第13話 宿屋の特製朝ごはん(俺だけおまけ付き)
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
翌日の朝。
身支度を整えて下に降りると、昨日と同じ青い髪の女性が迎えてくれた。
一階に併設されている小さな食堂では、既に何人かが朝食を摂っている。
「ええ、おかげさまで」
「それはよかった。朝食は無料サービスのものでいいか? 席は決まってないから好きなところに座ってくれ。すぐできるよ」
「分かりました。ありがとうございます」
女性に促されて席に座ると、数分で朝食が運ばれてきた。
バケットと思われるパン二切れにソーセージ、それから目玉焼きと小さなサラダがセットになっている。
「兄ちゃん、ここに泊まるのは初めてか? リディアさんの朝食はうまいぞ! 何がいいって、やっぱり美人なリディアさんが作ってくれるとこだよな。はっはっは」
「……おい、それは褒めてるのか? うまい理由になってないぞ」
斜め前に座っていた男性の発言に、青い髪の女性――リディアは顔をしかめる。
どうやら自分よりも料理を褒めてほしいらしい。
朝食はシンプルだが、たしかに丁寧に作っているのが分かる仕上がりだった。
パンはカリふわの絶妙な水分量、目玉焼きは半熟で、ソーセージも香ばしい焦げ目がついている。サラダは千切りキャベツと薄切りの玉ねぎがバランスよく配合されていて、削りたての粉チーズとオリーブオイル、塩コショウがいい塩梅に味を引き締めていた。
「すごくおいしいです。どれも焼き加減が絶妙だし、玉ねぎも辛みが少なくて瑞々しい。玉ねぎとキャベツが混ぜてあると、飽きがこなくていいですね」
「分かるのか!? そう、そうなんだ。少しでもおいしく食べられるように、これでも結構研究したんだ」
リディアは頬を紅潮させ、朝食に対する熱い思いを前のめりでぶつけてくる。
宿屋の宿泊客は圧倒的に男性が多く、中には荒々しい雰囲気の冒険者もいる。
これまで、気づいてもらえなくて悶々としていたのかもしれない。
「――はっ! す、すまない。つい」
「いやいや、仕事熱心なのはいいことですよ」
「そ、そうか。うむ、私は仕事熱心なのだ。……そうだ!」
リディアはそこまで言ってパタパタと奥の方へ入っていき、少しして何かを持って戻ってきた。なんだろう?
「気づいてくれた礼と言ってはなんだが、サービスだ。食べてくれ」
そう言って出されたのは、プリンだった。
弾力のあるプリンにスプーンを入れると、美しく滑らかな断面を覗かせる。
「……うまい!」
「おい、ずりーぞ。オレらの方が常連だってのによお。そんなサービス、一度もしてくれたことねえじゃねえか!」
「そうだそうだ! オレらにも寄越せ!」
「うるさいぞ。味の違いが分からないヤツらに渡すプリンはない。もっと味が分かるようになって出直すんだな」
リディアはそう、ふいっとそっぽを向いてしまった。
男らも男らだが、リディアさんも店員としてその態度はどうなんだ……。
でも、この世界のこうした宿屋では普通の光景なのかもしれない。
男たちもそれ以上しつこく迫ることはなく、「ちぇっ、面白くねえ」とか「うまくリディアさんに取り入りやがって」とかぼそぼそ愚痴をこぼしながら出て行った。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした。とってもおいしい朝食でした」
「こちらこそ、気づいてくれてありがとう。明日の朝食も楽しみにしててくれ」
リディアは嬉しそうに笑ってそう言うと、軽い足取りで鼻歌を歌いながら受付のカウンターへと戻っていった。
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