第14話 次に行くための準備の前にすること

 斬蹴鳥が中層まで追いかけて来る、と言う情報は間違いではないが、正しくは追いかけて来ることもある、だった。

 追い掛けられた恐怖が拡大再生産されていたようだ。


 確実なのは深層の縁まで。予定より厳しい。

 戦場が広いので飛行型の敵が動き易く、逃げられる恐れもあるため、魔窟殲滅の底上げ付きの方が楽にも思える。


 二身半までの化身ならなんでもいいなら、跳狼でいいのだけど、吼猫持ちには色鷲を獲る都合で、飛行型じゃないと厳しい。

 ご大父様も親父様も跳狼で獲っているけど、傑物だから力押しで行けた。


 考えていてもしょうがないので、閨組で一番条件の良い佳鷲にやってもらう。十七枡で大狐持ち。授かり技は縮地。

 横から飛び出しての足払い、転がるより速く追い縋って首に一撃、一旦離れて立とうとするのを待って、首を斬り上げる。

 攻撃の威力も十分で、飛んで逃げられなければ勝てる。逃がさなかった。

 閨組は取り巻き扱いで佐官になっても呼び捨て。

 化身獲れたのは、装備下賜して特異な介添えした結果だし。


「こちらは、生涯若様の配下でいさせて頂きたいと存じます」

「頼むぞ。この上を獲るには野営地が必要になる。頼りになる配下が必要だ」

「お役に立てますよう、励みます」


 一身持ちだと姓を名乗れるのだけど、懸河一門にするそうだ。

 常識的には、こうやって郎党を育てて増やして行く。

 佳鷲は親父様の家臣なので子供の修行について行っても問題ないが、他所の一門から引き抜くと、衛士ではなくなってしまう。

 実力原理主義なので、どこかの一門に属していなくとも、化身持ちなら粗末には扱われないが。


 隊長の佳鷲が二十歳前に一身半持ちになったので、初子巡視隊が色めき立つ。全員が二十歳前で化身持ちの、以前では考えられない集団である。次は自分の番だと全員が思っているけど、全員無理。猟蜂もな。


