第66話 アビス町の恐怖

「ここがあなたの生まれ育った街なんだね」


 久美子はそう、嬉しそうに言ってくれる。

 久美子の衣装は白いワンピースと白いつば広帽子。

 爽やかな衣装。清楚な彼女のイメージにぴったりだ。


 ……とても綺麗だ。


 こういうこと言うのはあまり良くは無いのかもしれないけど。

 親に紹介するのが少し、楽しみだった。


 だから……

 ここから先の出来事は泣きたくなった。


 ふたりでしばらく家に向かって歩いていると。


 犬の散歩をしている男性に遭遇した。


 その男性は……


 犬に目の前でフンをさせていた。

 そして


 犬がしたフンを、そのままにして立ち去ろうとする。


 すると


「あの、飼い犬のフンは飼い主が始末するべきでは?」


 久美子がそう、その男性を注意した。


 あ……

 俺が、マズイ、と思ったときにはもう遅かった。


「オマエが拾えクソあほんだらああああ!!」


 その男性にいきなり、怒鳴られた。

 ……泣きたくなった。


 だから言ったんだ。

 見て見ぬふりしてくれ、って。


 俺は男性が襲ってくる前に、久美子の前に回り込んで庇うムーブを取る。

 すると、男性は黙り込み、去って行った。


 ……女相手に怒鳴る度胸はあるけど、成人した男を相手にする度胸はないんよね。

 ここの男は。


「……えっと、なんで私が怒鳴られたの?」


 久美子は理解できないようだ。

 ……王都の人には理解できないのか。


 なんというか……


「ゴメン……」


 謝るしかなかった。


 その後も


 誰かが道にゴミを捨ててるのに気づいて、拾ってゴミ箱に入れたら


「キモ!」


 と言われて石を投げられる。


「……なんでゴミを捨てるのがキモいの?」


 久美子は混乱していた。


 そして


 歩道橋を歩いたら、階段の下に口を開けて上を見上げている変なおっさんがいた。


 久美子はスカートの中を覗かれていると気づき、スカートを押さえてゾッとした表情をする。


 俺は彼女を庇う位置に立ち、そいつを睨むと、そいつは逃げて行った。


 ……そんな風に、色々あった。


 そして俺の実家……純和風の平屋建ての一戸建て……が見えて来たとき


「……ねぇ」


 突如、背中から久美子に話しかけられた。

 ……その言葉がちょっと怖かったけど。


「何?」


 そう、返した。

 すると……


「……ここからあなたのご義両親に王都かどこかに引っ越してもらいましょうよ。それがダメなら……」


 がば、と久美子が俺に詰め寄って


「この街の住人を全員洗脳してモラルを叩き込みましょうよ! 2人掛かりで! ここの住人、あなたには悪いけどモラルが無さすぎる!」


 ……目がマジだった。

 うん……すごく同感ではあるんだけど……


「多分それ犯罪だから……ホント、ゴメン……」


 でも、両親の引っ越しは検討はしたいかな。

 親の介護について考えたら。

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