第16話 旅においしい料理は欠かせない
町の中央にある広場を突っ切ると、レスタからファームへは比較的近い。
ファームは、農場で採れた農産物や畜産物が売られている店だった。
ここに来る前、高台からウェスタ町を見下ろした際、西地区の外に農場が広がっているのを見た。
恐らく、そこから店に運ばれてくる仕組みなのだろう。
――すげえ、ここも三階建てで全て店なのか。来てみて正解だった。
時間は十分あるんだし、食事とか買い物とか、そういう日々の生活も楽しみたいよな。
ファームはレスタショップと違い、燻製肉やソーセージなどの加工品はほとんど置いていなかった。
しかし新鮮な野菜や果物、肉の種類はとても豊富で、牛乳や卵、豆類、小麦粉などと合わせてずらりと並んでいる。
そして全体的に、レスタショップよりも少し安い。
人も多く、店のあちこちから威勢のいい声が聞こえてくる。
中には値段交渉をしている者もいた。
「らっしゃい。見かけない顔だね」
「この町へは来たばかりで……。何かオススメはありますか?」
「そうだな、今の時期だとキャベツや玉ねぎ、セロリ、カブなんかがおすすめだよ。まあこの時期の野菜は大抵どれも柔らかくて瑞々しいから、正直全部おすすめだがな。わっはっは」
山男のような見た目の店員は、そう言って陽気に笑った。
なるほど、ウェスタ町の気候やあちこちで花が咲いている状況からも、今は恐らく春――なのかは分からないがそういう季節なのだろう。
夜はスープを作ろうと思っていたし、セロリがあるのは嬉しいな。
カブは漬け物でも作るか。
「――そういえば、トマトは置いてないんですね?」
「ああ、トマトが欲しいならレスタショップだな。あれの旬はもう少し先なんだ」
「なぜレスタショップには置いてあるんです?」
「トマトは領主様の好物でな、北地区内にある農場で、魔法で年中採れる状態にしてあるらしいんだ。で、レスタのオーナーは領主様だから、余剰分があそこに置かれてるってわけなのさ」
レスタって領主様が経営してる店だったのか!
しかし季節外の野菜を独占販売とは。割とチートだよなそれ。
でもそうか……領主様の……。
レスタは高級店でもなんでもなく、町のみんなが気軽に入れる食堂だった。
それに店員も、みんな楽しそうにのびのびと働いている。
レスタショップも、ここよりは少し割高だがそれでも十分安いし、客を選んでいる様子もない。
これまでの経験から鑑みるに、恐らく領民思いの領主様だろう。
「セロリ、カブ三個セット、パセリ、牛乳、卵六個、蜂蜜、オリーブ油、鶏もも肉300g……合計1810ボックルだよ」
「ありがとうございます」
野菜と卵と牛乳が安い! 肉もまあまあ安い。
ちなみにセロリと小さめのカブ(三個セット)、パセリ、牛乳、卵は全て各100ボックル、蜂蜜が少し高めで590ボックル、オリーブ油が450ボックルで鶏もも肉(300g)は270ボックルだった。
質も素人の俺から見たら特に違いはなさそうだし、安いものは次からファームで買うのもアリかもしれない。
――でもせっかくこれだけ良い食材が手に入るのに、作っても一人で食べるだけなんだよな。【ポータブルハウス】の存在は秘密だし。
まあ、それはそれで楽しいからいいんだけど。
でも、いつか誰かと一緒に食べられるといいな。
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