 次は当然紅ヤンマだ。赤いのにしたかったんだが、緑がいた。待たせて赤を探すような場合ではない。

 足払いからの頭に絶叫を当てて縮地で突進。

 首を突いて斬り下ろして立とうとするところに絶叫。倒れたら縮地で突く。

 手数は掛かったが、一方的に仕留めた。


「まさか、この歳で一身半持ちになろうとは」

「吾の子守だからな。赤子と子守は一生のつながりなのだろう」

「はい、左様です。これにとって、若様は生涯大切な坊ちゃまなのです」


 無性に抱っこして貰いたくなったのだが、貴凰が見ているので我慢した。

 この世界では子守が春日の局になる可能性があるらしい。

 高位の者は歳を取るほど能力が上がるので、初子の子守は、信頼されているが身分はそれ程高くない者がなるのだが、彼女はとんでもない大当たりを引いてしまった。


 元の身分と今の立場が合わないので、なかなか相手が見付からない。

 彼女だけでなく、周囲の女達の相手になりそうな男も化身持ちにしてやらないといけない。


 親父様に相談してみたけど、他家の男を一身半持ちにするのは、難しいそうだ。希望者が多い上に男限定だと力関係が崩れかねない。

 実力原理主義でも強ければ上と言うものでもない。

 懸河一門では、親父様が大佐の頃から仕えていたかが重要になる。

 武人は最初の応募者の二十人とその家族が絶対的な勢力になっている。


 ともかく出来るところからで、佳鷲の両親に希望を聞くと、父親が蹴狼で、母親が斬蹴鳥。

 授かり技はどちらも強撃。狼は魔窟殲滅とセットなので、鳥から。

 愛人未満の女の母親の人妻を背負って走る。もうそんなの気にしない。

 足払って転んだら首をばっさり。倒した本人が「えっ」って言っちゃう。


 背負って連れて来るから消耗しない。二身格の武器。不意打ちが出来る。生息域よりかなり下。一撃で倒せる介添えが二人いる安心感。それにしても簡単すぎる。

 この砦の太守一門なら狼、の拘りを持っていた親父も鳥に変更。攻撃は突きだったけど結果は同じ。


 背負っていって誘き寄せをすれば、大人の双身持ちなら倒せそうなので、一門の者から試す。

 強撃持ちが多いので、転かして次の一撃が致命傷がほとんど。

 飛べるので跳狼より手強いと見なされていた斬蹴鳥だったが、転んじゃった鳥なんて、こんなもの。

 背負っては行けるけど、隠走での誘き寄せは今のところ吾一人なので、これもボーナスステージ。


 斬蹴鳥持ちの群れが出来上がったので、魔窟殲滅の翌日、今まで行かなかったエリアまで足を伸ばした。ずっと飛んでいられるのは吾と貴凰と親父様だけ。蹴狼組もいるしね。

 縮地組はUFO立体機動で一対一で四足の二身格を翻弄する。刺突と的中の絶叫を何度も浴びせられて、三身格の鹿が脳震盪で倒れる。

 親父様が「身はいらんのではないか」とか言い出す。


 大収穫の討伐の翌日、親父様に報告された。


「昨日の働きで自信がついたらしく、紅ヤンマが女として身を慕うようになった。手掛けにする」

「化身持ちになっても、生涯家臣じゃなかったんですか」

「けして手が届かんのはそなただけだ。あれだけの働きが出来る一身半なら、只の傑物には手を伸ばせる。今日よりはそなたを名で呼ぶぞ」

「こちらからはどう呼ぶのでしょう」

「普通は親の手掛けは名に殿を付けるが、子守は呼び捨てか、そなただ。が、お前でもよいぞ。前世では気の置けない者を呼ぶのだろう。たまに呼んでいたよな」

「つい、出てしまって。では、お前と呼ぶことにします」

「あれもそれが一番嬉しいと思うぞ。で、だ。色鷲を獲らせるのだな」

「はい、そのつもりです」

「うむ。子はそれから孕みたいそうだ。子が女だったら、蛇食鷲じゃしょくしゅうにしたいと言うのだが、良いか」

「それは、子の名前は親が付けるものですから」

「では、本来の発音を仮名で書いてくれ。子が授かりの儀を過ぎたら物入れに仕舞わせる」


 将来の腹違いの妹の名前がヘビクイワシになってしまった。


 紅ヤンマにあったら、「高志様」と呼ばれたので、抱っこして貰った。

「お前は生涯吾の子守だ」

「お前と呼んで下さるのですね」

「ああ、親父様に承諾を得た」

「嬉しい」


 親父様に見られる。


「何をしておる」

「子守に抱っこして貰っています」

「三つを過ぎたら、子守に抱かれたり負ぶわれたりはせんのだ」


 怒られそうなので止める。紅ヤンマが「あらあ」とほとんど見せない不満顔をした。身分が近くなってお袋様が移ったようだ。


「何時ごろに色鷲獲りに行くか、聞こうと思ったのだ。連れて行く者次第で巡視隊、討伐隊を組み直さなくてはならん」

「十歳になったら行こうと思っています。それまでは親父様の許で三身格を倒して修行したいです。一身半持ちも増えるでしょうから、同行者を決めるのは出立の半年前では遅いでしょうか」

「十分だ。更に化身持ちが増えるのは有り難い。が、猟蜂はどうする」

「やらせませんよ。最低でも十六歳です」

「出立前くらいになれば獲れそうだが」

「獲ったら色鷲獲りに付いて来ると言って聞かないでしょうから。猛剣と黒鵙の面倒を見させておきましょう。気を許すと何時までも妹のつもりで甘えてきますからね」

「そなたが言うな。今何をしていた」


 紅ヤンマの相手を探さなくてよくなったが、それで終わりにはならない。初子組も女が多い。やはり、一身半持ちの若い男を育てておく必要はある。

 懸河一門の女は、もう双身持ちの男には見向きもしない。

 懸河一門の男は外から見れば懸河一門と言うだけで価値があるのだが、中の女から見れば生身の親の子ばかりだ。

 懸河一門の女は贅沢に慣れきってしまっている。

 

 他所の男もだけど、子供が乳離れして戦列復帰した出産組も一身半持ちにする。攻撃力は十分なので、本人の希望を獲らせる。

 次が色鷲でなければ、二身半の四足獣は猛山羊もうさんようがいるので、跳狼で構わない。

 三身格の武器と狩場までの送迎、誘き寄せで希望者全員にそこまでは獲らせるつもり。

 十六歳になった享隼に獲らせた時は、お手掛けだからと我慢したのだが、元与力組十五歳的中女だった鋼棘に獲らせたら、猟蜂がうるさいうるさい。


「若様に連れて行って頂けば、ありえない幸運が起きるのです」


 判ってるよ。だからやらせない。

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