第46話

「どうして勝手に決めるんですか!」

「ソニアこそ、どうして私たちの意見も聞かずに決めるんだ!」


私と王子は、声を荒げて互いの主張を押し通そうとしていた。

王子のいうことが分かる。

地竜の加護があれば、農作物だって病気もなく、大きく肥えたものが出来るし、虫だってこない。土地が元気なら瘴気だって発生しづらいし、魔物だって地竜を恐れて近づかない。

国にとってはいいことづくめかもしれないけど、それで聖女たちが犠牲になれというのは、おかしい。

聖女だって、きちんと祈りを欠かさずにしていれば、地竜ほどではないが、疫病も、土地の豊かさも支えることが出来るのだから、今いる聖女たちを大事にしてほしいと思ってしまう。

なにせ私を除く聖女が5人もいるのだから。これほど強い国もいない。


「6人もいるんだ!なら、地竜の腹を満たすほどの石を作ることくらい出来るだろう」

「王子は、作ったことがないから分からないかもしれませんが、週6、12時間労働で、ようやくですよ。それも6人がかりでようやくです!これで、誰か一人でも欠けたら、あっというまに崩壊します。こんなのを毎回やれなんて無茶です。聖女だって人間なんですよ!」

「しかし、国のためだ」

「国のためという理由だけで、生きているわけじゃないんです!無理です!こんなのを命令しようとしているあなたも、王子失格です」

「なんだと?」

「聖女は、使い捨てじゃない。また逃げられたいんですか」

「はっ!そうだった。お前は祖国を捨てて逃げてきた裏切者だったな」


―裏切者。

確かに私はそう見えるのかもしれないけど、それをこの人に言われる筋合いはない。


「……そうですね。私は、この国に居続ける理由がない」

「この国を出るつもりかっ!?」

「……さぁ」


裏切者なんて言われて、黙って貢献する人間がいるわけない。


「ソニアがいなくなったら、この国は困る人間がたくさん出るぞ」

「ほかにも聖女はたくさんいるじゃありませんか」

「……お前、最初からこの国を出ていくつもりだったんだな。だから、あの5人をこの国にとどまらせたのか」

「そういうつもりはありませんでしたが、結果としてはそうなったのかもしれませんね」

「そうやって、前の国も見捨てたのか」

「見捨ててなんていませんよ。むしろ、見捨てられたのは、私のほうですし」

「お前のような能力だけが取り柄の聖女。この国でしか役には立たないぞ」

「そうかもしれません。そうじゃないかもしれません」



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