第6話 そして、新生児からの転生者にありがちな幼児無双

 精気が出るようなら、霊気放流が出来るのではないかと言われて、教えてもらった。

 よくある霊力魔力その他での身体強化ですよ。

 リンパ節みたいな霊気の溜まり場「霊叢」から筋肉に霊気を流して補助動力にする。筋肉自体にニトロ入れたような無理をさせるんじゃなくて、パワーアシストする感じ。内蔵型強化外骨格なんじゃそりゃみたいな。

 ちょっと練習したら出来た。出来るかもしれないってやらせたのに、出来たら親父様が驚く。似たような概念がありましたからと言ったら、ああそうか、で終わった。


 霊気放流が出来たら虫取りは卒業で、ちょっと大きな子と一緒に森の周辺の藪で食べられる野草なんかの採集に加わる。

 主体は神殿の世話役の人に連れられた孤児院の職人の子で、武人の子は護衛役。

 紅ヤンマが個人的な護衛役にいるし、採集組には剣蜂の妹猟蜂がいる。他の子に避けられてても寂しくないぞ。

 猟蜂は八歳で、丈の短い貫頭衣と手甲脚絆を着けてるだけ。若様はきっちり幼児用装甲一揃いを貼り付けられている。更に馬手差しの短剣。

 主武器は曲剣と呼ばれている諸刃の曲刀に刃渡りと同じ長さの柄を付けた長巻を造って貰った。


 この格好で草取りでもないので、なにか獲物になりそうな物を聞いたら、ニワトリよりやや小さめの藪鶉なるものがいるそうだ。

 これもステルスタイプで、なかなか獲れない。隠行持ちなら獲れるのだけど、それが出来るならそんな細かい獲物は狙わない。

 孤児院の子と別れて紅ヤンマと猟蜂を連れて藪に入る。猟蜂も草むしりより狩りの手伝いの方が嬉しいようだ。

 化身獲りの練習で索敵を切って歩かせる。獲る者がいないので鶉は簡単に見つかったが、近付いたら逃げられた。当たり前だけど、向こうも目でも索敵している。

 次のを見付けたら二人を反対に行かせて待ち伏せする。忍び足でこっちに来たので長巻でさっくり。


 生まれて初めての獲物なので、世話役の人に渡して神殿に寄進する。

 世話役の人は感動してくれたけど、子供達からは鶉汁への期待が聞こえる。一匹じゃ足りないだろうと思い、その後に獲れた五匹も寄進する。

 鶉の処理があるのでもう帰りましょうと言う事になって、帰り支度を始めた途端に眠くなった。紅ヤンマに言って抱き抱えて貰ったところから記憶がない。


 目を開けると、紅ヤンマと猟蜂が覗いている。


「若様、お目覚めですか]

「赤ん坊に戻ったみたいだ。済まなかったな。寝た子供って重いんだよな」


 紅ヤンマがあんまり見たことのない渋い顔をする。


「それがですね、若様をお運びするお役目を世話役の方に取られてしまいました。これは護衛ですので、手を空けておかなければいけませんから」

「あぁ、そうか。何かお礼をしないといかんな」

「いえ、若様のお役に立てただけで身に余る光栄で御座いますとおっしゃって帰られましたので、追加は失礼になります」

「相手の言葉を無視する事になるか。次からどうするかな。自分でも寝ちゃうとは思ってなかった」


 猟蜂が乗り出して来る。


「これにお命じ下さい! 負ぶい紐を持って行きます」

「大丈夫か、普通の子守と違うだろ」

「若様が倍くらい重くなられても走れます!」


 人を食うほどの魔獣が絶対に来ない訳ではないので護衛がいる程度なので、猟蜂が正式に負ぶい役になった。

 用意がなかったのは、体は三歳児中身は分別のある大人が、初日から狩りをするとは思わないからね。

 親父様も形として長巻を持たせたけど、行って帰ってくるだけと思っていたらしい。

 狩りをするなら修行になるので、十歳前後の一門の子が三人加わる。猟蜂はこの中に入るには少し早いが、負ぶい役を譲る気はまったくないので入っている。

 全員革鎧着用である。試しにおんぶされると、貫頭衣より肌が触れる部分が多い。

 

 藪鶉の他に、耳が短めで中型犬くらいの兎や、マーモットサイズの地栗鼠がいる。

 それらも普通に隠れていたら、勢子が追い立てても待ち伏せを感じ取って横に逃げるのだが、ちゃっちゃと吾に向かってやって来るので、ばっさりする。

 辻斬りみたいな商売である。獲った物は全部神殿に寄進するので儲からないけど。

 斬った感触で霊気の質の意味が判る。骨とか関係なしに大根でも切ってる感じで刃が通る。


 非常に効率が良い狩りが出来るが、隠行は攻撃力の低い猟師の能力と見られていて、授かりの儀で選ぶ者が少ない。

 また、願っても授からない事も多い。人間では適合者が少ないのだろうか。

 隠猫を獲るノウハウが確立出来れば、能力の高い武人の介添えが増えて、半身格の化身持ちの量産が可能になる。

 それが、言われてはいないけど勤めかな。


 帰ったら何をどれだけ獲れたか親父様に報告する。一人で倒していないで他の子供にも倒させた方が良いのか聞いたら、森で動くだけで十分修行になる年なので、気にしなくて良いと言われた。


