第69話 動物園と言う名の強制収容所

 マンティコア……魔界語による意思疎通が可能な肉食獣。

 その姿は、老人の顔、サメの顎、ライオンの身体、蠍の尾。

 毒は猛毒で、喰らうとまあ助からない。

 血清は……あったかな?


 ユニコーン……魔界語による意思疎通が可能な草食獣。

 長い一本角と、ライオンの尾を持つ白馬。

 特徴が……処女好き。

 どうも、声で判別できるらしく。

 非処女が話し掛けると、烈火のごとく怒るらしい。


「すみません翔子さん」


 俺は手を挙げた。


「何かしら?」


「ユニコーン対策って何かあるんでしょうか?」


 なんかさ、セクハラみたいだな。

 言ってから気が付いた。


 ……わざとじゃないんだ。


 気まずい……


 すると


「一応、あるわ」


 ……あるのか。


 そして翔子さんが箱を会議室のテーブルの上に置き。

 その箱を開いた。


 そこには……


 顔の下半分を覆い隠すような、鋭角的でカッコイイデザインのマスクが。


「これは……?」


「対ユニコーン用処女偽装声帯変換装置……アイアンメイデンよ」


 ……アイアンメイデン。


 これを装着すると、声でユニコーンに非処女がバレることは無いらしい。

 すげぇな……


「……これを装着して、仕事に出向けばいいんですね?」


 久美子の言葉は


「ええ。頑張ってね。山本さん」


 翔子さんの激励の言葉で肯定された。




「ここって、近場に海もあるから、いいリゾート地になるんじゃないの?」


「まぁね。でも、近くに原発が出来るとそうそう遊ぶという発想にならないかもしれないよ」


 山の中を一緒に歩きながら、マンティコアを探す。

 俺も久美子も制服で。

 俺は斬鉄剣。

 久美子はドラゴンキラー。

 つまり、剣と銃火器で武装していた。


「何で? 原発見えないと原発あるって分からないんでは?」


 俺がそう言うと


「ああ、原発はね……炉の冷却水を回さないといけないから、水場が必須なんだよね。だから、海辺に原発が建つことになる」


 そんなことを言われてしまう。

 ああ、そうなんだ……


「なんでそんなことを知ってるの?」


 ふと思ったから訊いた。

 すると


「私の父と兄が、古代史専門の学者だって言ったでしょ?」


 そういえば実家でそんなこと言ってたな。


 ……どうも話をよくよく聞いてみると、原子力というか、核兵器関係の古代史が専門らしく。

 それで知ってたらしい。


 ……久美子の実家に挨拶に伺うとき、IQの差で久美子の家族に認めて貰えなかったら嫌だなぁ……。


 なんて考えていたら。


「プレェェェェ!」


 しわがれ声で叫びながら、謎の獣の影が襲い掛かって来た。


 えーと……今「プレ」って言ってたな。

 魔界語で確か、獲物、って意味だよな……?


 なんて考えながら前に出て、斬鉄剣を抜く……


 いや、抜こうとしたら。


 その前に久美子がずいと前に出て。

 そいつ……


 老人の顔を持ち、ライオンの身体とサソリの尾を持つ魔物。


 マンティコアの前に立ち。


 腕を差し出して……


 危ない! なんて脊髄反射で思ったんだけど。


 久美子は、わざと自分の腕をマンティコアに噛みつかせた。

 マンティコアの牙は、3層構造になってて。

 サメみたいな感じだね。

 鋭い牙が、3列並んでるの。


 普通の人が噛みつかれたら、ただでは済まないわけだけど。


 そこは俺たち。


「痛」


 対して痛くもなさそうなそんな一言で「ああ、そういや久美子も物理無効なんだよな」というのを思い出す。


 で。


「イア ヤジル ヨウ スラヴ」


 その瞬間だった。

 マンティコアが噛みつくのを止めて、平伏したんだ。


 ……おや?




「……魔界語で洗脳してみたら、通用しちゃったよ」


 困ったような笑顔でそう言う久美子。


 マジか……

 これ、結構すごいことじゃないの?


 ひょっとしたら魔族にも通用するかもしれんわけで。


 ……まあ、通用しなかった場合の損害が酷過ぎるから、間違ってもこっちからはやれんけど。


「これで、無事この山のマンティコアは動物園送りだねぇ」


 ……強制収容所……


 ふと、何故だかそんな言葉が頭を過った。

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