第4話 色々と判明する

 授かりの儀を済ませていない三歳児用の本物の革鎧はなくて、布で出来た儀式用の鎧を着せてもらう。

 七五三だね。親父様は天駆狼の革鎧。お袋様は例の無修正天女。武人じゃないので強健羊の鎧は装備しない。


 ちょっと先に十二歳になった紅ヤンマは奉公人から親父様の家臣になって、一身格の鹿革の茶色の革鎧を着ている。

 霊気量と質で兵士同格の下士扱いになったと大喜びしていた。

 しかも一身格の鎧は普通は中士の尉官用。親父様とお袋様がその程度の魔獣はがんがん獲って来るので、懸河部隊では下士にも支給されている。


 で、この異世界お宮参りのメンバーに、なぜか翡翠がいる。親父様は吾がこの女を気に入っていると思い込んでるんだよね。

 親父様への忠誠心と事務能力は高いので邪険にする気はないのだが、抱かれても嫌がらないイコール好き、じゃないから。

 中身が大人の対応してるだけなのに。更に抱かれた感触がお袋様は別格として紅ヤンマの次に良いのが、そこはかとなく嫌だ。

 ついでに言うと翡翠は中級文官以上の正装のサリー着てる。

 親父様が准将になって、屋敷の文官の古参はみんな一階級上がって、こいつも家人頭心得と言う小番頭みたいな地位になった。


 月一で三年通ってるけど車で連れて来てもらうので、未だにどこにあるのか判らない神殿に着く。

 神殿の方も只者ではないと判っているので、神官長様が待ち構えていた。いざ、授かりの間へ。

 広さは小学校の教室くらいだと感じた、がらんとした長方形の部屋の奥に、三重の石の円盤の上に親父様の背より高い石柱が立っていた。

 穏行が貰えるように祈ってから石柱の根元を両手で触ると、ふわっと全身が膨らむ感覚が起きた。が、それだけ。


「あれ?」

「どうされました」

「御言葉、とか、ないんですね」

「神官でなければ、創り神より御言葉を授かることはありません」

「なら、異世界のアカシックレコードを読み取るほどの感応力はないのですよね。只の転生者だったようです」


 神官長様の顔が引きつる。


「転生の記憶を、お持ちなのですね」

「はい、でも転生の途中で神様にお会いしてはいません」

「受肉していない魂に意識はありませんので、途中で神にお会いすることもありません。あなた様は、招かれ人です」

「只の転生者を招かれ人と呼んでる訳なんですか。自分が誰だったか判らないのですが」

「それは魂から最初に抜けます。個の記憶を持って転生は出来ません」


 ありゃあ。転生者って前世では普通誰かの生まれ変わりを言うんだよね。そうじゃなかったら転生の確認のしようがないんだけど。

 まあ、妄想じゃないって証明されたのもないし。

 そんなことは実際の転生者にはどうでもよいことで、霊気量を測ってもらって時間が決まっている画像通信をしてから、招かれ人について詳しく教えてもらうことになった。


 霊気量は砂袋がどれだけ入るかですぐ判る。目の前にある大小の砂袋を入れようと思いながら触るだけで消えて「入っている」のも判る。

 十キロ相当の大が三つと一キロの小が一つ入った。三十一枡ってことね。貴鳳より五枡多いだけなんだけど。転生者の霊力や魔力的なものが多いのはデフォだよね。


「三桶越えか!」


 親父様だけが声を出し、お袋様は声を出さずに「やったあ」的な顔、他の者は神官長様まで「うわっ」みたいな顔をして黙った。

 傑物や招かれ人の判定基準に関係するため、どのくらいなら凄いのか故意に教えられていないので、神官長様に聞く。


「多いんですか」

「記憶にある内では三桶越えは四人目です。三十二枡がお一人、お二人はあなた様と同じ三十一枡です」


 年齢的に一番下っ端なので四天王最弱ですね。この世界の枠内に収まっているので、チートではないでしょう。

 予約の時間があるので、遅れるといけないからと親父様に小脇に抱えられて、どやどやと画像通信用の石版モニターのある部屋に行く。

 三人掛けの縁台の、親父様とお袋様の間に降ろされる。紅ヤンマが後ろに立っているので、ひっくり返る危険はない。

 今までは自動車に乗る時とここに座る時は、頑なな親父様に抱えられていた。 

 画像が映った途端に、ご大父様と貴凰がアップになった。


「どうであった!」

「招かれ人でした」

「おお! で、霊気量は!」

「殿様も貴凰も、いま少し下ってください!」


 珍しく御良様が声を荒げて、二人がちょっと下って三人映るようになった。


「三十一枡でした」

「なんと!」


 三人とも固まったが、御良様が一番目に再起動した。


「では、貴凰はそちらの伴侶で、よいのですね?」

「はい、肌が合えばですが」


 貴凰が画面から飛び出して来ようとする。


「いつ頃来るか!」

「ちょっと待て六歳児。慌てなくても逃げないから。お前は許嫁なんだから」

