第6話:帝都東京では?
冬の冷たい風が帝都東京を吹き抜けていた。
参謀本部の会議室では、重厚な木製の机を囲んで海軍と陸軍の将官たちが一堂に会していたが雰囲気は今一つ盛り上がっていない。
ミッドウェイ海戦以降、敗北続きばかりか連合艦隊司令長官を続けて二名を失うという前代未聞の事件も発生していた。
絶対防衛圏を制定したがその防衛網に現存する日本軍以上の艦艇がマリナナへ殺到すると言う情報を得てその対策に追われていたのである。
そこに、急報を携えた副官が駆け込んできた。
「閣下! 緊急報告であります!」
「どうした?」
海軍軍令部総長・永野修身大将が冷静な声で応じる。
「……真珠湾が壊滅したとのことです!」
「……何?」
「うん? どういうことだ? ドイツか?」
参謀たちが顔を見合わせる。
「いえ……そうではありません」
「ならば、誰がやったというのだ?」
副官は報告書を手に取り、震える声で続けた。
「……"怪獣"による攻撃との報告です。」
「……は?」
部屋の空気が張り詰める。
「怪獣……? ふざけているのか?」
永野は怪訝な顔を浮かべた。
陸軍参謀総長・杉山元大将も不快そうに眉をひそめる。
「どういうことか、詳しく説明せよ」
副官は報告書を手に取り、震える声で読み上げる。
「真珠湾に突如、巨大生物が出現! 湾内に停泊していた全艦艇が粉々に粉砕され、航空基地、燃料貯蔵施設が全壊。太平洋艦隊司令官“ニミッツ”大将殉職! 全ての攻撃が効果なしばかりか敵は光線を放ち、基地全体を焼き払ったとのこと……」
……沈黙。
「…………」
永野はしばらく黙っていた。
そして、ふっと口元を歪めた。
「フッ……ハハハハハ!!」
「……永野閣下?」
「"怪獣"……? ハハハハ!!」
「閣下……?」
「ば、馬鹿馬鹿しい!」
「この私にそんな与太話を信じろというのか?」
「ですが、アメリカからの公式報告にあります」
「アメリカの報告など信用できるものか!」
永野は机を叩いて立ち上がる。
「"怪獣"が航空基地を焼き払った? 光線を放って燃料施設を吹き飛ばした??」
……永野は嘲るように笑った。
「アメリカもついに狂ったか!」
杉山も笑い始めた。
「まったく……勝利に浮かれてのあまり正気を失ったとでもいうのか? 敗北と認めるのが悔しいから、"怪獣"に責任を押し付けたのだろう。」
参謀たちも顔を見合わせ、失笑が漏れた。
「全くアメリカらしい。自分たちの不甲斐なさを"怪獣"などという戯言でごまかすとはな」
「ハハハハ!!」
笑い声が会議室に響き渡る。
だが、副官の表情は暗いままだった。
「閣下……実は……」
「まだ何かあるのか?」
「……現地の映像が届いております」
永野の笑いが止まった。
「……映像?」
「はい……直接ご覧ください」
参謀たちが不審な顔を浮かべる中、映写機がセットされた。
スクリーンに映し出されたのは——
真珠湾の地獄絵図。
戦艦が爆炎に包まれながら傾いて沈む。
重油に引火し、黒煙が空を覆っている。
そして、その炎の向こうに……
巨大な影。
鋭く光る棘。
燃えるような目。
波を切り裂きながら進む異形の巨体。
怪獣が咆哮する。
その口から青白い光線が放たれ、航空基地が一瞬で蒸発した。
爆発。
閃光。
戦艦が真っ二つに裂ける。
「……これは……?」
杉山の笑みが消える。
「こ、これは……トリック映像か??」
「……アメリカ軍がこのような映像を作る意味はないでしょう」
永野は沈黙したままスクリーンを睨みつけていた。
……映像が終わる。
映写機が止まり、室内は静寂に包まれる。
永野はゆっくりと椅子に座った。
表情は険しいままだ。
杉山がようやく口を開いた。
「……これが本当なら……」
「……本当なら?」
永野が杉山を睨む。
「仮にこれが本当なら……我が日本国の神々がアメリカという悪魔を倒したことになるぞ?」
「"神"……か! 天照様率いる高天原の神々か?」
永野は冷たい目をスクリーンに向ける。
「我々が"悪魔"と戦う必要があるのか?」
「……必要があるなら……神と共に勝つための戦法を考えるしかあるまい」
杉山がゆっくりと立ち上がる。
「……どうする?」
永野は沈黙した後、冷たく言い放った。
「"神"が“悪魔”を倒すのなら……我々も協力するべきだ!」
「……やるのか?」
「第一機動部隊と戦艦部隊を出撃させろ」
「大和や武蔵もですか……?」
「世界最強の戦艦であることを、"悪魔"に知らしめてやる」
永野は静かに微笑んだ。
その日、『小沢治三郎』長官率いる第一機動部隊及び大和以下戦艦部隊の出撃命令が下った。
果たして日米の戦いは起こるのか? それとも……?
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