第5話 不思議な力

「悪魔? そんなのいるの?」


 私が尋ねると、女はコクリとうなずいた。

 先ほどとは違った、深刻そうな顔をしている。


「うん。しかも、めっちゃくちゃ卑劣な奴らで、一日一人ずつ、殺していくんだ。それも、残虐なやり方で……」


 女の顔が曇る。

 あれ、すごい邪悪なオーラが漂っていたような気がしたのに、やっぱりいい人なのかな?


 にしても、この世界には、妖精、魔法、魔王ときて、悪魔まで存在するらしい。

 すごい盛りだくさんな気がするけど。


「お願い。鏡町は、私の故郷の町なの。だから、ここから降りて、住み着いている悪魔を……殺してほしい」


 うわ、必死な様子で懇願してきた。

 こういうのは、私は断れない。


「う~……どうしよ……」

「どうしてもだめっていうなら……」


 女がシャキンとナイフを構える。


「私があんたを牢屋にぶち込んでもいいけど……?」

「やるから待ってそのナイフしまって!」


 満足そうに女はナイフをしまった。

 何でそんなの持ち歩いてるんだろ……危ないよ。

 もしかして悪党仲間?


「じゃ、お願いね~」


 サラッと女はどこかに行ってしまった。


「何か面倒くさい奴と同盟? みたいなのを結んじゃったなぁ……」


 それに、まだかく乱系の魔法くらいしか覚えてないし。

 倒すってなると、人間と違う見た目だったら容赦なくできそうだけど、人間ぽかったら……。


「容赦なく攻撃魔法ドンッとか無理そうだな……もっと訓練しないとね」

『ふふふ……その時間はお前にはない…』


 えっ、何か目の前に真っ黒で目がギラギラしてて、超デカいツノも生えてるし羽生やしてパタパタ飛んでるしでマジ気持ち悪い。


『……なんだその蔑んだような目は……我は誇り高き悪魔族ぞ!』

「な~んだ、探す手間が省けた」


 人と全然違う見た目……心配して損した。

 これなら思いっきりやれる。


 杖を悪魔……敵に向けた。


水魔法ウォータ・マジカル、『水流放射アクアパワー天災カラミティ>』!」


 杖の上に、水の力が凝縮された弾が浮かび上がる。

 これじゃ仕留めきれないかもだから、追加パワーもつけておこう。


「『水輪アクアリング』」


 水の弾の周りを輪が覆う。


『ま、待て……何だその魔力は……』


 お、悪魔がビビってる。

 よし、何か自分の力を試してみたい気分になってきた。


 ちょっと大きな複合魔法にしてみよう。


植物魔法プラント・マジカル、『魔花まかバレット>』」


 ちょっと特殊な花の種、それを弾にして水の弾を囲う。

 魔力をためて、撃ち出す!


「発射!」


 悪魔は避ける暇もなく、粉々に粉砕された。

 よし、初戦闘、緊張したけどうまくできたようだ。


「あんな複合魔法を放つだなんて……本当にあなた人間?」


 女がふわふわと後ろから来る。

 私はイラっときた。


「ちゃんと人間。頼んできたのはそっちでしょ?」

「まあね」

「あ、そ、それでちょっと相談が……」


 もしかしたら、この女と仲間になれるかな? と私は思って言う。

 女は首をかしげてこちらを見ている。


「よかったら……わ、私と仲間になってくれない?」

「んー……まあ、強い奴を敵にまわしたくはないし、いいよ」


 あまりにもあっさりと答えられ、ちょっとずっこけそうになる。

 でも、拒否されるよりはよかった。

 私の貧弱メンタルがさらにボロボロになる。


 あ、そういや名前は何だろう?

 ずっと聞いてなかったから、聞くチャンスだよね?


「名前は?」

「ん、リリー。で、そっちはラン、であってるよね?」

「うん。よろしく、リリー」


 リリーっていうのか。

 いきなり来るわナイフ突きつけるわ、危ないのかと思ってるけど、可愛い名前に小柄な背丈だと、普通の女の子じゃん。


「最初に言っとくけど、裏切ったりとかはしないからね。そっちが心を読む魔法も持ってることも知ってるから」

「裏切られたら困るよ⁉」


 クスクスとリリーは楽しそうに笑っている。

 あっ、この雰囲気にのまれて聞くの忘れるところだった。


「あ、リリー、属性は何なの?」

「えっと……結構珍しい方だと思うけど。空間魔法スペース・マジカル

「へぇ……何かかっこよ」


 そういや私もそんな魔法を手に入れてた……気がする。

 何百種類も魔法があるからわかんないけど。


 にしても、こんなすぐに仲間を見つけられるとか、結構私、運がいいのかもな~。


「おいそこ! 手を上げろ!」


 えっ。

 とっさに後ろを振り返ると、完全武装の魔法警察が、拳銃を突きつけていた。


 にしてもいっつも思うけど、あのパトカー的な乗り物狭そうだな~。


 って、そんなこと考えてる暇なかった!

 ちょっと待って、杖を用意しないと――。


「あなたは下がってて。ここは、私の魔法で乗り切れる」


 自信満々、と言った様子で、リリーは私の前に立ちふさがった。

 え、と声を上げようとすると、リリーの手に魔力が集まる。


空間魔法スペース・マジカル、『虚無穴ゼロ・ホール』」


 リリーの前に、真っ暗な底の見えない穴ができる。

 空中パトカーは、悲鳴を上げながらそこに吸い込まれていった。


 ふぅ、とリリーは息をつく。

 え、普通に空間って最強じゃない?


「私の空間魔法だよ。あの世とこの世の狭間につながる穴を、自動的に作り出す。魔法警察は出れないから、きっと寿命で死んじゃうね」


 ケラケラと笑っているのが悪魔のように見えるけども、戦闘用の魔法だ。

 明らかに闘いなれている。


 凄いなあ……頑張って努力したら、私もあんな風になれるのかな?


 すると、背中にひりひりと敵意、というか殺意を感じた。

 リリーも口元を引き結ぶ。


「……あなたも感じたのね」


 リリーがつぶやくと同時に、私は横に首を傾けた。

 そこに、銃弾が飛んでくる。


 やっぱり、空から攻めてきた魔法警察の大群。

 そんなに私を逮捕したいってわけ⁉


「ちぃっ……!」


 リリーは空間で必死に銃弾を吸い込んで跳ね返すが、何しろ多勢に無勢だ。


 しかもリリーは急で、杖を準備できていない。

 安定しない魔力を使っているため、魔法警察の方がより的確に魔法を使ってくる。


「キャッ!」


 ついに、長く耐えていたリリーも、魔力をリチャージする隙を突かれ、気を失う。

 私が必死に浮かせているが、チャージしていないため限界が近い。


「……私は……!」


 何とか前に障壁を張った状態で、声を張り上げる。


「私は、いきなりこんな世界に放り込まれて、何もかも、新しくて…よくわかんない、けどっ!」


 手に――魔力を込める。


「私は、こんなところで仲間を見捨てるほど、クズじゃないっ!」


 ポケットの中にしまってあった杖が、希望の光――そんな色に、輝いた。

 私の額に虹色の紋章が浮き出る。


 この力なら……今の私なら、守れる!

 いや、守る!


『複合魔法、「始光ファースト・ライト」』


 杖の機械音が鳴り響く。

 まばゆい光とともに、手に特大の魔法弾を作り出す。


 稲妻のように、激しい音がとどろく。


 その弾は、剣の形になり、分裂した。

 これまで味わったことのない感覚。


 魔法をただ単に使うのではなく、それを極限まで研ぎ澄まし、新たな力へと進化させる――!


光魔法ライト・マジカル、『光剣一線ライトソード・バースト』!」


 空に光の筋が一瞬、飛び散る。

 次の時には、魔法警察たちは真っ二つだった。


「み、見えなかった……」

「速すぎる……最速の光魔法でも……あれほどは……ゴホッ」


 魔法警察は散り散りになって転落していく。

 私の意識はそこで戻った。


 光の剣も、額の紋章も消え失せる。


「い、今のは何……? 『始光ファースト・ライト』、かぁ……。あ、リリーは⁉」


 私は全速力でリリーの元まで行った。

 と言っても、「加速アクセラレーター」つけてるから、ほぼ一瞬よ!


 リリーは空中に横になり、気を失っていた。

 あれだけ激しく動いたはずなのに、ここまで精密に浮遊させることができるなんて……。


 ほんと、さっきのは何だったんだろ。


「って、そんなこと考える前に、リリーを治療しなきゃ!」


 そのことに気づき、慌てて炎回復魔法フレアヒール・マジカルをかけるころには、その魔法のことは忘れていた。

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