「お前と言ったな! なれば此の方もお前をお前と呼ぶぞ!」

「いいけど、何かあるのか? 親父様がお袋様を呼ぶし、お袋様は吾をそう呼ぶんだが」


 御良様が貴凰を引き戻した。笑顔が何かありそうで怖い。


「そうです。親が異性の子を呼ぶか、情人以上の仲の男女の間でしか使わない呼び方です。終生この子をお前と呼んでやって下さい」

「はい」


 無駄にビビる事でもなかった。で、隠行を授かったので、介添えが出来る様になるつもりであることを言って、一緒に行動し易いように貴凰にも隠猫を最初に獲って欲しいと話す。

 修行は親許でした方が良いので、来るのは数年後になる。


「兄者人が十二だったからな! そちらの森に慣れる時間を入れて十一になったら行くぞ!」

「そんなに早く親許を離れていいのか」

「何を言うか! 伴侶の決まった身で親許にいる方がおかしいわ!」

「そうか」

「ときに、先程妙なことを言ったな。お前はなんとかだと」

「許嫁は意訳されないのか。前世の世界の風習で親同士が勝手に子供を将来夫婦にしようと決めた相手のことだ。こっちだと好きじゃないと子供が出来ないから、そんなことはしないのか」

「なんだそれは? 此の方とお前は互いに承知したのだぞ!」


 貴凰と一緒に御良様まで気色ばむ。

 

「ああ、それは心配するな。許嫁だと思っていたって事は妻にするつもりだって事だから。しかし、通じない単語や、通じても意味が違うのがあるんだな」

「何を言っているのだ?」

「実は言葉が前世のと同じに聞こえるんだ。文字は違うのに読めるんだ。今まで聞いている分には変な感じがなかったし、言って良いか悪いか判らないので地球の事は言わないようにしていたけど、これ気をつけないとだめだな。一言で破滅的な誤解を生む危険性があるんじゃなかろうか」

「……判らん」


 六歳児は考えるのを止めた。替わりに今まで黙っていたご大父様が漸く再起動した。


「そのような理由で万が一言葉で争いになるような事があっても、招かれ人であるのを話せば収まるはずだ。それより、貴凰に隠猫を獲らせられるのか」

「前世の機械文明の索敵道具なのですが、パッシブレーダーとアクティブレーダーと言うものがありまして、普通の索敵は感応力によるアクティブレーダーで、見つけ難い魔獣はパッシブレーダーで索敵の感応力を感じ取って何らかの方法で反射しないようにしているか、反射の感応力に認識阻害を被せて返してくるのではないかと。猫は感じ取ったら見つからないように逃げていると思います。大狐は大柄なので動くと見つかり易いので、潜伏でやり過ごそうとしてたまに獲れるのでしょう。意識的な索敵をせずに、目視だけで探せば見つかるのではないかと。普通の索敵がパッシブスキルになっていると、切れるのかどうかが判らないのですが」


 赤ん坊の頃の言語明瞭意味不明瞭の仕返しみたいに一気に話してしまった。ご大父様がまたフリーズしちゃったけど、だいじょぶかな? 

 こっちが概念を理解してるだけじゃだめか。母国語じゃないと意訳されないのかも? などと悩んでると親父様によしよしされる。


「俄かには理解しがたいものなので、判るように聞き取ってから、ご報告したいと思います」

「お、お、そうしてくれ」


 六歳児に理解出来ないのは当然だけど、御良様は嬉しそう。


「招かれ人の言葉ですからね、難しいのも仕方ありませんね。そちらは時間を掛けて貰うとして、剛継殿の手掛けはどういたします。招かれ人の親となれば、一人もいなければ押し掛けてまいりますよ」

「それがありましたね。三桶越えで他に考えが及ばなくなっていました」

「それも当然ですが、せめて一人、此の方の知り合いの十四、五の娘を送りましょうか。只の虫除けですから、二十歳過ぎて肌が合わなかったと言って返してくれても良いのです」

「その年頃の娘にそのような役をさせるのもどうかと思いますが」

「高志が介添えを出来るようになって、安全に半身格を獲らせて貰えば十分ですよ。高志が気に入ったら手掛けにしてくれても良いのですよ」


 そっちが本命な気がするが。自分ではハズレだと思っていたのに現地人から当りの勇者扱いされる珍しいパターンか。

 勇者は当然ハーレム展開。能力の高い男は多目に子孫を残す義務があるんだよね。

 引き気味だったご大父様が身を乗り出して来る。


「高志はどのような女が好みだ? やはり、妙灯花のように大振りの乳が良いか?」

「親父殿、招かれ人に無理強いは血族でも許されませんが」

「好みを聞いただけではないか。いずれ虫除けは必要になる。搦め手から入り込もうとするのは幾らでもおるぞ」


 それ、今アナタタチご夫婦がやってませんか。

 

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