで、その数時間後に――――」
曾祖母が亡くなった。その連絡が施設から届いた。
頑張り過ぎて膝を壊した曾祖母は、会いに行くたびにいつも笑顔で話をしていた。その会話の最後は必ず、いつも同じ言葉で締めくくられる。
――――勇輝。生きてれば、どうにでもなるから、自殺だけはしちゃいかんよ。
こちらの世界で死の淵を彷徨った時にも、夢の中で出てくるくらい刻まれている言葉だ。だからこそ、こういう感覚を幼い頃から感じていたんだろうか、と少し不気味に思ってしまう。
母の言う、誰が危険か、というところまで判別できるほど鋭敏ではないが、今日の感覚は少し違っていた。今向いている窓、朝日が昇る方角とは真逆。背中がぞわぞわとする。
つまり、これから向かう王都の方角で何かが起こる予感があるのだ。おまけに昨日は変な幻覚も見てしまった。気のせいでないことを祈りながらユーキはベッドから体を起こす。
覚悟を決めて魔眼で自らの体を見るが、特におかしな色は見当たらなかった。
数秒間、腕を凝視した後、魔眼を閉じる。やはり昨日見たものは気のせいだったと考えて、ユーキは着替えを手に取った。
いつでも出発できるように恰好を整えていると、ドアからノックの音が響く。
「ユーキさん。起きてる?」
「あぁ、起きてるよ……って、サクラ!?」
振り返るとドアから顔を覗かせているサクラがいた。
驚くのも無理はない。朝が苦手なサクラが目の前にいるからだ。
「あ、あはは。おはよう。ちょっと昨日は早く寝ちゃったら、その分だけ早く起きちゃって……」
ユーキの表情から考えていることが読み取れたのだろう。何も言わずとも自ら早起きの原因を説明してしまう。その顔は少し朱に染まって恥ずかしそうであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます