第14話 ウェスタ町の散策、からの昼食
宿屋を出て町を散策していると、昨日レスタで出会った茶色いふわふわ髪の獣人少女に出くわした。
エプロンはまだつけていないが、髪をうしろにまとめ、店の前を掃除をしている。
「おはようございます。――あっ! 昨日の……ええと、お名前をお聞きしても?」
「おはようございます。アサヒといいます」
「アサヒさん! 私のことはエルルって呼んでください。いいお天気ですね。今日はどちらに行かれるんですか?」
獣人少女――エルルは、掃き掃除をしている手を留めて柔らかな笑みを浮かべた。
宿屋のリディアも美人で魅力的だけど、エルルはなんというかこう、守ってあげたくなるような、また違った方向に男心をくすぐってくる。
「いやあ、特に決まってなくて。でも、まだウェスタ町のごく一部しか見られてないですし、もう少し町を散策しようかなと」
「そうなんですね。小さな町ですし、旅人さんが楽しめる観光スポットはあまりないですけど……でも楽しんでいただけたら嬉しいです」
エルルは獣耳をピコピコと上下に動かしながら、ほんわか笑顔をこちらへ向ける。
そして、「よかったらまたお昼ごはん食べにきてください」と付け加えた。
よし、お昼はレスタで決まりだな!
ウェスタ町は町全体が円形になっていて、中央の広場を中心に、東西南北を分けるように二本の大きな通りが交差している。
ミスレイ雑貨店の店員が言っていた通り、北地区には領主様の屋敷があるようで、大きな門の前には見張りの衛兵が立っていた。
町は、数時間程度でざっくり一通り歩けるくらいの広さで。
14時ごろには再びレスタ前へ戻ってくることができた。
店内を覗くと、昼の一番忙しい時間帯は過ぎているようで比較的空いていた。
「――あ、アサヒさんいらっしゃいませ! 本当に来てくれたんですね!」
「こんにちは」
俺が席に着くと、エルルがメニュー表と水、おしぼりを持ってきてくれた。
エルルが一礼して去ったあと、何を食べようかとメニューを見ていると。
「おや、昨日の旅人さんじゃないか」
「――? あ、あの時の。レスタを薦めてくださってありがとうございます。おかげさまで着いて早々、おいしいごはんにありつけました」
「あっはっは。素直な子だねえ。私はここの女将をやってるランドラだよ。気に入ってくれて何より!」
なるほど!? 実は自分の店の宣伝だったってことかよ!
くっ……侮れないなこの女将!
まあおいしかったからいいけど! エルルにも会えたし!
俺の背中をバシバシ叩きながら大笑いする女将ランドラに、何も疑うことなくこの店へ直行した自分が少し恥ずかしくなった。というか痛い!
「もーっ、アサヒさんいじめちゃダメですよ。大事なお客様なんですからっ」
「いじめてなんてないよ。というか何だいエルル、すっかり仲良しさんじゃないか」
「なっ――そ、そんな私なんか……仲良しだなんて……」
エルルは照れているのか、あたふたしている。
耳と尻尾がせわしなく動いていて面白い。
獣人って耳や尻尾に感情が出るから、嘘がつけなさそうだよな。可愛い。
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