第71話 先入観

 ……これさ、訊いて良いものかどうか迷ったんだけど。

 情報の共有、しないとまずいから。


 意を決して……訊いた。


「久美子……何を言われたか、教えて?」


 すると、だ。


 教えてくれたよ。


「ニンゲン ミラ アーチ チクロ エゼル」


 単語を区切って、訊きやすく言い直してくれる。


 えっと……


 確か……


 ミラが女、メス。

 アーチが教える、伝える

 チクロが……


 チクロって何だ?


「チクロって何?」


「性交……セックスのこと」


 とすると……


 エゼルが存在する、経験だから。


「人間 女 教える セックス 存在する」


 あー、なるほど……


 あのウマ、いきなり性交経験の有無を聞いて来たのか。


 ……何聞いてるんだあの魔物!


「……もう、迷わなくていいよね? すぐ洗脳しよう」


 久美子はやる気だ。

 しかし……


 ちょっと、引っかかることがあったんだ。


「あのさ……久美子」


「何?」


 彼女には悪いけど、どうしても確かめたい。


「何であいつら、処女に拘るの?」




 それを言われて、久美子は


「知らないよ! 勝手に中古女っていって、経験済みの女を低く見てるだけじゃないの!?」


 そう、吐き捨てるように言う。

 うん。俺もそう思ってたんだけどさ……


 なんか、引っかかるんだよな。

 本でも単純に「非処女を嫌う」としか書いてなかった気がするし。


「あのさ……悪いけど、こう訊いてみてくれない……? 何故非処女を嫌うのか? って……」


 ちょっと頼むのに抵抗があったけど、俺はそう言った。

 久美子は……


「分かったよ……リズ ミラ エゼル チクロ アグミ?」


 ……イライラしながらも頼みをきいてくれたことに感謝する。


 すると


「ミラ エゼル チクロ イーガ マセル リージャ!」


 ……?

 久美子の表情がちょっと分からない。


 不可解、って感じになっていた。


「……なんて言ってるの?」


「……非処女は我が子を殺す」


 んん~?


 何か意味が分からんな。

 どうして非処女と自分の子供を殺すことが繋がるの?


 ……しばらく考えていた。


 そこで、ふと……


 ウランの契約で、魔族の里を訪れたときのことを思い出したんだ。


 そういや……

 あそこで代替わりの決闘を見たけどさ……


 ひょっとして……


「なぁなぁ……こう言ってみてくれ。……ニンゲン部族はそんな風習無い」


 俺のその言葉を聞き


「えっと……どうして?」


 そう、訊き返してくる。それに俺は


「……こんなことあり得るかどうか知らんけどさ……彼ら、人間を魔族の変異種かいち部族と思ってるんじゃないの?」


 ……俺たちの先祖がこの惑星ホシにやってきてから2000年以上経ってるのに。

 そんなこと、ありえるのかね? すっげぇドキドキしていた。


「え……そんなこと、あり得るのかな? ……2000年以上歴史あるのに?」


「うん……気持ちは分かるんだけど……頼む」


 俺が頭を下げると


「……分かった」


 そう言って了承してくれて。

 彼女はユニコーンに向き直り、俺の言ったことを魔界語で言ってくれて。


 そのまま、ユニコーンと会話をはじめた。

 内容は聞き取れなかったけど、久美子の表情を見る限り、酷い状況では無いようで。


「……オンドゥル ニンゲン トギザー」


 最後にユニコーンがそう言った。

 トギザーだけ聞き取れたので分かった。

 謝罪、って意味の言葉だ。


 会話が終わった久美子は


「……ちょっと信じられないんだけど……」


 言いながら、久美子はマスク……対ユニコーン用処女偽装声帯変換装置アイアンメイデンを外した。

 そしてこう言う。


「……あなたの言う通りだった」


 ……マジか。

 俺たちの先祖、2000年も先入観でユニコーンの怒りとまともに向き合ってこなかったのか……!


 俺たちは衝撃を受けていた。

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