第70話 非処女で何が悪い

「よっ!」


 軽い掛け声で、久美子は襲い掛かって来たマンティコアをドラゴンキラーの弾倉部分で殴り倒した。

 まぁ、37キロあるからね。

 そんなもんで殴られたらただではすまないな。


 ぶっ飛ばされて痙攣しているマンティコア。


「……銃火器なのに鈍器として使うんだ……?」


「だって弾丸勿体ないじゃない。1発5000円くらいするんだよ?」


 驚愕。

 ……たっけえ。


 で、倒れているマンティコアに駆け寄って、その耳元で囁く。

 ビクッ、と震えて。


 洗脳完了。


 こんな感じで、マンティコアを従えて歩いている。

 その数……そろそろ10に届きそう。




 ぞろぞろ。ぞろぞろ。


「だいぶ溜まって来たね」


 ニコニコ顔の久美子。


 ……うん。

 マンティコアを見つける度に洗脳して。

 洗脳したマンティコアから情報を引き出して、その後軍団に加える。

 

 闇雲に探すんじゃなくて、情報を取りながら探すのがポイントだ。

 ときには、洗脳した個体に、誘い出しをお願いしたこともあった。


 すると、マンティコアにこんな言葉を吐かれた。


「ダグヴァ!」


 ダグヴァ……?


「なぁ、久美子」


「スラヴ! ……なぁに?」


 ダグヴァって単語、知らなかったから確認する。


「ダグヴァってどういう意味なんだ?」


 そういうと……


 久美子は腕を組んで考えながら……


「……災厄だとか、地獄だとか……そういうものの擬人化概念というか……」


 そして、こう言った。


「日本語で一番近いのは、悪魔、かな」


 なるほど……


 まぁ、そんなもんかね。

 

 さて、あとはユニコーンか……




 そして。


 とうとう……そのときが。


 前方に、長く優美なデザインの一本角を生やした白馬に似た魔物……ユニコーンがいたんだ。

 危険度はマンティコアよりはマシだけどさぁ……

 厄介さはあまり変わりない気がするんだよねぇ。


 だって処女じゃなかったら怒るんだろ?

 手に負えないだろ、それ。


 そう思ってか、久美子は


「ユニコーンは洗脳できるのかな?」


 それに対し、俺


「どうだろう……?」


 絶対とは言い切れんからね。

 それありきでいくのはまずかろうよ。


 伝説では角が妙薬になるというユニコーンだけど。

 現実のユニコーンの角はただの角で。

 頭の皮が変質したものだそうで。


「うーん」


 ここで、久美子が考える。


「どしたの?」


 訊くと


「……地球での生物学上の一般論というやつを読んだことあるのよね」


「うんうん」


 先を促す。

 すると


「……角を生やすと、身体に栄養が行かなくて知性が下がるとか、そういう話を読んだことあるのよ」


「……そんなのあるのか」


 ちょっと面白いと思った。

 そして彼女は


「その説で行くと、ユニコーンが言語持ってるの変じゃない?」


「まぁ、そうかもしれないけど……」


 現実は喋るわけだし。

 それに、それを言ったら、魔族みたいな種族が現実にいるという問題はどうなんだという話だろ。

 頭を完全に潰すか、首を刎ねないと死なない生物ってどう考えても変だろ。地球の常識ならさ。


 そんな話をしてたら


「……ニンゲン ミラ アーチ チクロ エゼル?」


 ユニコーンが近づいてきて、何か言って来た。

 何を言ったのか、例によって分からんのだけど。


 久美子の顔がちょっと引き攣ったので。

 多分、相当アレなことを言われたんだろうなと俺は思った。

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