第67話 藤井家訪問

 暴れる久美子を宥めて、実家に案内した。

 家の門の前で、インターホンを押す。


 ピンポーン


『はい』


 母さんの声。


「俺。大河。……婚約者を連れて来たから開けて欲しい」


 その瞬間、大騒ぎになった。




「まぁまぁまぁ! ウチの息子が最高のお嫁さんを連れて来た!」


 家に上げて貰って。

 俺は久美子を紹介した。


 すると母さんが興奮した。


 まあ、久美子は文句ないだろうさ。

 俺だってそう思うよ。


 電話で事前連絡を入れていたから、今、家には母さんの他に親父もいた。


「山本久美子です。よろしくお願いします」


 久美子はそう言って頭を下げた。

 とても感じよい感じで。

 彼女のそういう気遣いが嬉しかった。


「えーと、生まれはどこの方?」


「王都です」


「へぇ~王都の人?」


 ……まあ、田舎なんよね。

 ここ。


 田舎もんとしては、都会から嫁候補が来たんだから、反応はふたつ。


 マウント合戦か、コンプレックスか。


 母さんの目が、ちょっと気圧されている……


 ……コンプレックスの方か。

 いやまぁ、分からんでも無いけどさ。

 俺だって、ここの田舎でずっと居たら、そうなっていたかもしれないし。


「ご家族は?」


「両親と兄の4人家族です。一応、父と兄は学者をしてます」


「何の学者をされてるの?」


「古代史ですね」


 ……田舎者コンプレックスで、母さんは久美子を上に見てるし。

 受け答えがソツがないから、どんどん印象が良くなってるように思える。


 でもな。

 一個だけ、爆弾があるんよ。


「あのさ、母さん」


 思い切る。

 言わなきゃならんことだし。


 母さんの視線がこちらに向く。


 ……正直、辛い。

 もし、久美子が責められるなら、俺が庇ってあげないと。


「……実はもう、彼女のおなかには俺の子供が居るんだ」


 ……言ってしまった。

 母さんは、固まってた。

 親父は、知ってたからか、あまりリアクションは無かった。


 平民はどうか知らないけど、士族の家は手順を大事にする。

 だから、婚前交渉なんてもっての外であると考えている家がほとんど。(プロの女性を買うのはOK)

 もしやるとしても、避妊は完璧にするのが最低限の常識。


 太古の昔には授かり婚なんて言われたらしいけど。

 平民ならどうか知らないけど、士族では常識外れだ。


 すると母さんが


「……それは本当なのね……?」


 俺は……頷いた。

 そして……


「だけどね、誓って言うが、性衝動に負けて作った子供じゃない。ちゃんと愛し合って、望んで作った子供なんだ。そこは信じて欲しい」


 言い切った。

 何も嘘は言ってない。


 俺は久美子が好きで、愛していて、久美子に子供を産んで欲しくて彼女に身籠って貰った。

 これは真実なんだ。


 すると


「母さん。こいつの仕事は秘密が多い。なんか言えない事情があるに違いない」


 親父が、助け船を出してくれたんだ。

 ……俺は、これに心の底から感激し、感謝した。


 親父はそう言って、俺の方を見て、軽くウインクした。


 洒落た行為をしたつもりなんだろうか……?




 そして。

 久美子の妊娠の件について落ち着いて、母さんがちょっと席を外した。

 何か他の用事があるようで。


 久美子もそんな母さんを追いかけて、何か手伝いができないかと行動する。


 その場に、親父と、俺だけが残された。


 ちょっとだけ、訪れる沈黙。


 そこに……


「……彼女のことか? 子供が出来たっていうのは?」


 ……うーん。

 間違いじゃ無いけど、正解でも無いんだよな。


 ……他に、2人子供がいる。

 そして確定で1人引き取るから、もう1人増える。


 ……どうしようか?

 しれーっと2人育てて、気が付いたら孫が増えているパターン?


 しばらく俺は悩んだ。

 そして悩んで、正解を導き出した。


 ……あとで、久美子に相談しよ……。

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