「それより、猟蜂と肌を触れさせて嫌ではなかったか」

「いえ、そのようなことはありませんが」

「では、背中で良いので触れて寝かせてやってはもらえぬか。女は七つを過ぎると質の高い男の肌に触れているだけでも能力が上がるのだが、年と質の差で良い組み合わせがいなかったのだ。もし望むようなら寝る前に少し気を入れてやって欲しい。そなたから必要か聞いてやってくれ。まだ自分から男を欲する年ではないが、獲物の量が多い」

「はい、承知いたしました」


 男の余った気は出て行くだけだが、女は男の気と自分の気が混ざると吸収し易くなるそうだ。

 気が必要なら遠慮せずに言うように言ったら、遠慮しなかった。

 翌日は様子見で狩りは休みにしたので余る気はなかったのだが、済し崩しに三人体制で寝ることになった。


 一日おきの狩りを続けていると、体が三歳児のまま急激に霊気量が増えて行った。

 それに合わせて感応力も高くなるようで、紅ヤンマが同衾をとても大切なお勤めだと思っているのを感じてしまう。

 おそらく化身持ちになっても吾の子は産めない。

 そして、親父様に呼ばれた。


「そなたの霊力の発達が予想外に早い。貴凰が来るまでのつなぎと思っていたが、紅ヤンマでは二年持つかどうかだ。次に肌の合う者が家中にいるか」

「赤子の時のことでしたら、翡翠なのですが」


 親に嘘は吐けない。


「ならばよいか。紅ヤンマで溢れてしまうようなら抱き寝役を交代させよう。そなたが紅ヤンマを閨から出したくなければ、背に添わせればよい。猟蜂は同室で寝るだけで満たせるだろう」


 子守をしていた紅ヤンマは、こっちの常識では男の子とお試しで寝るくらいの歳だったんだけど、親父様と同じ部屋で寝てるだけで満足出来ていた。

 猟蜂はいいとして、翡翠の同衾にはちょっと抵抗してみる。


「翡翠は、子を産む相手を探す歳ではありませんか」

「化身持ちになるまでは決まった男を作らぬそうだ。そなたの介添えなら大狐も孤狼も怖くないと」

「孤狼獲るつもりなんですか」

「霊気の質は高い。恐れさえしなければ妙灯花が跳猫を獲ったのと同じに、左の得物を噛ませて右で斬り伏せられる。マダールを使えばやり易かろう」


 長巻の有用性が認められて、他によさそうな武器はないか聞かれたので、ジャマダハルを紹介した。刀身と腕が平行なので突き易い。

 本来の形は霊気の通りが悪いので、二等辺三角形の底辺付近に隙間を開けて指を入れる形に落ち付いたが、親父様がジャマダハルを言えなくて、マダールになった。


「十五までには斬蹴鳥を獲るつもりではいるのですが。十年待つつもりなんでしょうか」

「双身持ちの文官ならば、男はいくらでも寄って来る。四十でも三人は産める。女は能力の高い子を産みたがる。化身持ちに確実になれるのなら待つだろう」


 翡翠と寝るのが嫌だからって修行を怠る訳にもいかず、四歳過ぎには浅層で獲物を横取りに来る鷹や大き目のイタチなどの駆除が出来る様になった。

 浅層で狩りをするようになって一月後には、同じだけ生命力を浴びているのだけど、猟蜂が「お部屋にいさせていただければありがたい」状態になった。出て行く気はまったくないようだ。

 二ヵ月後には物入れの容量が一樽(一トン)を越えてしまう。主戦力にはなれないけど、付いて行くだけなら中層に行ける。


 ぎりぎりになる前に早めのお手当てで、翡翠と同衾することになった。

 これが喜色満面か、ってものを見せられた。

 女としては悪くないんだ。一言で言うと美人秘書。アスリートの武人系とは違う、柔らかな曲線美のいかにも「にょたい」な体付き。

 やらしいエルフみたいなの。エロフだっけ。悪くないどころか大当たりなんだけどね。

 まったく、乳児体験さえなければ。第一印象大事。


 エネルギー転換器みたいなつもりで抱いたのだけど、肌を合わせると悪意が何もないのが判ってしまう。

 話を聞くと、親父様が四身格持ちになってどこかの太守を任されても役に立てる能力が欲しいってことだった。妄想に近いが。

 願望を叶えてくれそうな吾が生まれたせいで、忠誠心が前のめりに暴走気味になったっぽい。

 まあ、こいつもついでに幸せにしてやろう。

 気を付けなければいけないのは、一緒にいる時間が長くなるから、うっかりお前って呼ばないようにしないと。

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